再捜査へ
オズが力尽きた翌朝。
俺たちは意を決して陰謀の渦巻く学校へと再び突入することを決めた。
ユキノちゃんは俺の独断で一晩保護をした、後で保護者の方に謝らなければ。
「行くぞクロ」
「ガウッ!!」
俺はミラたちと一緒にクロに乗り込んだ。
クロも主が傷ついたことを察知したのか、いつもよりも表情が引き締まっているように見える。
「飛ばすぞ!」
俺はクロにサインを送り、初速からすっ飛ばした。
行先はまず図書館だ。
レオナルドさんに昨日のことを伝えなければならない。
「まさかクラリスちゃんが……」
「コイツはヤバいっス」
レオナルドさんは事態の深刻さを一瞬で理解して表情を変えた。
選定の剣を握り締め、礼装のフードを被って目元を覆い隠す。
「先行する。ミラたちのことは頼んだよ」
そう言い残すとレオナルドさんは足早に学院へと向かっていった。
レオナルドさんも相当な実力者であるとはいえ、一人だけじゃ心配だ。
早く合流しなければ。
グレイさんたちと再び合流し、俺たちは学院へと訪れた。
だがそこは、俺たちが知っているような場所ではなくなってしまっていた。
「なんだよこれ……」
俺は思わずそう口に出した。
校舎の周りは黒い靄に包まれ、暗闇に閉ざされてしまっていた。
いうなれば『一切の光が届かない場所』になってしまっていたのだ。
「どうする。俺たちじゃまともに進めそうにねえぞ」
「ウチに任せろ。ウチなら暗闇の中でもちゃんと目が見える」
暗闇に閉ざされた校舎を前に往生しているとアルが名乗りを上げた。
確かに猫の獣人の目なら暗闇の中でも目が見えそうだ。
「よし、お前が先行しろ」
「レオナルドさんを探してくれ。きっとここのどこかにいる」
「わかった!任せとけ!」
アルは俺たちに背を向けながら親指を立てると飛ぶように校舎の中へと入っていった。
元々アイツは泥棒だったし、隠密行動とかも得意だろう。
「猫だけにまかせっきりにはできん、俺たちも続け!……と、言いたいところだが」
グレイさんは靄に閉ざされた校舎を見据えながらため息をついた。
俺たちはアルのように暗闇の中で物を見ることができない。
どうにかして暗闇の中で行動できればいいんだが……
「あの……私ならみなさんの目の代わりになれますよ」
ユキノちゃんが控えめに俺たちに提言してきた。
そうか!心を読む力があれば目が見えなくてもこちらに対する脅威を回避できる。
それに光属性の魔法使いなら周囲を照らすことだってできるはずだ。
「それじゃあ、俺たちの目になってくれるか?」
「はい!お任せください!」
ユキノちゃん、変わったな。
ミラと出会わなかったらこんなに積極的にはなれなかっただろうな。
「クロ、悪いんだがここで待機しててくれ。何かあったらすぐに外の奴に知らせに行くんだぞ」
「ガオ……」
クロに待機を言い渡した。
こころなしか心配そうだ。
こうして俺たちはレオナルドさん、アルに続いて暗闇の中へと突入した。
「あれ?魔法が使えない!?」
ミラが不可思議な現象に首を傾げた。
何度も試行しているらしいが魔法で照らすことができないらしい。
全体にかかっている靄の影響か?
「他の魔法は使えないのか?」
「うーん、火もダメみたい」
「でも精神干渉は問題なく発動できてます」
ユキノちゃんの精神干渉は問題なく発動しているようだ。
どうやら『明るくできる』魔法が封じられているらしい。
直接照らす以外に視界を確保する方法はないだろうか。
「レオナルドはこんなところをどうやって進んでいるんだ?」
ユキノちゃんのガイドで進む中、アレンがふと呟いた。
魔法使いであるレオナルドさんは先にこれに気付いたはずだ。
どうやって打開しているのだろう。
「お父さんなら多分照らさなくても前に進めるよ。だって未来を見る力があるから」
ミラからさらりととんでもない事実が告げられた。
未来を見る力、所謂『千里眼』ってやつか。
それなら自分が障害物にぶつかる未来を回避していけば目の役割を果たせる。
「何か来ます!上です!」
「伏せろ!」
警告を受け、アレンは対空のアッパースイングをぶちかました。
まるで肉を殴ったような鈍い音が響き、壁にぶつかってぐちゃぐちゃと何かが飛び散る音がする。
見えないから正体は分からないが考えないようにしよう。
「助かった。ありがとよ」
「まだ来ます!前からも後ろからも!」
なんてこった。
いつの間にか囲まれたらしい。
規模はわかるが敵の居場所が掴めない。
「ミラがなんとかしてあげる!」
俺の手を振り払い、ミラが俺たちの前へと躍り出た。
光属性と火属性の魔法を封じられた中で何をするつもりだ。
「これならきっと!」
俺たちの背筋にすさまじい寒気が走った。
それと同時にミラが何をしたのか把握できた。
氷属性の魔法を使ったんだ。
「グギャ!」
「ギギギギギ……!」
俺たちを取り囲んでいた見えない敵はすべて一瞬で凍結していった。
冷気を肌で感じれば俺たちでも前へ進める。
「おらよ!」
グレイさんが大剣を、アレンがハンマーを振り回して氷塊と化した敵を片っ端から粉砕していく。
「あちらの方から人の気配を感じます!……えっ?はい……はい……わかりました!」
ユキノちゃんが俺たち以外の誰かの気配を感じ取った。
それ同時になにやら交信をしているようだ。
「校長先生です!どうやら書庫にいるらしいです!」
マジか!
校長は健在か。
目指すは書庫だ。
「グオオオオオオオオオオオン!!」
その時だった。
俺たちの耳に聞きなれた生物の咆哮が轟いた。
「おい、聞いたか今の」
「間違いない、ドラゴンだ」
ドラゴンだ。
それもかなり大きい。
「光……?」
俺たちを赤い何かが照らし出した。
光の差す方を見ると、そこにはすさまじい形相でこちらを睨む真っ赤な双眸があった。
まさか、あれが咆哮の主では……
「ヤバい!隠れろ!」
グレイさんの咄嗟の指示で俺たちは双眸から逃げるように光から身を隠した。
あれがオズに傷を負わせた張本人だと考えて間違いない。
ならば奴には火を吐く能力がある。
次に見つかれば炎の餌食になるだろう。
「早く書庫に行かないと!」
「でもあそこの廊下を通らないと書庫には行けないし……それに鍵は先生が持ってるから開けられないよ」
「校長がいるなら中から開けてもらえるんじゃねえか?」
「あ、そっか」
影のドラゴンの双眸に照らされ、僅かに明るくなった廊下の物陰で俺たちは息を殺しながら行動の計画を練った。
あれほど明かりを求めていたのに今や明かりから身を隠してるとは皮肉なもんだ。
校長の身柄と安全の確保、そして黒幕の打倒と逮捕。
俺たちに課せられた使命は大きい。
レオナルドさんとアル、二人の安否が心配だ。




