メリルの授業参観
今回は途中からオズ視点になります。
メリルが我が家に転がり込んできてもう二週間近くが経過した。
彼女はミラに怒られて以降は闘争本能をこれまで以上に抑え込むようになった。
獣人の中でもかなり本能寄りに生きているドラゴンの獣人も条件次第では理性的に行動できるようになるらしい。
そんな冬のある日、ミラを学校まで送り出した直後のことだった。
「ミラは学校でどんなことを学んでいるのだろうな」
メリルはミラの後姿を眺めながらポツリと呟いた。
「そりゃあ、魔法に関することをいろいろと……」
「私もその風景を見てみたい」
またずいぶんと突拍子もないことを言いだしたな。
「いいんじゃない?見に行っても」
アリスに母乳を与えていたオズが口を挟んできた。
マジか、学校見学ってできるのか。
「あそこは魔法使いとその関係者しか入れないんじゃなかったっけ」
メルクーア魔法学院はいわば魔法使いの専門学校だ。
一般人が入ることは基本的にできない。
「それならアタシが一緒に行けば解決じゃない」
「あー」
そうか、その手があったか。
オズの知り合いということにすれば顔パスも同然に学校に入り込むことができる。
「じゃあアタシとメリルは学校見に行ってくるから、その間アリスのことは頼むわね」
「任せとけ」
オズが指を鳴らして金色の魔法陣を展開して俺に一瞥した。
恐らく行先は学校だろう。
アリスの面倒を見るのはこの前の借りを返すと思えばいい。
こうしてオズとメリルは金色の魔法陣の中へと入っていった。
オズに比べれば少し不慣れなところはあるけどアリスの世話を見きってやるぞ!
――――――――――――――
さて、メリルを連れてアタシがやって来たのはメルクーア魔法学院の校門前。
本当なら直接校内に入ることもできるけど外観も見せておこうっていうアタシの心遣い。
「随分と大きな建造物だな。ここにミラがいるのか?」
「ええ、今頃授業でも受けてるんじゃないかしら」
実際は知らないけど。
「ここでは魔法を教えていると言っていたな。どれほどの数の魔法使いがいるのだ」
えっ、知らないんですけどそんなの。
「うーん……三百人ぐらい?」
実際はもっといるのかな。
いや、魔法使いってどちらかといえば少数派だからそれより少ない?
というわけで、メリルと一緒に校内に足を踏み入れた。
「そういえば、クラリスはなぜそのような格好をしているのだ?」
「あーこれ?アタシの魔法使いとしての礼装よ」
今になってメリルがアタシに聞いてきた。
いつもと違う格好してるのに気づかなかったのかな。
「礼装?」
「そう。戦場に行くときに鎧を着るでしょ?それと同じで行く場所に応じて装いを変えてるの」
「なるほど」
いやあ、我ながら言い例えをしたわね。
「おぉ……これが『学校』か」
メリルは廊下を歩きながらキョロキョロと目まぐるしく視点を変えている。
そんなに学校が物珍しいのかしらね。
まあ、じっくり見るのはアタシも初めてなんだけど。
「これはこれは、クラリス様ではありませんか!?」
偶然その場を通りかかった名前も知らない男の教師の一人がアタシの姿を見るなり片膝をついて頭を垂れてきた。
尊敬されるのは大好きなんだけどこういうのは苦手なのよねぇ……
「顔を上げなさい。アンタに頼みたいことがあるの」
教師に顔を上げさせた。
ちょうどいい、コイツに校内を案内してもらおう。
「クラリスは偉いのか?」
「まあ、魔法使いの中ではね」
自分で言うのもなんだけどアタシは魔法使いの中では一二を争うぐらいに大きな権力がある。
だからここにいる教師でアタシのことを知らない輩はいない。
「初等部の教室はこちらです。あとはご自由に」
とりあえず初等部の教室まで案内してもらった。
相変わらずここは入り組んでいて場所が覚えにくい。
「ミラはここにいるのか?」
「ええ、あの子の友達も一緒にね」
「待ちなさい」
扉を開いて中を覗こうとしたメリルをアタシは制止した。
「なぜ止める」
「そこから向こうに行くなら相応の覚悟を決めてからにしたほうがいいわよ」
「覚悟?」
アタシがメリルにそう警告した理由はただ一つ。
「そこにいる魔法使いは、みんなミラみたいな子ばかりだから」
二人で教室を覗き込んだ結果は分かりきっていた。
アタシたちの存在に気付いた生徒の一人が声を上げ、それに呼応して大量の生徒たちが荒波のように押し寄せてくる。
「クラリス様クラリス様ー!」
「今日はどうしてここにいるんですかー?」
早速の質問攻めね。
感情に忠実に動く子供だからグイグイと押してくる。
「また授業してくれるんですか?」
「あー、今日はそういうのじゃなくてね」
以前ここの学院長に頼まれて特別に授業を付けたことがある。
初等部、中等部、高等部と講義をしたけどその中でも特に初等部から大好評だった。
「クラリス様ー、この人は誰ですか?」
「角が生えてる!お姉さんなんの獣人なの?」
初等部の生徒たちはすぐにメリルに興味を示してきた。
あーダメだ、ごちゃごちゃしすぎてて話にならない。
「みんな一度静かに!」
アタシの一声でざわついていた生徒たちは一瞬で静まり返った。
我ながら流石の影響力と言わざるを得ないわね。
「この子はメリルって言ってね、ドラゴンの獣人なの」
「ドラゴン!?」
「すごーい!ドラゴンの獣人っていたんだー!」
アタシのあまりの人気に授業が中断されて生徒たちがアタシとメリルのところへ押し寄せてくる中、動じない生徒が約二名。
我が家の愛娘その一にしてアタシの妹分ミラとその親友イズナだ。
ミラは家に帰ればいつでもアタシたちと顔を合わせられるし、イズナもなにかと接触する機会が多いからそこまで驚きがないのかしらね。
「クラリスの紹介通りだ。地上の魔法使いのことについては疎いものだからいろいろと教えてくれると助かる」
「その腕ってどうなってるのー?」
「触らせて触らせてー!」
初めて見るドラゴンの獣人に興奮した生徒たちがメリルの言葉を押しのけて詰め寄っている。
これはしばらくは授業どころじゃなさそうねぇ……
「すげー!背中に翼が付いてるー!」
「じゃあ尻尾も生えてるの?」
「ふあっ!?や、やめろ!急に触るなっ!?」
子供の好奇心ってすごいなー。
好奇心の的になっているメリルを眺めながらアタシはふとそう思った。
この様子だと落ち着くまではアタシもただ見てるだけになるかなー。
というわけで事を静観していたミラとイズナのところへ合流することにした。
「どうしてお姉ちゃんとメリルはここに来たの?」
「メリルがミラたちの学校を見てみたいって言いだしてねー。連れてきてあげたんだけどまさかこんなことになるなんて思わなかったわ」
「ドラゴンの獣人さんって存在していたんですね」
「今まで空の上にいたんだって。そりゃあ地上で姿を見せるわけがないわよねー」
ミラたちと駄弁っている間、メリルはひたすらに初等部の生徒たちの波に揉まれまくっていた。
アタシが初めてここを訪れたときもこんな感じになってたなー。
「はぁ……はぁ……魔法使いの子供とはすごいな……」
ようやく子供たちから解放されたメリルは肩で息をしていた。
あの短時間で身体を触られまくったり質問攻めにあったり、まあいろいろとすごかった。
「この後はどうする?」
「もう十分だ。これ以上ここにいると身体がもたん……」
それもそうねぇ。
こうしてメリルの学校見学はほぼ風景を眺めるだけで終わった。




