猛る烈火竜
今回は三人称視点の話です。
エリックと邂逅を果たした翌日のこと。
メリルは気配を頼りにエリックの元へと向かっていた。
メリルにとってエリックは気にくわない存在だった。
理由は二つ、彼がドラゴンに対して並々ならぬ殺意を抱いていること、もう一つは自分の親友であるミラとの関係を脅かす存在であるからであった。
「見つけたぞ……」
黒い甲冑と兜を身に纏ったエリックを発見したメリルは一気に距離を詰めた。
彼女の気配を感じ取ったのか、エリックもまたメリルの方へ振り向いた。
「まさか自分から会いに来るとはな」
「すっとぼけるな、前回もそうだっただろう」
以前エリックとメリルが出会った時もそうだった。
エリックの放つただならぬ気配に惹かれ、メリルはやって来た。
今回もそれと同じ手法で二人は巡り合った。
「あれから少し考えたのだが。お前の望み通り、戦いを受けることにした」
「随分な気の変わりようだな」
「私はドラゴンの獣人。やはり戦いを求める本能には抗えぬようでな」
メリルの言葉にエリックはわずかに口角を上げた。
その表情はさながら『こうなることを望んでいた』と言わんばかりであった。
「だが私から提案がある。戦う場所を選ばせてくれ」
「……いいだろう」
メリルとエリックは舞台を変え、地下闘技場へと足を運んだ。
かつてメリルが無意識に壊滅させた場所だ。
「ここなら地上の寒気に晒されることはない。お前も戦う相手が全力を尽くせないのは不服だろう」
「無論。自分より弱い相手を相手にしてもつまらんからな」
舞台を整え、二人は臨戦態勢に入る。
メリルは上着を脱いで翼を大きく広げ、エリックは兜を被り剣を抜く。
「いざ、尋常に……」
その言葉と同時にメリルは片足を引いて身を屈め、エリックは抜いた剣を構えて集中力を高める。
構えた剣はエリックの意思に呼応し、青い光を刀身に走らせる。
「「勝負!!」」
一呼吸の間を置き、両者の激突が始まった。
地面を抉るほどの力で蹴り抜き、メリルはエリック目がけて突っ込んでいく。
「てりゃあああッ!」
メリルは爪を振り上げ、目にも留まらぬ速さで一撃を繰り出した。
対するエリックは刀身に左手を添え、剣を盾代わりにして一撃を受け止める。
「人間にしてはやるではないか」
爪と剣を競り合わせながらメリルはエリックに顔を近づけ、不敵な笑みを浮かべて見せ煽る。
「これぐらいでないと一国を護る騎士は務まらん」
エリックは謙遜しつつも心を躍らせるように煽り返す。
「いい、それでこそ張り合いがあるってものだ」
そういうとメリルは足で剣を蹴りつけ、反動で宙高く飛び上がった。
翼を広げて姿勢を制御し、地上へと足を着ける。
「今度はこちらから行くぞッ!」
エリックは剣を構えながらメリルへと切りかかりに突っ込んだ。
着地を狙われたメリルは咄嗟に身を翻して剣の直撃をを免れるが翼の端を僅かに切っ先が掠める。
「チッ……中々やるな」
切っ先が掠めてボロボロになった翼を確認しながらメリルはエリックを睨みつけた。
「普通のドラゴンならばあの一撃で首を刎ねていたはずだが……どうも勝手が違うようだな」
剣にわずかに付着した血を振り払い、エリックは淡々と言い放った。
「生憎とて私は獣人でな。人間の身体を持つ以上、ただのドラゴンとはわけが違う」
エリックに対してメリルは意地を張るように言い返した。
傷ついた翼を折りたたみ、地上での格闘に特化した構えを取る。
「ハアアアアアッ!!」
「……ッ!?」
エリックの剣戟を掻い潜り、メリルは打撃を叩きこむ。
しかしエリックはのけぞる素振りこそあれどダメージを受けているような様子はない。
「どうした、ドラゴンというのはその程度の攻撃しかできんのか」
「よく抜かすッ!」
(なぜだ……なぜ私の攻撃でダメージを与えられない?)
メリルには自分の攻撃が通じない理由が理解できなかった。
攻撃は確実に命中している、しかも並大抵の鎧なら一撃で粉々にできるほどの威力があるはずだ。
しかしエリックの鎧には傷一つついていない。
それどころか鎧はこちらの攻撃に適応しているかのようにますます強度を上げているようにすら感じられた。
(まさかあの嫌な気配の正体は……)
戦う中でメリルはエリックが発していた気配の正体に勘づき始めた。
「好機!」
エリックは剣を構え、メリルの胸目がけて突き刺そうとした。
メリルは咄嗟に身を屈めてエリックの足を払い、態勢を崩して寸でのところで攻撃を防ぐ。
「いいだろう。私も全力を尽くしてお前と戦おう!」
素早いバックステップで体制を立て直したメリル顔を上げてエリックを睨むと翼を大きく広げ、尻尾を激しくしならせた。
剣によって傷つけられた翼が一瞬で元通りに再生し、彼女の頬に赤い紋様が浮かび上がる。
「何……!?」
その姿を見たエリックは一瞬動揺を覚えた。
彼の持つ剣には加護が込められており、普通ならばドラゴンに一生癒えない傷を負わせられるはずなのである。
しかし目の前にいる『ドラゴン』はそれを逸脱しているのだ。
「ウウウウウウ……!」
だがそれは、彼女の理性を失わせる文字通り捨て身の手段でもあった。
理性を失ったメリルは唸り声をあげながらエリックを睨みつけた。
その双眸にはただ一点の曇りもない『目の前の敵を倒す』意思だけが込められていた。




