ジークフリート家
「君がジークフリート家の跡取りのエリック君か。いやあ大きくなったねぇ」
俺に図書館まで案内され、兜を脱いだエリックさんの顔を見たレオナルドさんは何かを思い出したようでそれを懐かしむように笑った。
二人は顔見知りの関係だったのか。
てっきりエリックさん側が一方的によからぬ因縁を持っているのかと思ってたわ。
「どういう関係なんスか?」
「なに、ジークフリート家とちょっとした交流を持っているだけだよ」
どう考えても何か貴方の思惑があって接触しましたよね。
どんな思惑があったのかは聞かないけれど。
「レオナルドさん、単刀直入に聞かせてもらおう。ここにドラゴンの獣人がいるというのは本当か」
俺の背中に嫌な汗が伝った。
こんなガチガチの鎧で身を固めて剣まで持ってるってことは目的は一つしかないないじゃねえか。
「さぁ?噂には聞いているけれど見たことはないねぇ」
レオナルドさんは涼しい顔をしてすっとぼけた。
恐らくエリックさんの意中を察したのだろう。
それにしてもポーカーフェイス上手すぎないかこの人。
「そうだったか。貴方ほどの人物でればすでにお目にかかっていると思ったのだが……」
「力になれなくてすまないね」
なんとなく二人の様子を見ていてわかる。
表面上の言葉と頭の中がまるで一致していない。
「しばらくはこの街に滞在することになるだろう。勝手がわからぬがよろしく頼むぞ」
「わからないことがあれば私に聞きに来るといい。もっとも、君が素直にそうするとは思えないけど……」
レオナルドさんとのやり取りを終えたエリックさんはこちらへと視線を向けた。
鋭い双眸に睨まれた気がして緊張が走る。
「確かこの街のクルセイダーだったな。名は何という」
「あ、タカノっス」
「案内してくれて助かった。感謝する」
片言にそう言い残してエリックさんは図書館を後にした。
なんなんだあの人、口数少なすぎだろ……
エリックさんの姿が消えた後、俺は少しだけレオナルドさんから話を聞くことにした。
「ジークフリート家ってどんな家系なんですか?」
「キャメロット十大騎士の一角、その第九位だよ」
十大騎士?
騎士の中でも特に偉い奴の内の一人ってことだよな。
「これは王国が作られたばかりの頃の話なんだけどね。王国に一体の巨竜が踏み入ったんだ」
ほう、キャメロット王国にもドラゴンが接近するのか。
「エリック君の先祖のジークフリート家の騎士はそれを一人で退けたんだ。さっき彼が身に着けていた鎧と剣を使ってね」
なるほど、たった一人で国を守るという大きな功績を挙げたわけだ。
「その功績を王に認められて十大騎士にその名を連ねたんだ。当時は第二位だったみたいだけど巨竜退治以外に特に大きな功績がないから今は第九位に降格したんだけどね」
十大騎士って順位が変動するのか。
というか一人で国を守る功績を挙げて二位って当時の一位の奴は何をしたんだ。
逆に一位の家系について話を聞きたいけど今はそんな時間なさそうだな。
「じゃ、俺そろそろ戻ります。まだ仕事が残ってるんで」
「そう。頑張ってね」
レオナルドさんに別れを告げ、俺は仕事を再開することにした。
少し寄り道をしたがまだなんとか時間内に終えられそうだ。
その日、仕事を終えた俺はミラにジークフリート家のことについて尋ねてみることにした。
王国のことならミラでも知っているはずだ。
「ジークフリート家?知ってるよ。十大騎士様の内の一角でしょ」
やっぱり王国のことならミラに聞いてもわかりそうだな。
このまま話を聞いてみよう。
「ジークフリート家に伝わる鎧について何か知ってることはないか?」
「大昔にドラゴンを対峙したときに付けてたっていう鎧だよね。なんでもドラゴンに対する攻撃から絶対に身を護る加護を受けてるっていう話だよ」
確かにエリックさん自身が語っていたことと概一致しているな。
じゃあ剣についても……
「持っている剣も昔にドラゴン対峙をしたときに使ったって言われてるんだよ。どんなドラゴンにも致命傷を与えられる加護がかかってるの」
ドラゴンからの攻撃を絶対に受けられる鎧にどんなドラゴンにも致命傷を与えられる剣。
まさに『対ドラゴン特化』の装備ってわけか。
「でもどうしてトモユキがジークフリート家のことを知ってるの?」
「今日仕事中に偶然出会ったんだ」
「えー!?ジークフリート家の騎士様に!?」
俺だってギルドの郊外でキャメロット王国の騎士に出くわすなんて思わなかったわ。
「すごーい!会いたい会いたい!」
ミラは王国の騎士の顔を見たくて仕方がないようだ。
会ったことがあったとしても物心つく前だろうし、記憶にないんだろうな。
「しばらくはギルドに滞在してるって言ってたし、運が良ければ会えると思うぞ」
そう言ってみたはいいものの俺としては少し複雑な心境だ。
ミラはきっとメリルと一緒にエリックさんに会いに行くだろう。
だがエリックさんはメリルのことを探している。
そして鎧と剣をわざわざ装備してきたということは戦うつもりで間違いない。
「なぁミラ。もしその騎士様とメリルが戦うことになったらどうする?」
「えっ」
俺からの質問にミラはショックを受けているようだった。
もしもの話だがそうなる可能性は高い。
「仮にそうなったとしたらっていう話だ。ほら、メリルって本能的に戦おうとするところがあるだろ」
「うーん……その時はミラが止めるよ」
少し考えてミラははっきりと言ってのけた。
いかにもこの子らしい答えだ。
突然俺たちの前に現れたジークフリート家の騎士、エリック。
彼の目的は本当にメリルと戦うことなのだろうか。
でもメリルと戦ってどうするつもりなのだろう。
これは何か腹に一物抱えてるに違いない。




