分断された仲間たち
俺、ミラ、ユキノちゃん、グレイさん、アレンの五人は物陰に隠れながら廊下の様子を窺っていた。
影でつくられたバカデカい怪物の眼光によって俺たちは視界に光を得たものの、その光を浴びることは即ち『死』を意味するのだ。
「どうする?奴の目をすり抜けて廊下を通る方法はあるのか?」
校長がいるのはこの廊下の先にある書庫だ。
しかし廊下は怪物に睨まれていて迂闊に通ることができない。
「視線を逸らすことができればその隙に通り抜けられるはずだが……」
「その方法が見つからねえんだよなぁ」
俺たちが難儀している間、ユキノちゃんは壁にもたれかかって目を閉じていた。
大人の動きに振り回されて疲れたか……
「静かに、今ユキノが校長先生と話をしてるから」
ミラが口元で人差し指を立てながら俺たちに注意を促してきた。
そうか、ユキノちゃんは精神干渉を使って校長先生とコンタクトを取っていたのか。
これなら顔を合わせることができなくても意思の疎通はできる。
「そうか、それなら伝えてほしいことがある」
そう言いながらグレイさんはユキノちゃんへと近寄った。
「今書庫へと続く廊下が怪物に睨まれている。廊下を通らずにそちらへ通るためにはどうすればいい」
グレイさんの言葉を受けたユキノちゃんは小さく頷いた。
集中しているからか、言葉の返事はない。
そんな中、足音が一つこちらへと近づいてきた。
俺、グレイさん、アレンの三人は咄嗟にミラとユキノちゃんを囲んで守るように陣形を組み上げた。
足音の主の影が見えた。
フードを深く被ったローブ姿の男だ。
あの姿はもしや……
「ようやく合流できたね」
「レオナルドさん!?」
レオナルドさんだ!
まさかこんなところで合流できるとは。
「今までどこほっつき歩いてたんだ?」
「未来視を使って危険な場所を避けながら進んでいたら随分と遠回りをしてしまってね。すまない」
そうか、それで危険な場所を回避してきたのか。
それなら今の状況をなんとかできるかもしれない。
「お父さん、窓の向こうの怪物を避けながら廊下を通ることはできないかな?」
「……」
ミラからの問いに対してレオナルドさんは口を閉ざした。
まさか未来視の力をもってしても回避できないのか?
「……ダメか」
状況を察したアレンが落胆のため息をついた。
対するレオナルドさんも黙って首を縦に振る。
「方法はなくはないんだ。しかし……」
レオナルドさんは食い下がるように口にした。
しかしなにやら後ろに不穏な言葉が続くらしい。
「ここにいる誰かが最低一人は犠牲にならなければならない」
なんだと……
「この中で一人……」
「そう、誰か一人はあのドラゴンと戦って注意を引かなければならない」
この中で一人となると真っ先に外れるのはミラとユキノちゃんだ。
子供にそんな危険なことは任せられない。
「ここは俺とアレンが出る」
グレイさんが即決で名乗りを上げた。
その右肩にはさっきまで背中にマウントしていた大剣が担がれている。
「タカノ、お前はガキ共とレオナルドを連れて校長を救出しろ」
「しかし……」
食い下がろうとする俺に対し、グレイさんは手にした刃を向けて言葉を遮った。
相手は未知の怪物だ。
いくらグレイさんといえど、立ち向かえば命の保証はない。
「なぁタカノ、これでも俺はハンターだ。デカブツ相手は慣れたもんだ」
「俺だって腕っ節だけは自信あるんだぞ。ここは俺たちに任せとけって」
グレイさんとアレンが俺を引き離すように自負する。
しかし、俺にはそれ以上に気がかりなことがある。
「ここで二人が死んだら、誰が機動隊を引っ張っていくんですか!」
「俺たちを見くびるんじゃねえ!そんなこたぁその時に考えりゃいいんだよ」
そういうとグレイさんは俺の肩に左手を置き、顔をぐいっと俺の目の前まで寄せた。
さらに鬼気迫る剣幕で俺を睨みつける。
「お前はガキ共とレオナルドを連れて校長を救出しろ。上官命令だ」
静かにそう宣告し、グレイさんは俺を突き放した。
そして担いだ大剣で肩を軽く叩きながらアレンと並び立つ。
「ウオオオオオオオオン!!」
グレイさんは怪物の注意を引くように遠吠えをし、アレンと共に怪物の前へと躍り出た。
その目論見通り、怪物は二人の方へと視線を移す。
「行くぞオラァ!」
「おうよ!」
グレイさんとアレンは廊下の窓をその身でぶち破り、怪物の顔面に飛びかかっていった。
あの二人の意思に応えるために俺ができることは、書庫にたどり着いて校長先生を救出する他にない。
「行くぞミラ!ユキノちゃん!レオナルドさん!」
「うん!」
「はい!」
ミラたちを先導し、俺は書庫へと続く廊下を走り抜けた。
グレイさんたちが上手く注意を引いてくれているおかげで書庫まで一直線に走り抜けることができた。
レオナルドさんと合流することはできたものの、今度はグレイさんとアレンが俺たちと別れることになってしまった。
二人もオズと同じ運命を辿ってしまうのだろうか。
いや、きっと大丈夫だ。
信じよう『あの二人ならきっと大丈夫』だと。
待ってろ。
必ず校長先生を救出して、この学校を魔の手から救い出して見せるからな。




