学院捜査
俺たちはまず捜査を先行しているグレイさんたち三人に合流することに決めた。
ミラですら全容を把握できていないほどの広大な校内を逐一歩き回って探すのは骨が折れる。
そこで俺たちはユキノちゃんの心を読める能力を頼りにグレイさんたちを探すことにした。
「どうユキノ。あの三人はどこにいる?」
「あっちの方かな、僅かにだけど他と違う感情がある」
ユキノちゃんに導かれるままに俺たちは廊下を進む。
それにしても学校の様子がおかしい。
廊下を歩いても歩いても生徒どころか教師たちにも遭遇しないのだ。
「この近くから誰かの気配は感じられるか?」
「いや、何も感じないです」
本当に人がいないってことか。
逆に考えるんだ、こんな時グレイさんならまずどこを目指す。
……そうだ!
「人の気配が多いところを探ってくれないか。そこへ進む」
グレイさんが進むとしたら人が多いところだ。
嗅覚に優れる狼の獣人なら場所を正確に探り当てるはずだ。
探索と捜査の道中、ユキノちゃんはとある一室の前で足を止めた。
「どうしたのかな?」
「ここから他と違う感情が読み取れたんです。もしかしたらここにいる人が何か知ってるかも」
見たところ授業用の教室ではなさそうだな。
ということは中にいるのは先生だろうか。
俺は扉をノックした。
返事の声はなかったものの、誰かの足音がこちらへと近づいてくる。
俺はミラとユキノちゃんを庇うように構えた。
「はい……なんだね君たちは」
中から姿を現したのは壮年の男性だった。
恐らく教師の方だろう。
よかった、話を聞かせてもらおう。
「俺、こういう者です」
俺は左腕に付いたクルセイダーの腕章を見せた。
すると壮年の男性は理解したように息をついて頷いてくれた。
どうやら教師の中でもクルセイダーの存在は認知されてるらしい。
「クルセイダーの方がここに何の用かね。あと奥にいるのは……中等部のミラ君とユキノ君か」
ミラとユキノちゃんのことを知っているようだ。
ということは二人に関わっている教師か。
「失礼ですがお名前は?」
「テオ・ソリウス。詠唱魔法の教師だ」
よかった、本当に学校関係者だった。
俺はテオ先生に今ここで起こっていることについて簡潔に説明した。
「つまり、校内の人間が何者かに操られている可能性があると」
「はい」
「私も力になろう。生徒を守るのは本来ならば我々教師の務めだ」
事情を説明されたテオ先生は一発で理解してくれた上に協力の意まで示してくれた。
よかった、ちょっと堅物だけどいい先生っぽいぞ。
「なるほど。通りで妙に静かだと思ったわけだ」
「先生なにか知りませんか?」
「知らん。昨夜からずっとこの部屋に籠っていたのでな」
ミラの質問に対してテオ先生はあっさりと答えた。
逆を言えば部屋から出なかったからこの事件に巻き込まれずに済んだのかもな。
「そこにいるお方はもしや……?」
テオ先生は俺たちの後ろにいるレオナルドさんの存在に気付いたらしい。
というかようやく気が付いたのか。
「レオナルド・マーリン。マーリン家第十三代当主だ」
「これはこれは。まさかこんな場所でお目にかかれるとは」
テオ先生はレオナルドさんの手を取ると固い握手を交わした。
過剰に驚いたりしない辺りは年長っぽさを感じるな。
「しかし、ただ歩いて進むだけだと退屈だね」
レオナルドさんが後ろでぽつりと呟いた。
この人でも退屈という感情があるのか。
「普段なら誰かしら生徒や教師が渡っているものだが……廊下とはこんなに広いものだったか」
テオ先生は周囲の様子を見まわしながら独り言を零す。
教師という立場上、常に生徒たちを見ているから誰もいない風景が新鮮なのだろう。
「こっちです。この先から強い気配を感じます」
ユキノちゃんは廊下の先にある扉を指さした。
あそこは何をする場所なんだ。
テオ先生なら知っているか。
「あそこは魔法書の書庫だ。教師の許可なく立ち入ることはできないはずだが……」
なるほど。
つまり図書室みたいな場所だな。
隠れるにはもってこいの場所だ。
「ところで、さっきからユキノ君の言っている『気配』とは何のことだね。説明してもらいたい」
この能力、先生も知らなかったのか。
「人の感情を読み取る力があるんですよこの子」
「ほう。つまり、その力で普段と違う『気配』を読み取った君は今回の事件に被害者として巻き込まれることを回避できたと。そういうわけか」
めっちゃ理解早いなこの人。
マジでレオナルドさん並ではなかろうか。
「では、開けるぞ」
テオ先生に鍵を開けてもらい、俺たちは書庫へと入った。
「随分と広い書庫じゃないか」
レオナルドさんは中の様子を見て感心している。
確かに、ここだけで図書館の一フロアにも匹敵する貯蔵量だ。
「ここは本来、図書館で管理しきれなくなった書物を保管している場所だ」
ということは図書館と学院はつながりがあるってことだよな。
レオナルドさんはこのことを知っていたんだろうか。
「こんなところに人がいるのかな?」
「見たところ人影はないようだが……」
次の瞬間だった。
「後ろから何か来ます!」
ユキノちゃんが突然鬼気迫る様子で警告を発した。
俺は咄嗟にユキノちゃんを抱えて防御態勢に入った。
そして次の瞬間、俺の背後を真っ黒な何かが紙一重で通り過ぎていく。
「あれはなんだ……?」
「真っ黒な……動物?」
俺たちの前に姿を現したのは真っ黒な四足歩行の獣のような何かだった。
明確に俺たちを睨みつけている。
「タカノ君はミラとユキノちゃんを守ってくれ。コイツは私たちが相手をする」
レオナルドさんはテオ先生と並んで謎の獣と対峙した。
俺はミラとユキノちゃんを連れて本棚の陰に身を隠し、様子を窺った。
獣は猛り狂った唸り声と共にレオナルドさんとテオ先生……ではなく、ユキノちゃんを狙ってまっすぐに飛びかかる。
目の前の相手を無視して突っ込んでいくのに意表を突かれたか二人は意表を突かれて一歩出遅れてしまった。
「危ない!」
俺は咄嗟にユキノちゃんの前に飛び出した。
そして次の瞬間。
「ッ!?」
獣の爪が俺の身体を引き裂いた。
その一撃によって制服にいともたやすく爪痕が刻みつけられた。
「させるかよ!」
俺はすかさず獣の首を掴んで押さえつけた。
獣は振りほどこうと激しく暴れまわるが俺も必死の執念で押さえ続ける。
「タカノ君!そのまま押さえていてくれ!」
レオナルドさんからはそういうと杖を構え、獣に向かって魔法を発動させた。
獣はいともたやすく身体を凍りつかされ、声を発する間もなくその場に倒れこむ。
「トモユキ大丈夫!?」
ミラがすぐに俺の元へ寄って来た。
「まあな、どうってことねえよこれぐらい」
「そんなわけないじゃん。ケガしてる!」
とは言ってみたものの、実際は出血を伴うケガを負ってしまった。
見かねたミラによって回復魔法をかけられ、傷は元通りに修復される。
あの獣は明確な悪意をもってユキノちゃん『だけ』を狙っていた。
首謀者の目的は一体なんなんだ……




