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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第12章 ドラゴンと共に
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メリルとミラ

今回は三人称視点の話です。

 その日の夜、メリルはミラの部屋を訪ねていた。

 自分に積極的に接触してきた彼女に対して自ずと興味を抱いたのだ。


 「ミラの部屋はたくさんの書物に囲まれているのだな」


 ミラの部屋を見たメリルはその光景に圧倒されていた。

 本棚に隙間なく詰め込まれ、机の上にも山積みになっているおびただしい量の書物。

 さながらそこは小さな図書館のようでもあった。


 「気になる本があったら読んでもいいよ。ミラはもう全部読んじゃったから」

 「なんと、この量をすべて読んだというのか!?」

 

 メリルはミラの素性を知って再び驚愕させられた。

 ついさっき興奮しながら自分に接触してきた少女がこんなにも勤勉な性格だとは思いもしていなかった。


 「メリルも地上のこと、もっと知りたいんじゃない?」

 

 ミラは椅子に座ったまま身体を捻り、メリルの方へ振り向きながら尋ねた。


 「無論だ。私に地上のことを教えてくれ」


 メリルから予想通りの回答を引き出したミラはおもむろに本棚を漁り始めた。

 そして矢継ぎ早に取り出した本を机の上に積み上げていく。


 「何から知りたい?歴史、それとも文化?」

 「では、まず歴史から……」


 メリルの要望通り、ミラは歴史書を開いてメリルに地上の世界の歴史を教えた。


 「なるほど、地上にも『魔法使い』が存在しているのか」

 「空にも魔法使いはいるの?」

 「ああ。とはいっても地上のもののような優れた代物ではないがな」


 メリルは地上との共通の存在の発見に喜んだ。

 同じ概念が存在するということが、彼女の胸中の『あること』に対して少しばかりの希望を抱く。


 「実はミラも魔法使いなんだよ。それにお姉ちゃんもね」

 「なんと!?そうだったのか!?」


 ミラの正体を知ってメリルは驚愕した。

 地上の魔法使いは空のものと比べて非常に強大な存在であり、その力を誇示しない謙虚さが信じられないのだ。

 

 「そういえば聞きたいことがあるの」

 「いいだろう。私にわかることなら答えよう」

 「どうして地上にはドラゴンの獣人がいないの?」


 ミラからの質問にメリルは一瞬口を詰まらせた。

 その答えは確かに知っている。

 だがその内容は決して快いものではない。


 「ミラ。その問について私の知っていることを語ろう。心して聞いてくれ」


 意を決したように表情を固くしたメリルを見てミラは首を傾げた。

 素朴な疑問に対してここまで真剣になるとは思いもしていなかったのだ。


 「かつてはドラゴンの獣人も、ミラたちと同じように地上に暮らしていたのだ」

 「同じ場所に暮らしていたのに、なんで空へ行ったの?」

 「それを今から語る」

 

 興味が先行して話を先走ろうとするミラを諫めつつメリルは語る。


 「昔、この世界で大きな戦いがあったという伝説は知っているか?」

 「聞いたことあるよ。『天災の獣』と戦ったんだっけ」

 「そうだ。そしてその中で前に出て戦ったのが獣人だ」


 この世界に伝わる戦いの伝説。

 架空の物語だと思っていたことが実際の存在であったことにミラはさらなる衝撃を受けた。


 「戦いは人間、獣人、魔法使いの連合軍の勝利に終わった。だがその平和はいつまでも続くものではなかったのだ」

 「こっちが勝ったのに。どうして平和が続かなかったの?」

 「人間たちが獣人に対して危機感を抱き始めたのだ。とりわけ、ドラゴンの獣人に対してな」


 獣人と人間との関係にに微妙な距離感があるのはミラも知っている。

 大多数は隔たりなく共存できているものの、一部の人間は獣人に対して偏見を抱いているのは事実だ。

 

 「次第に我らは地上を追われた。そしてある時ドラゴンの長が空に我らの住む園を作り、先祖たちはそこへと移り住むようになった。これが私たちが空を住処とするようになった経緯だ」

 

 事実を知ったミラは俯いて小さく頷いた。

 自分が生まれるよりもずっとずっと前の出来事であればそれを知るはずがない。

 それと同時に、彼女の中で新たな疑問が湧き上がってきた。

 どうしても腑に落ちないことがあるのだ。


 「メリルは本当に地上に遊びにきただけなの?」

 「……」


 メリルは何も答えない。


 「本当は何か別の目的があるんだよね?」

 「……その通りだ。ミラは本当に聡明なのだな」


 ミラに問い詰められ、メリルは吹っ切れたように小さく笑った。


 「私は空の世界に平和をもたらしたいのだ」

 「平和を?」

 「そうだ。今、ドラゴンの獣人たちが住む空では自分たちの種族の縄張りを巡る戦いが絶えず続いていてな、このまま空に住み続ける限り永遠に戦いは終わらん。だから地上にその答えを求めに来たのだ」


 地上を訪れた真の目的、それは空で行われている戦いを終わらせるための鍵を探すためだった。

 ドラゴンの獣人たちは互いの住処を奪うために絶えず争い続けている。

 新たな居住地を見つけることこそが平和をもたらす方法だと考えたのだ。

 

 「もちろん、地上に興味を持ち、地上の人間と交友を築きたいというのは嘘ではないぞ」


 メリルの言葉を耳にしたミラは静かに右手を差し出した。


 「じゃあ、ミラと友達になろうよ」

 「私が……怖くないのか?」

 「全然。むしろドラゴンの獣人と最初に友達になれるってすごいじゃん」


 ミラの精神に触れ、メリルは感銘を受けた。

 同胞の中にもこれほどまでに友好的な存在を見たことはない。 

 メリルは青い鱗に覆われ、鋭い爪の伸びた手を伸ばしてミラの手をそっと握り返した。


 (人間の手は、こんなにも脆いのか)


 ミラの手はとても柔らかく、手触りがよく、そして温かい。

 少しでも力を込めれば潰してしまいそうだった。


 「私にできた……最初の人間の友達……」

 「えへへ。仲良くしようね」


 ミラはメリルの顔を見てにっこりと笑った。


 「ああ」

 「明日は地上の街を一緒に見に行こう」

 「いいのか?外は寒いのだろう?」

 「大丈夫、厚着をすればある程度は温かくできるよ」

 

 ミラはメリルと約束を交わした。

 明日が楽しみで仕方がない。

 

 「風呂湧いたぞー。冷めないうちに早く入れよー!」


 下の階からタカノの声が聞こえてくる。

 だがミラは入浴という行為が好きではない。


 「行くぞミラ。地上の入浴文化というものを見てみたいのだ」

 「えっ?あっ、ちょっと待っ……」

 「実は私は沐浴が好きでな、地上に来る前から楽しみにして……」


 饒舌に風呂への思いを語りながらメリルはミラの手を引き、風呂場へと向かっていった。

 対するミラも手を引いてくるのが友人である以上、断ることができない。


 その日、ミラはドラゴンの獣人と友達になった最初の人間になった。

 数百年に及んでいた関係に、ほんのわずかながら修復の兆しが見え始めていた。

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