決着の時
試合開始からかなりの時間が経過した。
メリルとレオネルの激闘はいまだに終わる気配がない。
メリルは戦法を変え、翼を使った高速飛行を止まることなくレオネルの周囲を旋回しながら死角からの奇襲を喰らわせて即座に離脱するヒット&アウェイを仕掛けている。
飛行能力を活かした圧倒的な機動力を前にレオネルは手を出せずに苦戦を強いられていた。
メリルの手足を覆う鱗が切れ味鋭い武器として存分にその威力を振るい、打撃を叩きこむたびにレオネルの肉体をズタズタに切り裂く。
見るも痛ましいほどの傷を身体中に負ってもなおレオネルは耐え続けて反撃のチャンスを待ち続けている。
これだけ一方的な展開になりながらも両者の表情は緊迫感に満ちていた。
機動力では圧倒的にメリルに分があるものの、一度距離を詰められればレオネルが一気にパワーで押し切ってしまうだろう。
いかに捕まらずにレオネルを削りきれるか、一瞬の間にそんな駆け引きが二人の間で行われているのがわかる。
「ウッ……ウオオ……ッ!」
嵐のように吹き荒れる打撃に晒され、レオネルはついに片膝をついた。
とうとう彼にも体力の限界が訪れようとしている。
「とうとう奴が絶対王者から陥落するのか……?」
観戦していたアルが独り言を零した。
レオネルがついに王座を降りる時が来るのだろうか……
「ヤアアアアアアアッ!!」
フィニッシュを狙うメリルは高度を付け、右膝を突き出して急降下を繰り出した。
ただでさえ素でも刃の一閃にも等しい威力の蹴りなのにスピードと体重を乗せられたらレオネルでもひとたまりもないぞ。
レオネルは膝をつき、立ち上がろうとするが身体が動かない。
「ヤバい!決まるぞ!」
「ッ!!」
メリルの膝が目前に迫ったその瞬間、レオネルは顔を上げて最後の力を振り絞って立ち上がると両腕を構えて攻撃を受け止める態勢を作った。
なぜだ、なぜ奴は攻撃を受けようとする。
「ウオオオオオオオオオオッ!!」
レオネルは一歩も引かず、メリルの膝蹴りを真正面から受け止めた。
殺しきれない衝撃に押され、レオネルの身体が大きく後退する。
「何ッ!?」
「悪いが俺は負けたくないんでな、倒れるわけにはいかんのだ」
決め手になると確信していた攻撃を受けきられ、メリルは動揺を見せた。
そしてその直後、再び表情を荒げてレオネルを睨みつける。
「ガオオオオオオオン!!」
レオネルは最後の咆哮と共にメリルを豪快に投げ飛ばした。
クラッチが掛かっていなかったためにメリルは空中で姿勢を制御して着地してみせる。
「ウオオオオオオオオオオッ!!」
「ヤアアアアアアアアアアッ!!」
両者は拳を構え、レオネルは地上をメリルは空中を翔けて正面から突っ込んでいく。
ついに勝負がつくか……?
「グホアッ!?」
「グハァツ!?」
両者の拳は互いの顔面を打ち抜いた。
メリルは地上へと墜落し、よろよろと後ろへ後退していく。
対するレオネルも事切れたかのように力なくよろめく。
「まだだ……倒れるわけには……」
「最後まで……立っていれば……俺の……」
メリルとレオネルは最後まで闘志を見せつけながら同時にダウンした。
どちらも立ち上がる気力は残っていないらしく、ピクリとも動かない。
審判が両者の状態を確認し、どちらも試合継続不可能とみなして試合の終了を宣告した。
結果は共倒れによる引き分けだ。
空前絶後の死闘を繰り広げた二人に対し、観客は立ち上がって惜しみない拍手を送った。
大歓声で意識を取り戻したのか、メリルとレオネルは同時に上体を起こす。
「地上でこれほどの戦士と出会えて私は嬉しい」
「まさか俺が倒されちまうとはなぁ……いやあ、お前は強い」
立ち上がった両者は歩み寄り、固い握手を交わした。
二人の間には戦いを通じて確かな友情が芽生えたのだろう。
その光景に再び観客は沸きあがって盛大な拍手を送る。
「どうだ、ここの看板を俺と背負わねえか」
「ありがたい申し入れだがそれはできんな。私は空に帰らねばならんのだ」
「そうか、そいつは残念だ」
提案を撥ねられ、レオネルは心底残念そうにため息をついた。
やっぱり心根はどこまでも単純でストイックな奴だったんだ。
「でもまた地上に訪れることがあれば、その時はまた存分に試合をしようではないか」
「おう!楽しみにしているぞ」
いいものを見た。
戦いを通じて地上と空の間に確かな友好が築き上げられたのだ。
「感傷に浸ってるところ悪いんだけどさ、時間ヤバいんじゃねえの?」
「あっ……」
アルに尋ねられ、ふと仕事のことを思い出した俺は慌てて時間を確認した。
「ヤバい!」
「もう午後の業務が始まっちまうぞ!」
もう時刻は十二時二十分を回っていた。
十三時からは午後の業務の時間、間に合わなければ大目玉だ。
俺たちは慌てて闘技場を飛び出した。
その日の夜、メリルはまたミラから治療を受けながら怒られていた。
かつてないほどにボロボロになって帰ってきたからだろう、いつもよりミラの表情も膨れ上がっている。
「それで、またこんなになるまで戦ってたの?」
「すまないな。また約束を破ってしまって」
ミラの回復魔法でメリルの傷はみるみる内に癒えていく。
「どうしてそんなことしたの?」
「もうすぐ地上を離れるだろう?だから最後に思い出作りでひと暴れしたくなってな……闘技場でやれば迷惑をかけることもなかろう」
メリルはメリルで考えがあった。
それを理解したミラは不服そうではあるものの咎めるのをやめた。
「……楽しかった?」
「ああ、今までのどんな戦いよりも心躍った」
「そう、楽しかったならそれでいいや」
もうすぐメリルは地上を離れて空に帰っていく。
残されたわずかな時間、彼女にはいい思いをしてもらいたいものだ。
次回で十二章は完結になります。




