獣人との接触
「……と、いうことがありました」
俺は昨夜のことをオズに報告した。
オズは呆れ半分にため息をついている。
「アンタってどうもメリルと距離が近いわよねぇ」
この数日間で俺はメリルにキスされる、酔って発情した状態で抱き着かれるなどのイベントに見舞われている。
俺に他意はないので完全に不可抗力だ。
昨夜のイベントに至ってはメリルに締め付けられた跡がまだ腰に残っている。
「不可抗力だよ不可抗力」
「不可抗力……ねぇ……」
オズが疑り深い目で俺を見てくる。
俺からすると、この頃オズがメリルに嫉妬しているように見える。
なんかいじらしくてかわいい。
「なぁクラリス。昨日買ってくれた服を着てみたんだがどうだ?似合ってるか?」
二階から降りてきたメリルが新たな装いと共に俺たちの前に姿を見せた。
この服はおそらく昨日ミラとオズが一緒に選んだものだろう。
「よく似合ってるじゃない」
「ああ、まるで姫様みたいだ」
それを聞いたメリルは一瞬むっとしたような表情になった。
なにか気に障るようなことを言ってしまったかな。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもないぞ」
それはそうとメリルは昨日と同じようなロングスカートを履いているが恥じらうような様子がない。
もう慣れたんだろうか。
「スカートにはもう慣れたのか?」
「それがだな。私はあることに気づいたのだ」
そういった矢先、メリルはスカートの裾をつまんで持ち上げてみせた。
そのあまりに大胆な行動に俺は思わず目を伏せる。
「なぜ目を伏せる?ちゃんと中にも履いているぞ」
そう言われて俺はゆっくりとメリルの方を向きなおした。
スカートの奥には太ももぐらいの丈のズボンが装備されていた。
なるほど、これならスカートで尻尾を隠せるし、ズボンを履いているから尻がスースーして落ち着かないということもないってわけだ。
「女の子のスカートの中をジロジロ見てんじゃないわよ!」
「ちょちょちょ!痛い痛い痛い!」
またオズに脇腹をつねられた。
「メリルもスカートの中を簡単に人に見せたりしないの。特に男には!」
「なぜだ?見えなければ大丈夫なのだろう?」
メリルはスカートの裾をつまみ上げたまま首を傾げている。
無自覚ってほんと怖いな……
「今日も外に出歩きたい。一緒に来てはもらえないだろうか?」
それぐらいならお安い御用だ。
「あー、それなら俺が一緒に行く」
「メリルに変なことしたら許さないからね」
「するわけねえだろ」
そんなこんなでアリスの面倒をオズに看てもらうことにして俺はメリルと一緒にギルドに赴くことにした。
「翼は丸だしにしてるんだな」
今は上着の奥に隠れているものの、衣服は背中が開いていて翼が剥き出しになっている。
「昨日はどうにも窮屈だったからな。いろいろ考えてこうすることにしたんだ」
昨日はあり合わせで済ませるしかなかったから窮屈な思いをさせてしまった。
でもこれからはこうすればあまり無理をさせずに済みそうだ。
「ところでミラは朝からどこへ行っているのだ?」
「学校だよ学校。そこで勉強をしてるんだ」
「わざわざ遠方まで赴いて勉学に励むとは感心だな」
そうだろうそうだろう。
確かに家で勉強するだけでも十分すぎるぐらいだが彼女にとっては同じ場所で友達と一緒に勉強することに意味がある。
だから学校は彼女にとってはとても大切な場所だ。
「おーっす!」
建物の屋根の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
声のする方を見上げるとアルが屋根の縁に腰を下ろしながらこちらを見下ろしていた。
「よう!久しぶりだな。赤ちゃんは元気か?」
「ああ、元気にすくすく育ってるぞ」
そういえばアルをみるのは職質された時以来か。
「いよっと……!その子は誰だ?見かけない顔だな」
アルはメリルに興味を示したのか屋根から飛び降りてきた。
相変わらず足音が聞こえない見事な着地だ。
「この子はメリルっていってな。今訳ありで我が家にホームステイしてる子だ」
「ほう。それにしてもおっさんの家はよく人が転がり込んでくるよな」
それを言うな。
俺もそう思ったんだよ。
「その角は……牛の獣人!……じゃないよな」
メリルの姿を一目見たアルはその正体を考察し始めた。
小さな身体でぐるぐると周囲を回って四方八方から見回しているのがとても彼女らしい。
「タカノ、この獣人は誰だ?」
「あー、アルセーヌって言ってな。仕事場の後輩だ」
「その角もそうなんだがこの腕の爪とかもどっかで見たことあるんだよなー……なんだったっけ?」
アルはまだメリルの正体がわからないらしい。
惜しいところまでは行っていると思うんだが。
そろそろ教えてやろうかな。
「あーダメだ!さっぱりわからん!」
よし、教えてやろう。
俺はメリルに耳打ちして答え合わせをすることにした。
「アルセーヌとか言ったか。私はな、ドラゴンの獣人なんだ」
「……は!?」
答えが想定外だったからか、アルは呆然としながら大きく目を見開いた。
「ドラゴンってアレだろ?あの夏になるとこっちに来るバカデカい奴だろ?」
「ああ、あのドラゴンだ」
信じ切れないからかアルは俺に確認を取ってきた。
俺はその疑問をそっくりそのまま肯定した。
「じゃあ、これを見れば信じてくれるか?」
そういうとメリルは上着を一枚脱いだ。
そして露わになった翼を大きく広げてアルに見せつける。
「おお……!マジか……」
「ああ、偽ってなどいない」
アルがようやくメリルがドラゴンの獣人であることを信じたところでメリルは上着を羽織りなおした。
「そんなすげえもの持ってるのにどうして隠しちゃうんだ?」
「それは……寒いからだ」
メリルの言葉を聞いてアルは再び顔に疑問符を浮かばせた。
「ドラゴンが寒さに弱いのは知ってるよな?それはメリルも同じなんだ」
「あー、なるほどな」
アルは納得して首を縦に振った。
ドラゴンの獣人の性質もなんとなく理解したようだ。
「よし!じゃあウチの仲間たちに会わせてやるぞ!」
何かを思いついたらしいアルは耳をピンと立てるとメリルの手を引いた。
アルの仲間たちということは恐らくアレンたちだろう。
同じ獣人同士、なにか共鳴することがあるかもしれない。
俺はアルに任せて一歩引いて見守ることにした。




