反乱の影
「まさか教師の中に反乱を企てるものがいたとは……」
テオ先生がため息をつきながら独り言を零した。
どうやら裏でクーデターを企てられていることは微塵も知らなかったようだ。
自分の部屋に引きこもっていて偶然影響を受けなかった辺り、レオナルドさんに近いタイプの人なのでは?
「テオ先生、校長先生ってどんな人なの?」
「そういえば、見たことないかも」
マジかよ。
ミラたち、今まで校長先生を見たことがなかったのか。
「校長なら会ったことあるわよ」
なんで生徒たちを差し置いてお前が顔見知りなんだよ。
「どんな人なの?」
「ずーっと変なところを見てる人だったわ。目を合わせてもらったことは一度もない」
こりゃまたずいぶんな変人だな。
「私が校長先生にお会いした時もそうだった。あのお方は窓の外や手にしていた書物ばかりを見ていて私とは絶対に目を合わせることはなかった」
人と目を合わせないのか。
もしかしたら校長先生もユキノちゃんと同じ『能力』があるのかもしれないな。
「校長先生を消そうとしてるのは校長先生が持っている『能力』が邪魔になるからじゃないか?」
「能力?」
「ああ、だとすれば……」
校長先生を安全な場所へ避難させないといけない。
だがグレイさんたちと合流するのを優先したほうがいいだろう。
「オズ、いったんグレイさんと合流するぞ」
「それならここに直接連れて来てあげるわ」
そういうとオズは召喚魔法の魔法陣を開き、中に腕を突っ込んだ。
するとグレイさん、アレン、アルが次々と魔法陣の中から引っ張り出されてくる。
本当に万能だな。
「タカノ。この学校で反乱が企てられてやがる」
「俺たちもついさっき把握したところっス。早く校長先生のところへ」
合流した俺たちとグレイさんたちは互いの持っている情報を共有した。
どうやらあちらも別の方法で反乱の計画を知ったらしい。
「ところで犯人の情報は?」
「黒幕は教頭らしい。加担した教師をシメたら白状したぞ」
まさか魔法使いに生身で勝ったのか。
歴戦の獣人、恐るべし。
「生徒たちは見ましたか?」
「いや見てねえな。でも『影の中に閉じ込めてる』っつってたぞ」
なんて面倒なことをしてくれたんだ。
普通の人間である俺とグレイさんたち獣人組じゃ手が出せねえじゃねえか。
「しょうがないわね。アタシがみんなを助けに行ってくる」
オズはそういうと一瞬で身体を影の中に沈ませ、姿を消してしまった。
ここは元々影属性の魔法使いである彼女に任せるのが最善か。
「いいのか?一人で行かせちまって」
「大丈夫だ。オズは最強の魔法使いだぞ」
俺はオズの身を心配するアルにフォローを入れた。
こちらの最大戦力が欠けてしまったのは痛いが他にみんなを助ける方法が思いつかない以上はこうしてもらうしかない。
「校長室は高等部の校舎にある。私が案内しよう」
俺たちはテオ先生の案内で校長室のある高等部の校舎へと向かうことにした。
なんとしても校長先生の安全を確保せねば。
「………セヌ」
廊下から不気味な声が響いてきた。
間違いない、これは俺たちに対して発せられている。
「気配が………いっぱい!?」
多くの気配を感じ取ったユキノちゃんが動揺してしまっている。
これって黒幕が俺たちの動向に気づいてるってことだよな。
「冗談じゃねえ。ニオイは何も感じねえぞ」
「ウチの目にも何も見えないぞ」
猫の獣人の視覚で捉えることもできなければ狼の獣人の嗅覚で感知することもできない。
影属性、なんて厄介な属性なんだ。
「気配はどこからくる?」
「上からも下からも、前からも後ろからも、とにかくいろんな場所からくるんですぅー!」
ダメだ、あまりの情報量の多さにユキノちゃんがパニックを起こして頭を抱えている。
なんとかしてこの場をやり過ごすことはできないか。
「おい、敵は影の中から出てくるんだよな!?」
アレンが唐突に俺に尋ねてきた。
確かに影属性はあくまで『影』がなければ成立しないはずだ。
「それがどうした!?」
「影を消しちまえばコイツらも出てこられないんじゃねえのか!?」
……そうじゃん!
影をなくせば出てこれないじゃん!
「ミラ。魔法で周囲を照らし出すんだ!」
「わかった!」
ミラは即座に魔法を発動して周囲一帯を明るく照らし出した。
俺たちを囲む影は一瞬で消滅し、不気味な声はさっぱり聞こえなくなった。
どうやら無詠唱での魔法の発動を妨害するのは間に合わないらしい。
「なるほど。弱点は影を消されることか……」
「あ、あぁ……」
「ユキノ大丈夫?」
押し寄せる大量の情報から解放されたユキノちゃんが力なくへたり込んでしまった。
ミラが肩を持って立ち上がらせるが本人は歩ける状態じゃなさそうだ。
「この子は俺が持つ。今回は役に立てそうにないしな」
アレンはそういうとユキノちゃんを抱え上げ、左肩に担ぎ上げた。
確かに今回俺たち普通の人間と獣人たちは魔法使いたちの盾になるぐらいしか役に立たなさそうだもんな。
長丁場になれば子供に走らせ続けるのは酷だ。
俺はミラを背負って行動することにした。
「校長の身柄を確保し、安全圏に退避させる。そうしたらひとまずここから撤退だ」
「「「はいッ!!」」」
グレイさんが俺たちに指示を送った。
俺、アレン、アルは三人揃って確認の合図を返す。
「大の大人がへばるなよなぁ!」
「すまない。長年の生活の弊害が……」
途中で息切れを起こしたレオナルドさんを右肩に担ぎながらアレンが突っ込みを入れた。
本当に俺たちと同年代なのが信じられないぐらいの体力の無さだ。
「着いたぞ。ここが校長室だ」
高等部の校舎に移動し、荘厳な雰囲気の漂う扉の前でテオ先生は足を止めた。
「クソッ!開かねえぞ!」
扉は固く閉ざされている。
鍵がかけられているな。
「やむを得ん。ぶっ壊せ!」
「正気か!?」
「扉は後で直せるが校長の命は直せんぞ。つべこべ言うな!」
グレイさんの言う通り、今は人命の安全を確保するのが最優先だ。
テオ先生の制止を振り切り、両肩に担いでいたユキノちゃんとレオナルドさんを床に降ろすとアレンはマウントしていたハンマーを構えた。
「下がれッ!!」
アレンは渾身の力を込め、ハンマーで扉を豪快にぶん殴った。
荘厳な扉は音を立てて見事に粉々に砕け散り、向こう側の校長室の様子が露わになる。
「校長!」
「校長先生!」
校長室への突入には成功したものの、そこに人影はなかった。
内部をくまなく見たが隠れているような様子もない。
一足遅かったか、それとも偶然ここを離れていて魔の手を逃れているか……
「マジかよ……」
「どうにかして連絡は取れないか?」
「無理だ。校長先生との連絡手段を持つ人物はこの学校にはいない」
これじゃあ安否がわからないじゃねえか。
「……一度撤退して校長捜索の計画を改めて立てる。続きは翌日だ」
これ以上の捜査で得られるものがないと判断したのだろう。
グレイさんは撤退の指示を下した。
「ミラ、ユキノちゃんと一緒にいてやってくれ。俺はもう少し仕事を続ける」
俺はミラとユキノちゃんをクロに乗せて我が家へと送り戻した。
あんな場所に居続けるのは危険だ。
「お姉ちゃんはどうするの?」
「オズなら上手くやってくれるはずだ。今は心配するな」
オズなら大丈夫だろう。
たぶん……
校長の命と光属性の魔法使いが狙われている。
どうやら黒幕は教頭らしい。
その目的はなんだ……




