ユキノからの教え
今回はタカノ視点の話です。
とある休日。
その日はミラは昼前からユキノちゃんを招いて勉強会を開いていた。
なんでも珍しいことにミラが勉強を教えてもらうらしい。
ということはミラにできないことがユキノちゃんにはできるっていうことだよな。
彼女にはいったいどんな技能があるんだろう。
「なあオズ。ユキノちゃんにどんな能力があるのかミラから聞いてるか?」
「聞いたわよ。『精神干渉』ができるんだって」
精神干渉、それはミラが現在最も欲している能力だ。
その能力を持った人物が中等部の友達の中にいたとはなんとも運命的なめぐり合わせだな。
「でもあの子、精神干渉をあんまりいい能力だと思ってないみたいね」
ふと、オズは窓の外を眺めながらそう呟いた。
心に干渉できる魔法って便利そうだと思うんだがなにかあったんだろうか。
「本人から聞いたのか?」
「いや、アタシの推測なんだけどね。ユキノちゃん、無意識に精神干渉を発動してるから人の感情が全部読めちゃうのよ。満腹なのにずっと水を飲まされ続けてるようなものね」
例え話でようやく理解できた。
読みたくない感情までひっきりなしに読めてしまうのは俺でも嫌だ。
あの子がこれまで周囲から疎まれてきた理由はそこにあるのだろう。
「自分に向けられる悪意も全部理解できちゃうからそういう人たちを避けている内に友達を作れなくなっちゃったのかしらね」
「そこへ悪意のないミラが手を差し伸べてくれたと」
「そういうことよね」
ここ最近、ユキノちゃんはミラと一緒にいるときは過剰なほどにべったりとミラにくっついている。
それは自分に全く悪意を向けず、むしろ友好的に接してくれるミラのことがよほど大事だからというのもあるだろう。
だが裏には今まで友達を作れなかったからコミュニケーションの距離感がわからないというのがあるはずだ。
ミラもかつては歳の近い友達がいなくて同じようなコンプレックスを抱いていたな。
「ちょっと聞き耳立ててこようかな」
「やめなさいよみっともない」
オズに窘められたがしかし、俺の身体はすでに階段を上っていた。
もう止められない。
さて、階段を上ってミラの部屋の前までやってきた。
壁の向こうからでも声は聴こえるので聞き耳を立てれば会話の内容は丸わかりだ。
「ねえミラちゃん。どうして精神干渉の魔法を覚えたいの?」
ユキノちゃんがふとミラに疑問を投げかけた。
口調が弱弱しい。
オズの推測通り、自分の能力をいいものだとは思っていないのだろうか。
「えーっとね……ミラは将来お医者さんになりたいの」
「お医者さんに?それと精神干渉が何か関係あるの?」
「前にトモユキの生まれ故郷で読んだ本の中に『病は気から』っていう言葉があったの。病気は弱った心から発生するものっていう意味なんだって」
いつか前にミラが精神干渉系の魔法を使えるようになりたいと言っていた理由がはっきりと分かった。
あの子はすでに精神的な病気の存在に気づいているんだ。
だからその原因を直接探れる精神干渉の魔法を必要としている。
「あのね、私は物心ついたころからずっと人の心が読めちゃうの」
ユキノちゃんはミラに自分のことを打ち明けた。
オズの推測は正解だった。
彼女は無自覚に心を読める、そしてその能力を周囲から疎まれていたから自分に自信が持てない。
「みんな心を読まれることを怖がって、この力をからかわれて、それで自分に自信持てなくなっちゃって……」
「どうして自信なくなっちゃったの?すごくいい能力なのに」
「本当にそう思う?……って聞くまでもなかったね」
ミラの心を読み、そこに嘘がないのを確認したユキノちゃんはため息をついた。
「じゃあ、発動のための詠唱を教えるね。精神干渉の発動のために必要な小節は『サンティマ』、そこから感情を覗くために付け加えるのが『デビュ』やめる時には『ファン』を後ろに付け加えるの」
「わかった。じゃあやってみるね」
「待って!」
精神干渉を発動させようとするミラをユキノちゃんは強い口調で引き留めた。
突然の大声にミラは驚いて固まっている。
「サンティマ・デビュだけで発動すると周囲の人全員の心を無制限に全部読んじゃうよ。だから『デビュ』の後に『ソロ』を付け加えて読む対象を一人に絞らないと」
なるほど、ひと手間加えないとユキノちゃんと同じ状態になってしまうわけか。
いくらミラといえどもすさまじい量の情報が一気に流れ込んできたらパニックを起こすに違いない。
「そうだったんだ。教えてくれてありがとう」
「じゃあ今度こそ試してみよっか。あの壁の向こうに」
ユキノちゃんの一言に俺は心臓を止められそうになるほど吃驚した。
俺は見落としていたのだ。
『近くにいるすべての人の感情を読み取れる』ということは『姿を隠していても気配でバレる』ということを。
気づいたときには時すでに遅し。
「サンティマ・デビュ・ソロ」
ミラが詠唱を行い、精神干渉の魔法を発動させた。
いや、まさかな……
ハッタリだよな、うんそうだそうに違いない。
「悪いけど本当に読めてるしそこにいるのが誰なのかもわかるよ、トモユキ」
マジでバレてた。
なるほど、千里眼的な使い方もできるのか。
「いやぁすげえなぁ」
隠れていてもどうせバレるので俺は諦めて堂々とミラの部屋の扉を開けて二人の様子を窺った。
「うへへぇ~、すごいねミラちゃ~ん。すぐに使えるようになるなんてぇ~」
ユキノちゃんは恍惚とした表情でミラを後ろから抱きしめている。
もしかしてミラに友情以上の何かを抱いてないか?
「ユ、ユキノ……ぐ、ぐるじい……!」
顔から血の気が引いたミラがユキノちゃんの腕を何度もたたいている。
よく見るときれいにチョークスリーパーの構えが出来上がっていた。
このままだと血流が止まって締め落とされそうだ。
「マジでヤバいから放してやってくれ」
俺はユキノちゃんに解放を促した。
「あぁ!?ごめんね!ごめんねごめんねごめんね!!」
ミラの顔を覗き込んだユキノちゃんは慌てて腕を離し、何度も何度もミラに謝っていた。
というわけでミラが精神干渉の魔法を取得した。
これからユキノちゃんと一緒にその力を伸ばしていくのだろう。
すごい力だし、うまく活用してくれればいいなぁ。




