レオナルドとの顔合わせ
ちょっとした寄り道を終えた俺たちは本題の買い物をすることにした。
俺は食料の買い出しに、メリル、ミラ、オズ、アリスの四人は衣服やその他嗜好品の調達だ。
用が済んだら図書館前で落ち合うように約束を取り付け、俺は別行動を開始した。
メリルは結構食欲旺盛みたいだし、いつもより気持ち多めに買っておいた方がいいかな。
あとはクロの餌を買い溜めしておいて……
「あぁ、重……」
ちょっと買い込みすぎたな。
普段の量なら難なく持てるんだが今回は流石に重い。
合流したらミラかメリルのどちらかに少し持ってもらおうかな。
先に用を済ませた俺は約束通りに図書館前へとやって来た。
それにしても寒いなぁ。
ミラたちはともかく、メリルは大丈夫だろうか。
念のために結構な厚着をさせてはいるし、本人も平気だとは言っているが心配だ。
「ふああああ……」
どれぐらい待っただろうか。
退屈過ぎて欠伸が出てきた。
何か暇つぶしの方法でもないかな……
「お待たせー!」
暇すぎて虚無になりかけていたその時、ミラたちが遅れてやってきた。
ミラもメリルも、手には一杯の荷物を抱えている。
こりゃ手伝ってもらうのは無理そうだな。
帰りはオズに頼むことにしよう。
「ここは……ミラの部屋みたいだな」
メリルは初めての図書館をキョロキョロと見回している。
さて、本題はここからだ。
「ここにメリルに会わせたい人がいるんだ」
「それってお父さんのこと?」
ミラの推察通り、俺がメリルに会わせたい人というのはレオナルドさんのことだ。
あの人はミラ以上の知識の塊だ、文化や文明を教えてもらうのにこれほどうってつけの人はそうそういないだろう。
「どういうことだ?ミラの父親はタカノではないのか?」
メリルは理解が追い付かないような感じで首を傾げている。
本気で俺のことをミラの父親だと思い込んでいたのか。
「そこらへんもレオナルドさんに聞いた方がいいだろう」
図書館の三階、いつもの場所にレオナルドさんの姿はあった。
相変わらず周囲を大量の本で埋め尽くしている。
「どうもこんにちは」
「やあタカノ君。ここで会うのは久しぶりだね」
確かにそうかもな。
ミラがヤバい状態になったときはわざわざレオナルドさんが我が家まで足を運んでくてたし。
「お父さん久しぶり」
「ミラ、もうこんなに元気になったのか」
ミラはレオナルドさんに正面から抱き着いていった。
レオナルドさんもそれを拒むことなく受け止めて抱擁を交わす。
「確かに髪の色も目の色も同じだ。つまりあの男こそがミラの父親なのか」
やっとメリルは事実を理解できたらしい。
「ところでミラ。あの子はミラの友達かい?」
ふとメリルの存在に気付いたレオナルドさんはミラにそれを尋ねた。
「そうだよ。メリルっていうの」
ミラに紹介されたメリルはレオナルドの前へと進み出た。
「私がメリルだ。そちらの名はなんという」
「私はレオナルド・マーリン。この図書館の管理者にしてマーリン家第十三代目当主だ」
互いに顔を合わせると、レオナルドさんはメリルの顔をまじまじと眺める。
「なんだ?私の顔に何かついているか?」
「君のその角、飾りではないみたいだね」
早速レオナルドさんはメリルの正体に勘づき始めている。
もしかするともう気づいているかも。
「獣人にしては人間に近い容姿をしているね。君は何の獣人なのかな?」
どうやら獣人というところまでは見抜いているようだ。
「メリルはね。ドラゴンの獣人さんなんだよ」
メリルが答えるまでもなくミラが先に答えを言ってしまった。
そしてその一言は、レオナルドさんの興味を強く刺激した。
「なるほど。ドラゴンの獣人を見るのは初めてだ」
あー、これはよくない癖が出てるぞ。
「君たちのことを知りたい。少し協力してくれるかな」
気の毒に。
この様子だとメリルは丸一日レオナルドさんに拘束されるぞ。
「荷物だけ家に送っちゃうから貸して」
この後の展開を察したオズが召喚魔法で荷物を家に送り始めた。
ああ、メリルも気の毒になぁ。
「まずは身体的特徴から見せてもらってもいいかな……」
アカン。
レオナルドさん的には新種の生物を観察するぐらいの感覚なんだろうけどその構図は非常によくない。
「角だけじゃなくて腕に生えた鱗と爪も本物だね。大変興味深い」
メリルの手を取ってそれを確かめると、レオナルドさんは白紙のノートに何かを書き記していく。
もう研究する気満々だな。
「もしかして、背中とスカートの中にも何か隠しているんじゃないかな?」
何かの存在をを確信したようにレオナルドさんはメリルの後ろに回った。
ミラと同様に隔てなく接触してくるレオナルドさんに対してメリルはやはり困惑している。
「……ッ!?」
信じられん。
レオナルドさんは何のためらいもなくメリルのスカートをめくり上げた。
突然の奇行にメリルの背筋がガチガチに伸びあがり、みるみるうちに顔が赤くなる。
「なるほど……ドラゴンの獣人にはこういう尻尾が……ブッ!」
恥じらいが限界に達したメリルの尻尾にぶっ叩かれ、レオナルドさんは見事な低空飛行を披露しながらまっすぐに本棚へと激突した。
本棚に詰められた書物がなだれ落ち、レオナルドさんの上に降り注ぐ。
武闘家すら一撃で倒せる打撃が無防備な状態から直撃したけど大丈夫かな、あの人物理的に滅茶苦茶弱いし。
「レオナルド!?」
「お父さん!?」
その様子を見ていたオズが慌ててレオナルドさんの元へと駆け寄っていった。
一方でミラはメリルの方へと駆け寄る。
「ミ、ミラ……其方の父親はいきなり尻を覗くような奴なのか!?」
「うん。研究のことになるといつもね……」
ミラは書物に埋もれながら失神しているレオナルドさんに軽蔑の目を向けながらぽつりと呟いた。
普段は娘思いのいいお父さんなんだけどなぁ。
「お父さん。メリルだって女の子なんだからいきなりああいうことはやっちゃダメ!」
数十分後、意識を取り戻したレオナルドさんはミラに説教されていた。
その脇ではオズも軽蔑の目を向けている。
「アンタいくらなんでもやっていいことと悪いことっていうのを考えなさいよ」
「申し訳ない。どうやら私も思慮不足だったようだ」
反省はできるんだよなぁ。
「あー、レオナルドとか言ったか」
「ん?」
「翼が見たいのであれば見せてやるからその……そちらから触れるのは止してもらえないか……」
律儀かよ。
あんなことされてもまだ協力はするんだな。
「アタシは残るから、アンタとミラはアリスを連れて先に帰ってて」
オズは俺に提案をしてきた。
俺もそうするのがいいかなと思っていたところだ。
オズならレオナルドさんとメリルを抑えるには十分な役だろうし。
「何、クラリスちゃんが気を使うことはない」
「いや、アタシが見てないとたぶんアンタ殺されるわよ」
「ぜひお供していただきたい」
見事な手のひら返しを見た。
流石に狂気的な研究者といえども自分の命の方を優先するようだ。
「メリル、お父さんを殺しちゃったりしないかな?」
帰り道、ミラはメリルのことを心配しているのかレオナルドさんのことを心配しているのかよくわからない台詞を口走った。
メリルは滅茶苦茶力が強いし、レオナルドさんはそんな彼女を不用意に刺激する奇行を起こしかねない。
「まあ、大丈夫なんじゃねえの?オズもついてるし」
「それもそっか」
俺たちのオズに対する信頼感がすごい。
「昼飯は何が食べたい?俺が作れるもんなら作ってやるぞ」
「それじゃあキノコのスープがいいな!」
レオナルドさんは俺たちのよき理解者である一方、研究者としての彼はとても危険な人物である。
それを実感せずにはいられなかった。




