満身創痍のオズ
今回はタカノ視点の話です。
「明日、改めて捜査を行う。夜勤の連中に業務を引き継ぎ、引き続き校長の足取りを追う」
退勤間際、グレイさんから俺たちに翌日の業務が通達された。
俺たちの仕事の主な内容は事件の犯人の逮捕だ。
だが他にも人々の命を守ることも仕事。
容疑者の確保と被疑者の保護、二つを天秤にかけるならば後者の方が重い。
「お先失礼します。オズたちが心配なんで」
「おう。よろしく伝えといてくれ」
グレイさんに退勤の意を伝え、俺はクロを飛ばした。
オズは影の中に入り込んで生徒たちを救出しようとして現場に残っていた。
大丈夫だろうとは思っているがやはり心配が収まらない。
先に帰ってきていればいいんだが……
「ただいまー」
「おかえりトモユキ!」
我が家に戻り、玄関を開けるとミラの明るい声が聞こえてきた。
よかった、とりあえずミラは無事でいてくれたみたいだ。
「お邪魔してます」
ユキノちゃんも無事だったか。
となればあとはオズの安否を確認するだけだ。
「ミラ、オズを見てないか?」
「いや、見てないよ。トモユキも見てないの?」
マジか。
まだ帰ってきてないってことはよっぽど頑張ってるか、それとも何かあったかだな……
その時だった。
俺たちの眼前に金色の魔法陣が開かれた。
よかった、オズも帰ってきてくれたみたいだ。
……と、安心したのも束の間。
「ハァ……ハァ……!ただいま……!」
俺たちの前に姿を帰ってきたオズはかつてないほどにボロボロになっていた。
歩く度に足を引きずっていて、杖を足代わりにして立っているのがやっとだろうというぐらいだ。。
おまけに礼装は火に包まれたかのように穴だらけで顔や腕にも煤がこびりつき、さらにその一部は焼けて爛れてしまっていた。
右腕に至っては特に重症で表面が真っ黒に炭化してしまっている、見るだけでも突き刺すように痛々しさが伝わってくる。
「おい!大丈夫か!?」
「安心しなさい……生徒たちは全員解放したわよ……」
「無理にしゃべるな!すぐに手当するからな!」
息も絶え絶えなオズからの精一杯の報告を遮り、俺はオズを抱きかかえてすぐにソファの上に横たわらせた。
こんなになっても生徒たちを全員解放したのか。
すさまじい執念だ。
「ミラ!お前の力を貸してくれ!」
「わかった!」
俺の鬼気迫る呼び声に反応してすぐにミラが二階から降りてきた。
応急手当だけじゃ文字通りの焼け石に水だ。
傷を治すためには魔法に頼るしかない。
「……ッ!?」
一緒に降りてきたユキノちゃんはボロボロになったオズの姿を見て絶句してしまった。
世界最強の魔法使いがここまで傷を負うとは思いもしていなかっただろう。
事実、俺もついさっきまでそう考えていた。
「ッ……!ハァ……ハァ……」
オズの呼吸がかなり弱っている。
すぐにでも楽にしてやらなければ。
「お姉ちゃん!すぐに治してあげるから!」
ミラが回復魔法をかけ、オズの全身の火傷を治療し始めた。
治癒の光を浴びて徐々に火傷跡が消えていき、今朝までとほぼ同じ綺麗な肌へと戻っていく。
数分経過したころには目に見える傷は完全になくなった。
これでダメージの蓄積がなくなって回復に専念できるはずだ。
「ユキノちゃん!オズの心の中を読んでくれる?」
「は、はい!」
今のオズはは声を出すことすら難しいほどに弱っている。
それでもユキノちゃんの力があれば心の声で何かを知ることができるはずだ。
「オズ、声を出さなくてもいい。俺たちの声に対して心の中で答えてくれ」
オズは虚ろな目をゆっくりと閉じ、静かにうなずいた。
「この火傷、誰に負わされた?」
「……『大きな真っ黒の何か』だそうです」
ユキノちゃんを通じてオズの言葉が俺たちに通じられた。
『真っ黒の何か』か。
事件の黒幕が影属性の魔法使いだと仮定するなら影でつくられた魔物と考えるのが妥当だ。
大きさこそ違えど、俺たちも同じようなものに襲われている。
「こちらの攻撃が何も通じなかった。しかも火を吐いてくるとは予想外だった」
オズの魔法が通じないとは恐ろしい奴だ。
俺たちの常識が通用しないと考えてもいいだろう。
「『影の中に囚われていた生徒たちを解放するためには戦いを放棄するしかなかった。おかげでこんな無様な姿で帰ってくる羽目になった。ごめんね』だそうです」
オズの健気さが俺の胸を痛く締め付けた。
涙が出そうになったが自分の妻の前で弱さを見せたくないというプライドで感情を押し殺し、歯を食いしばってなんとか嗚咽を堪える。
「無様なもんか。生徒たちを解放してくれて感謝してもしきれない。むしろ負担をかけさせすぎたことをこっちが謝らないといけないぐらいだ」
俺はオズの手を取り、首を横に振ってオズの弱音を否定した。
むしろここまで傷つきながら他の皆を守り、人質を解放した上で生きて帰ってきてくれた。
オズじゃなければできなかったことだ。
「約束する。黒幕は俺たちが必ず捕まえてみせる、だから今はゆっくり休んでくれ」
俺はオズに力強く宣誓した。
ミラとユキノちゃんも表情を引き締め、無言で頷いて意思を固める。
「……ぁ、ぁぁ……」
言葉にもならない微かな吐息を漏らし、オズは残された力で自らの使い魔を呼び出した。
そして何かを託し、使い魔を二階へと飛ばす。
うっすらと開いた目で俺たちの顔を見たオズは手を静かに俺の手の上から滑り落とした。
どこまでも健気で頑張り屋の魔法使いは、ついに力尽きてしまったようだ。
「心の声が……聞こえなくなりました」
「……ありがとう、あとは任せろ」
オズの前で強気に言い張ってみたものの、俺の内心は絶望に満ち溢れていた。
最強の魔法使いである彼女ですらまともに相手できなかった敵を前にどう立ち向かえばいいんだ……
「トモユキ、絶対に犯人を捕まえるよ」
絶望する俺とは対照的にミラは燃え上がっている。
「私たちのために力を尽くしてくれたんです。今度は私たちが恩を返す番です」
ユキノちゃんも力強く俺に訴えかけてきた。
内気で誰かに守られてばかりだった彼女が誰かを助けるために自ら前に出ようとしている。
短い間におおきく成長しているじゃないか。
「大丈夫、だってミラたちは」
「相手が恐れている『光属性の魔法使い』なんですから!」
二人の心意気を見て俺の中に一筋の光明が差した。
大丈夫だ、きっとなんとかなる。
オズ、仇は必ず討つからな。
お前に頼り切りじゃない、俺たちだってやれるっていうところを見せてやる。




