反撃の時
メリルが天空に飛び立って数十分後、空に影が差した。
なにかが地上に降りてくる。
しかも一つだけじゃない。
二つ、三つ……いや無数にそれは存在している。
そして、その中の一つがこちらへと向かってきていた。
まさかあの影、全部『ドラゴンの獣人』じゃないだろうな。
「待たせたな。さあ行くぞ!」
俺の考えていたことは現実になった。
空からこちらへと戻ってきたメリルが空中から俺に出動を促してくる。
彼女の肩には長槍が担がれている。
やる気満々だ。
「待て、俺も行く」
俺たちを背後から引き留め、さっきまでダウンしていたエリックさんが再び戻ってきた。
その表情はダウンする前の力に満ち溢れたものになっていた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「心配するな。こう見えて人より回復は早いのでな」
どうやら本当に自負している通りに回復しているようだ。
よし、これなら戦力は十分だ。
「ガオン!」
クロが吠え、俺たちに戦意を示した。
相手が相手なだけにクロも闘志を燃やしているのだろう。
その心意気、買わせてもらおう。
「行くぞ!」
「うん!」
「ええ!」
「はい!」
「ああ!」
「おう!」
「承知した」
「ガオッ!」
俺が発破をかけ、周りのみんなが思い思いに応答した。
レオナルドさんと校長も声こそ出さないが静かに頷いて俺に意思を示す。
こうして、俺たちの意思は一つ『打倒黒幕』へと集束した。
「私が先行する。皆も続け!」
メリルは見事な急旋回と共にギルドの方へとすっ飛んでいった。
クロを飛ばし、俺は彼女の後を追う。
残った人たちはきっとオズの召喚魔法で飛んでくるから問題ないだろう。
「おいおいマジかよ……」
ギルドへと戻った俺はその惨状を見て絶句させられた。
レオナルドさんの幻術を振り切ったドラゴンは標的を追い求めてギルドの中を進撃していたのだ。
その巨大な足に踏みつぶされ、ギルドの施設が次々と破壊されていく。
「「「「「ギュオオオオオオオオオオ!!」」」」」
その時、上空からドラゴンの咆哮が轟いた。
無数に重なったそれは空気を震わせ、地上にいるすべての生物の脚を止めた。
人間と同化し、同じ意思を持つ影のドラゴンも例外ではない。
「行け!我らドレイク族の誇りにかけて、同胞の名を汚す輩を殲滅せよ!」
「「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」
メリルの号令に続き、彼女に率いられるドラゴンの獣人たちがすさまじい雄叫びを上げた。
その先頭に立ち、軍団を指揮・鼓舞する彼女の姿はさながら『戦場のプリンセス』だ。
「突撃せよ!」
続くメリルの号令に合わせ、ドラゴンの獣人たちが弾丸のごとき速さで影のドラゴンに向かって突っ込んでいく。
同じ種族の姿をしているとはいえ、偽物であれば容赦はしないようだ。
俺はそんな彼らの周囲を旋回させ、すでに別のクルセイダーが行っていた民衆の避難誘導に加勢することにした。
クロを飛ばし、上空から避難中の民衆をくまなく捜索する。
地上からは見えない全貌が空からならはっきりとわかる。
「みなさん!ここは危険です!すぐに離れて!」
大人を全力で走らせ、子供は大人に手を引かせ、時にはぐれた子供をクロに乗せて素早く戦場から離脱させる。
この作業を何度も繰り返し、ついに戦場から民衆の姿は完全に消え去った。
「タカノさん。これからどうします?」
「俺はここに残る。仲間が戦ってるんでな」
「了解です!我々は路上封鎖を敷きつつここから速やかに撤退します!」
クルセイダーの仲間と連携を取り、他の全員が撤収するのを確認しつつも俺は再び戦場へと身を投じた。
状況はメリルたちドラゴンの獣人が圧倒的に優位を取っていた。
空中を飛び回り、圧倒的な機動力での一撃離脱を集団で繰り返すドラゴンの獣人たちに対して影のドラゴンはまったく狙いを定めることができていない。
そこへオズたちが合流し、影のドラゴンへの攻撃を開始した。
エリックさんは兜を被って前線へと舞い戻り、体調が万全ではないオズはレオナルドさんの肩を借りて後方から魔法を放つ。
ユキノちゃんと校長は集中するために瞳を閉じ、ドラゴンと一体化した男に対して精神干渉を仕掛けていた。
それを守るようにアルが周囲を監視し、それに応じてミラが結界を張って二人を防御する。
「おのれ!全員まとめて焼き払ってくれるわ!」
影のドラゴンはしびれを切らし、大きく息を吸い込んだ。
間違いない、火炎ブレスの構えだ。
「メリル!奴は口から炎を吐くぞ!」
「皆よ!上へ退避だ!」
俺からの伝達を受けたメリルはすぐさま号令を飛ばし、ドラゴンの獣人たちは蜘蛛の子を散らすように上空へと離脱していく。
影のドラゴンはメリルたちを狙って火炎ブレスを吐き出すがその尽くがかすりもしない。
そして地上への流れ弾はミラとレオナルドさんがきっちりと防いでいく。
いい流れだ、これなら対策を見つけられるはず……
そんな中、俺はあることに気が付いた。
どうやらドラゴンは口からしか炎を吐けないらしいのだ。
つまりそこを封じてしまえば……
「オズ!奴の口が開かないように封じろ!」
「任せなさい!」
オズは召喚魔法を発動し、光の鎖を呼び出してドラゴンの口を縛り上げた。
口さえ開かなければもう炎を恐れることはない。
戦闘開始から結構な時間が経過した。
状況はあきらかにこちらが有利なのだがあちらが力尽きる気配がないのだ。
「奴はどうなっているのだ、どれだけせめても一向に体力が尽きんぞ」
「俺の剣で切られても再生ができるとはどういうことだ」
そうか、奴は人間の魔力で再生をしているんだ。
つまり中にいる人間をどうにかしなければ永遠に倒れない。
なんて厄介な……
「ねえアンタ!あのドラゴンの中に人が入ってるって本当!?」
戦いの中、オズが俺に確認を取ってきた。
その通りだ、あのドラゴンの中には黒幕の男が一体化している。
「おう!あの中に黒幕がいる」
「今からアタシがソイツを引っ張り出すから時間稼いでくれる?」
そういうとオズは杖を構え、レオナルドさんから離れてドラゴンに向かって走り出した。
どうやら影属性の魔法を使ってドラゴンの中に入り込むつもりだ。
「みんな!オズが教頭を引っ張り出すまでなんとか時間を稼いでくれ!」
「承知!」
「心得た!」
メリルたちとエリックさんから返答が来た。
彼女たちだけでも時間を稼げるだろうが今はそこにミラたちもついている。
ほぼ確実になんとかなるだろう。
オズは助走をつけて飛び込み、ドラゴンの中へと入り込んでいった。
頼むぞ、黒幕を引っ張り出すにはお前だけが頼りだ。




