メリルとクルセイダー
アルはメリルを連れてとある場所へと赴いた。
「ここは……訓練場か?」
メリルはその光景を見て何かを察したようだった。
それもそのはず、ここは俺たちクルセイダーが訓練に使う場所だ。
クルセイダー、とりわけ機動隊には身体能力に優れた獣人たちが多数在籍している。
俺をはじめとした普通の人間の方が少数派だと言ってもいい。
「その通り。ここはウチらの訓練場だ」
「皆よく鍛えられているな。さぞ優れた兵士なのだろうな」
「兵士?そんなたいそうなもんじゃないぞ」
アルの言葉にメリルは疑問を抱いたらしい。
ここは俺がフォローを入れておくべきか。
「ここにいるクルセイダーはこの街の治安を守るために活動しているだけだ。決して外に攻め込むような戦士じゃない」
「随分と保守的ではないか」
このギルドは商業を営むために存在する国家だから能動的に戦争を起こす理由が存在しない。
だから内部の治安維持と、防衛のための最低限の戦力があればそれで十分だ。
「……というわけだ」
「なるほど。つまりこの国は戦い以外によって成り立っているのだな」
俺たちの目からすればむしろ戦いしか考えられない空の国が蛮族的すぎる気がしてならない。
「ようタカノ!久しぶりじゃねえか!」
俺たちの話声を聞きつけてか、アレンがこちらにやって来た。
アレンはちょくちょく我が家を訪ねてくるからこちらはあまり久しぶりだという気がしない。
「そういえばグレイさんは?」
「今年の冬はアルの弟たちを連れてハンター業に精を出してる」
マジかー。
今年の冬は副業してるのか。
ついでにルイ君たちの面倒も見てるなんて流石だな。
「この男はいい体格をしているな。私の国の重装兵にも比肩しうる」
アレンを一目見たメリルが腕を組んで頷いている。
「この子はタカノの知り合いか?」
「ああ、今ちょっと我が家にな」
「またお前は女の子拾ったのか……」
アレンが俺から目を背けてぼそっと呟いた。
またってなんだ、またって。
違うぞ、メリルを拾ってきたのは俺じゃなくてオズだ。
「『また』とはどういう意味だ?」
メリルが食いついてきた。
これは話すとややこしくなるんだよなぁ。
「おいアレン。お前が余計な事言ったせいで話がややこしくなったじゃねえか」
「事実だろう」
いや、確かにそうなんだけど……
「それにしても其方はいい身体をしているな。よく鍛えられている」
「おっ、わかるか?毎日欠かさず訓練で鍛えてるからな」
アレンは自信満々に拳で胸を叩いた。
「是非手合わせを願いたい」
「……ほう?」
その自負がメリルの闘争本能を刺激したらしい。
本当に何が引き金になるのかわからねえな。
「私にはわかる。其方がこの組織の中で最も強い者だろう?」
その通り、アレンは単純な力量なら機動隊でも屈指だ。
メリルはそれを本能的に嗅ぎつけたのか。
「私は戦いたい。地上の強き者たちと……」
ヒートアップしかけたところでアレンはメリルを諫めるように彼女の頭上に手を置いた。
「残念だがそれには俺にはできねえな」
「なぜだ?」
その理由は一つ。
「俺たちクルセイダーの力はお嬢ちゃんみたいな子を傷つけるためにあるんじゃねえんだ。もし仮にお嬢ちゃんと戦うことがあるとすれば……お嬢ちゃんがこの街の平和を脅かすようなことをしでかしたときだろうな」
縁起でもないこと言うなよ。
「代わりと言っちゃあなんだがいいところを紹介してやろう」
アレンの言う『いいところ』がすごく気になる。
「いいのか牛?訓練さぼってよ」
「道案内だから仕事の一環だっつーの。お前こそさっきまで何してたんだ?まさかどっかの屋根の上で寝てたんじゃねえだろうな」
「ま、まさかそんなわけねえだろ……」
アルは図星を突かれたといわんばかりに驚きで毛を逆立たせた。
そしてアレンからゆっくりと目を逸らす。
こうしてアルからアレンに案内人が代わった。
「ところでタカノ、見たところその子は獣人だろ?なんの獣人なんだ?」
「あー、それがな……」
俺はアルにしたのと同じようにアレンに説明した。
「というわけだ。彼女の背中には翼があるし、尻尾も生えてる」
「マジか!?それにしてもドラゴンの獣人に会えるなんて思わなかったな」
アレンは案外あっさりとドラゴンの獣人の存在を受け入れたようだ。
そんなこんなしているうちにアレンは古ぼけた建物の前で足を止めた。
ここが目的地か?
「なんだここ。何もねえじゃねえか」
この建物の中には何もない。
こんな殺風景な建物のどこが『いいところ』なのだろうか。
「ここからは強い『戦いの気配』を感じるな」
「わかるか?その通り、ここの地下は闘技場になってんだ」
そんな場所があったなんて今まで知らなかったんだが。
というかそれって違法な何かをやる場所だろ。
「闘技場?つまりここでなら思う存分に戦えるということだな!?」
「おう。気が済むまで思いっきり暴れてもいいぞ」
目を輝かせるメリルに対してアレンは気前よく参戦を促した。
「おい、どういうつもりだ?」
俺はアレンに耳打ちした。
この街の法秩序を守るために活動している俺たちが違法な行為に加担させていいはずがない。
「実はここを潰してやろうと思ってたんだけどな。俺たちだと表で目立ってるから入ることすら出来ねえんだよ」
なるほどな。
前からここの存在は知っていたが立ち入ることができないからメリルに潜入してもらおうってわけだな。
というかその理屈だと俺も中に入れねえよな。
「お前も一緒に行ってやってくれよ。女の子一人に行かせるのはいろいろとマズい」
「いや、俺もクルセイダーだからダメなんじゃねえの?」
「お前は大丈夫だ。ここ数ヶ月制服姿を見せてないからな」
判断基準ガバガバかよ。
アレンはメリルの身を案じているようだが俺は逆に彼女と戦うことになるであろうここの連中のことが心配でならない。
「おいタカノ!早く行くぞ!」
「お、おう」
ワクワクしながら奥に進んでいくメリルの後ろについて俺は闘技場の中へと入っていった。
どうかここにいる連中がうっかり殺されるようなことがありませんように。




