気配の正体は……
「これは……魔力でつくられた命のない存在だ」
氷漬けになった獣を調べた結果、テオ先生は確かにそう言った。
魔法ってそんなこともできるのかよ。
「影属性の魔法によってつくられたとみていいだろうね。テオ先生、教師陣で影属性を持つ人物に心当たりは?」
「ある。二名ほど」
じゃあ黒幕はそのどちらかだと考えてもいいだろう。
いったい何のためにこんなことを……
話を聞いたレオナルドさんは指を鳴らした。
すると彼の右肩に白い鷹のような使い魔が現れる。
「クラリスちゃんに今の状況を知らせに行っておくれ。今回も彼女の力が必要だ」
使い魔はレオナルドさんからの命令に対して静かに首を縦に振り、音もたてずに飛び立つと猛スピードで壁を通り抜けてどこかへと飛んでいった。
命令通りに行動しているならば行先はオズの元だろう。
「それにしても、どうして魔獣はユキノだけを狙ってきたのかな?」
どうやらミラも俺と同じことを疑問に抱いているようだ。
なぜ魔獣はユキノちゃん『だけ』を狙ってきたのだろう。
「『能力の存在』が邪魔だったからじゃないかな」
レオナルドさんが口を開いた。
確かにそれなら彼女だけを狙うのも納得できる。
だがどうやってその能力の存在を知るに至ったのだろう。
「今まで能力のことを誰かに話したことは?」
「ないですよ。知られたら気味悪がられますし……」
そうだよなぁ。
コンプレックスを自分からひけらかしたりするわけないよな。
書庫の中を見て回ったが人影は見当たらない。
しかしユキノちゃん曰く『まだ気配はここに残っている』らしい。
気配はあるのに姿が見えないとは奇妙な……
「本当に気配を感じるのかね?」
「嘘じゃないんです。本当にここから人の気配を感じるんですから」
疑いを向けるテオ先生に対してユキノちゃんは必死に弁明した。
テオ先生がなんとなく苛立っているのはわかるんだがどうかユキノちゃんのことを信じてやってほしい。
その時だった。
突然何かが俺の腕を掴んだ。
緊迫していた場面でのあまりの展開に思わず一瞬心臓が止まりそうになる。
「よう。呼ばれて来てみればこんな薄暗いところで宝探し?」
俺の腕を掴んだ人物が魔法陣の中から顔を覗かせた。
ああ、オズだったのか。
顔を見た瞬間、安堵の感じ、それにほんの少し遅れてもう一つの感情が俺の中に沸きあがった。
「ビビらせんじゃねえよ!もっと穏便に来やがれ!」
「しょうがないじゃない!ここの場所わかんないからアンタのいる場所に直接飛んでくるのが一番早かったんだし!」
ビビらされたことへの怒りの方が勝ってしまった。
彼女の言い分も理解できるんだがもっとこう、俺の寿命を減らさずに済む方法もあったのではなかろうか。
今の一瞬で二年ぐらい縮んだ気がする。
「まさかこんなところでクラリス様と出会うことになろうとは……」
テオ先生は俺とオズとのやり取りを見て引き気味になっている。
まさか一日の内にオズとレオナルドさんの両方と対面するとも思っていなかっただろう。
「で、影属性の魔獣がここにいたんだって?」
「ああ、送り主は恐らくここのどこかに潜伏している」
俺が状況を説明するとオズは杖を構えた。
「ミラ。ユキノちゃん。ここちょっと薄暗くない?」
「確かにそうかも」
「明かりをつけたほうがいいかもしれませんね」
オズがミラたちに何気なく投げた問いで俺は気が付いた。
この書庫、明かりが全くついていないのだ。
俺たちよりも先に誰かが来ていたのならば明かりがついていてもおかしくはないはずだ。
「隠れても無駄よ。今から隠れ場を全部消してあげる」
オズは不敵に口角を上げて笑みを浮かべると高らかに宣言し、あるものを取り出した。
それはオズ家が所持する魔装の一つ『原初の光』だ。
彼女によって投げ上げられた原初の光は書庫の天井付近で制止し、書庫全体を真昼の路上が如く照らし出す。
「ユキノちゃん、気配はまだある?」
「はい!書庫の入り口の方へ遠ざかっていきます!」
隠れ場を潰されたから逃げる気だな。
「させるか!」
俺はすぐに入り口の方へと飛び出した。
同時にオズが俺の行先を見据え、召喚魔法で光の鎖を無数に呼び出して扉を塞ぐ。
「クソッ!開け!開けッ!」
痩せ身の男が鎖で塞がれた扉を開こうと悪戦苦闘している。
残念だがもうあきらめろ。
俺が男の首後ろを掴み、ついに気配の正体を取り押さえることができた。
「誰かと思えばモール先生でしたか。通りで姿を見つけられなかったわけです」
テオ先生はこの人物のことを知っているようだ。
まさか教師が加担していたとは幻滅だ。
「なぜ私が影の中に隠れているとわかった?」
「こんな暗い書庫で明かりをつけずにずっと放置されてておかしいと思ったのよ。これは『隠れるための影』を作るためにこうしてるんじゃないかってね」
モール先生に対してオズが気づくまでの経緯を語った。
同じ影属性の魔法使いだから仕掛けを見破れたってわけか。
「ここで何をしていた?」
今度は俺とモール先生との至近距離での舌戦が始まった。
俺の目的は行動の真意を探ることだ。
「知らねえよ!」
「嘘をつくな!!」
こんなところに潜伏していてシラを切れると思うなよ。
「ユキノ、この人嘘ついてる?」
「うん、嘘ついてるよ」
モール先生の心中を読み取ったユキノちゃんがキッと睨みつけた。
残念だったな、こっちには最強の嘘発見要員がいるんだ。
「次に嘘をついたらどうしようかなぁ……」
オズが杖を掌で打ち鳴らしながら脅しをかける。
本当に残念なんだがコイツは本当にやりかねないぞ。
「アンタは次の内のどれを望むのかしら。丸焼き?氷漬け?それともドラゴンの餌?」
「わかった!話す!話すから命だけはお助けを!」
今のオズはまるで魔法使いたちが畏怖する暴君のような立ち振る舞いをしている。
俺は思い出した。
彼女は屈指の武闘派魔法使いの集団であるオズ派を率いる当主であるということを。
「頼まれたんだよ!光属性の魔法使いを探せって!」
「なぜそんなことを」
「邪魔になるからだよ。これから起こす革命のために」
「革命?」
「ああ、この学校を根本から変える革命だ」
おいおい、校内でクーデターかよ。
そいつは穏やかじゃねえな。
「首謀者の名は?」
「それだけは……それだけは言えねえ!」
頑なな奴だ。
小物っぽいと思っていたが少しは見上げた根性があるじゃないか。
「レオナルド」
「手荒なことはしたくなかったが……娘たちを巻き込もうとした罪は重い」
オズにコンタクトを受けたレオナルドさんは心底残念そうにそう言うとモール先生の全身を一瞬で氷の中へと閉じ込めてしまった。
以前もそうだったが、彼はミラを危険にさらした相手には本当に容赦がない。
「えぇ……」
「まさか本当に実行してしまうとは……」
ユキノちゃんとテオ先生は二人の行動にドン引きしている。
驚いただろう、これが魔法使いの二大権威が手を組んだ結果だ。
「早くグレイさんたちと合流しよう。このことを知らせないと」
クーデターが企てられているとなれば生徒たちが危険に巻き込まれる可能性がある。
グレイさんたちにもいち早く知らせてなんとしても阻止しなければ。
ユキノちゃんの能力を頼りに、俺たちはグレイさんたちのものと思わしき気配のする場所へと急いだ。




