少女たちの友情
今回は三人称視点の話です。
「うっ……うえぇ……」
雨の日の夕方。
タカノたちの家の一室、ミラの部屋にてミラの級友=ユキノ・ルーチェは声を上げて泣きじゃくっていた。
原因は今朝から起こっている騒動のことだ。
「うっ……なんで、なんで私だけ……えぐっ……」
「あれは……」
ミラはかける言葉を詰まらせていた。
ユキノには周囲の人間の感情や思考を読み取る力がある。
だがその能力が災いし、これまで数え切れないほどの苦難が降りかかってきた。
今回もそうだ。
「こんなにつらくて、怖い思いをするぐらいなら……こんな力を持たなければよかったんだ……」
「で、でも……他の皆にはないものだよ……?」
「誰も持ってないものでもそれで辛い思いをさせられたら誰だって捨てたくなるよッ!」
ユキノはミラの慰めを声を荒げて否定した。
初めて覗かせた荒っぽい顔を目の当たりにし、ミラは驚きのあまり声も出ずに呆然と固まりつくす。
「ミラちゃんにはわからないだろうけど!どれだけすごい力でも、使いこなせなければただの重荷なの!」
「……」
ユキノは感情のままに呪詛を吐き出し続けた。
対するミラも始めこそ困惑していたが次第に気持ちを落ち着け、黙って聞き続ける。
「人の考えてることが全部わかるのってすごくつらいの!力のことを黙っていれば『暗い奴』って思われるし、知られるたら今度は『気持ち悪い』って遠ざかっていくの!それが口に出てなくても全部わかっちゃうのが嫌なの!できることなら光属性でもない、ただの魔法使いに生まれたかった……」
そこまで言うとユキノは再び弱弱しく泣き崩れてしまった。
ミラは何も言わずにユキノを小さな胸の中に抱き寄せる。
「……ごめんね。ずっとつらい思いをしてるのはわかってるつもりだったんだ」
ミラはそっと言い聞かせるようにユキノに謝った。
自分の能力のせいで彼女が辛い思いをしているのはミラも理解しているつもりだった。
だがその苦しみの重さまで完全に理解できてはいなかったことを今はっきりと思い知らされたのだ。
「人の心がなんでも読めちゃう辛さはミラには分かってあげられないの、でも特別扱いされることの大変さならわかるよ」
ミラは精神干渉の魔法こそ扱えるが常に発動させているわけではない。
だからユキノの苦悩を完全に理解することはできない。
でも『特別扱いされること』への思いはミラも知っている。
「でも、私はミラちゃんみたいに強くないから……」
「ミラはユキノが思うような強い人じゃないよ。ミラだってトモユキやお姉ちゃん、他の皆にも守られてる普通の女の子なの。さっきだって、ユキノの力がなかったらミラたちは助からなかったかもしれなかったんだから」
ミラはユキノを励ますように主張した。
彼女は魔法使いとしての才覚こそ優れているが決して一人でなんでも解決できるわけではない。
今回の事件だってユキノの力がなければ形のない刺客から逃げることはできなかった。
「ユキノは自分の力に自信を持ってもいいんだよ。貴方のおかげで助けられた命が今目の前にあるんだから」
「もっと……自信を……」
「そう、逆に考え直してみようよ。さっき襲われたのも、ユキノの能力がすごくて使われると困るからなんじゃない?」
ミラはユキノを元気づけようと必死になって励ました。
それを受けてユキノも少しずつ表情を明るく変化させていく。
「だから、だからね。自分の生まれ持った力を必要ないなんて考えないでほしいの……」
はじめは必死になっていたミラも次第に声が弱弱しくなっていった。
「自分で自分を追い詰めたりなんて……してほしく……ないの……」
ミラの声が上ずり始めた。
彼女の感情の昂りがいよいよ限界に達しようとしている。
それを読み取ったユキノは顔を上げ、ミラの表情を伺い見る。
「ありがとう……ミラちゃんが本気で私を元気づけようとしてくれてるのはよくわかったよ」
ミラの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
彼女が涙を流すのは決まって誰かを思いやる気持ちが行き過ぎたときだ。
ユキノにはそれがはっきりと理解できる。
「うえぇ……笑ってくれてよかったぁ……」
ユキノはミラの頭を撫でながら宥めた。
自分を慰めてくれていたはずなのに、気が付けば自分が慰める側になっている。
なんとも不思議な気分だった。
「ふへっ……」
ミラの頭を撫でながらユキノは表情を綻ばせた。
もともと彼女はミラの銀髪が大のお気に入りであり、それを好きなだけ触れるこの瞬間は至福のひと時なのだ。
それに対して何も抵抗をせず、ただ撫でられ続けるミラの姿はまるで等身大の人形そのものだ。
「ユキノに撫でてもらうとなんだか落ち着くなぁ……えへへ」
ユキノの膝の上に乗せられながらミラはユキノに語った。
彼女もまた、頭を撫でられるのが好きなのである。
「じゃあ、もうちょっとだけ続けてもいい?」
「うん。もっといっぱいしてほしいなぁ」
雨の降る宵の時、二人の少女はスキンシップを交わし続けた。
誰よりも友達思いな少女と、そんな彼女に勇気づけられて少しずつ前へと進む少女。
少女たちの友情が、後にとある奇跡を起こすことを二人はまだ知る由もないのであった……




