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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第12章 ドラゴンと共に
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ドラゴンの少女

 「すごーい!ドラゴンの獣人さんだ!」


 昼頃のこと、学校から帰ってきたミラは初めて見るドラゴンの獣人の少女に大はしゃぎしていた。

 

 「爪も翼も、それに尻尾も全部本物なの?」

 「偽りようもなかろう……」


 興奮気味に接触してくるミラに対して少女は困惑しているようだった。

 そりゃあ初対面でいきなりこんなにベタベタされたら戸惑うよな。

 

 その一方、俺はとある別件にとても苦戦させられていた。


 「だから、さっきのは俺が色気づいたんじゃなくてだな」

 「じゃあさっきのはどういうことよ」


 俺が少女にキスされているのを目撃したオズがかなりいじけてしまっているのだ。

 さっきからろくに顔も合わせてくれない。


 「だからな、これはお礼だって言われて急に距離を詰められてな。そこからグイっと」

 「本当に、アンタから仕掛けたわけじゃないのね?」

 「俺がそんなことするわけないだろ」


 第一、俺はこの世界でお前以外に対してそういう感情を抱いたことはない。


 「じゃ、じゃあ一言謝ってよ」

 「はぁ!?」

 

 理不尽だなぁ。

 俺は何も悪くないだろ。


 「ふんっ」


 オズはまたいじけてそっぽを向いてしまった。

 まるで子供じゃねえか。


 だがここで燻っていても何も事態は進展しない。

 ここは俺が折れておくしかないだろう。


 「悪かったよ。俺にとって愛する妻はお前だけだ」


 こんな臭いこともこういう場面ではすらすらと言える。

 成長したなぁ、俺。


 「……本当に?」

 「ああ、本当だとも」

 

 さっきまでいじけていたオズがやっと俺の方に振り向いてくれた。

 

 「なら今日のことは許してあげる……だから……」

 「……だから?」

 「アタシ以外にそういうこと、しないでよね……」


 なんだこの乙女、可愛すぎかよ。

 決めた、絶対にオズ以外にそういうことはしない。


 よし、こっちの問題はようやく解決できた。

 そろそろあの子に聞きたいことを聞こう。


 「ねえねえ。この子、メリルっていうんだって」


 聞こうとしていたことをすでにミラが聞いていた。

 ドラゴンの獣人の少女の名前はメリルというらしい。

 

 「他にわかったことは?」

 「ちょっと遊びに行くつもりでこっちに来たんだって」


 あんなお堅い性格でもそういうこと考えるんだな。

 ちょっと意外だった。


 「メリルちゃん、君たちドラゴンの獣人について聞きたいことがある」

 「メリルでいい。ちゃん付けされるのはどうも苦手でな……」


 アレだ。

 この子ものすごくギャップのある子だ。


 「メリル、君はどこから来たんだ」

 「空の上だ」


 ……はい?


 「空の上?」

 「ああ、我らドラゴンの獣人は空の上を住処としているのだ」


 道理で今まで俺たちがドラゴンの獣人を見つけられなかったわけだ。

 地上にいないものをどれだけ探そうと見つけられるはずがない。


 「どうして空の上に?」

 「地上は我らが住むには狭い故にな。それよりなぜ地上の人は空に来ぬのだ?」


 いや、俺たち空飛べないし……


 「なんと!?地上の人は空を飛べぬのか!?」


 ドラゴンの獣人の基準だと人は空を飛べるものだと考えられているようだ。

 こんな立派な翼を持ってりゃ飛べるんだろうけど、地上の人間にそんなものはない。


 「ねえ、アタシからも聞かせてほしいことがあるんだけど」

 「なんだ?」


 今度はオズがメリルに話題を振った。


 「どうしてコイツにキスなんかしたの?」


 あー、こりゃ相当根に持ってるな。

 真相を確かめなければ気が済まないらしい。


 「私が何か変なことをしたか?」


 メリルは不思議そうにオズに聞き返した。

 どうやら向こう側にもそういう意図はないようだ。


 「しょ、初対面の相手に、キ、キキキキスなんて……!?」


 おい、テンパるな。

 完全にリアクションが初心のそれじゃないか。

 俺たちはすでにそれ以上のことをしただろ。


 「感謝の証としてキスをするのは常識だろう。地上ではそうしないのか?」


 ドラゴンの常識、恐るべし。

 すさまじく積極的なコミュニケーションだ。


 「えっ……」


 オズは呆気に取られている。

 文化の違いに怒ったところで仕方がないし、本人としても納得するしかないよなぁ。


 「ところでトモユキ、なんで頬が真っ赤なの?」

 「勘違いでオズに引っ叩かれた。俺がメリルにキスされたのを見て妬いちまったみたいでな」


 事情が分かれば下手に誤魔化す必要もない。

 俺は頬のことをミラに尋ねられて正直に答えてやった。

 理不尽に対するちょっとした意趣返しだ。


 「そ、それはごめん……」


 オズが顔を真っ赤にしてもじもじしながら俺に謝ってきた。

 本当に一児の母とは思えないほどの純情さだ。


 「しかし、そこの男と女には世話になったな。名は何というのだ」

 

 メリルは俺たちの名前を尋ねてきた。

 空にいる仲間たちにもこのことを話すのかな。


 「俺はタカノ・トモユキ、こっちは妻のクラリス・オズだ」

 「アタシが倒れてるメリルをここに連れてきてあげたのよ。これでもアタシ、最強の魔法使いなんだから」


 自信満々に自負しているが何も間違っていない。

 遠く離れた場所に一瞬でメリルを連れてこられたのもオズの大魔法があったからこそだ。


 「ミラはミラ・マーリンだよ」

 「家族の姓と名が全員違うというのはどういうことなのだ。家族とは同じ姓を持つのではないのか?」


 メリルは素朴な疑問をストレートに俺たちにぶつけてきた。

 それは話すとかなりややこしくなるんだが。


 「まぁ、ちょっとわけありでな」

 

 できれば余計な詮索をしてもらいたくはない。

 俺は気にしていないがミラにとっては多少なりともコンプレックスになっているかもしれないし。


 「そうか。地上の家族というのはいろいろな形があるのだな」

 「そう、そういうこと」


 その日はメリルからいろいろと聞きたいことを聞くことができた。

 どうもドラゴンの獣人は地上の人たちとは違う文化や価値観を持っているようだ。


 「今日はもう遅い。とりあえず今日は我が家に泊まっていくといい」

 「助かる。では明日の明朝にここを出ることにする」


 メリルは早いうちにここを出るつもりでいるようだ。

 だが俺には一つ懸念していることがある。 


 「あー……外は寒いぞ」

 「はは、冗談を」


 アレだ、外と家の中の温度差を信じられないみたいな顔してるな。


 「ミラ、ちょっと窓を開けてみてくれ」

 「えー、寒いよ?」

 「換気だと思え」

 「じゃあ、開けるね?」


 そういうとミラは勢いよく窓を全開にした。

 外の冷たい空気が一気に家の中へと入り込んでくる。


 「……ッ!?」


 外の空気を浴びたメリルは一気に身体が縮こまった。

 そして一瞬で暖炉の方へと飛び込んでいく。


 「な、なぜだ……?なぜここと外とではこうも環境が違うのだ……」


 暖炉の前に小さくうずくまりながらメリルは俺たちに尋ねかけてきた。

 いままでどんなところで暮らしてきたんだ。


 「なぜって言われてもなぁ……」

 「火を使って家の中を温めてるからとしか説明できないわよねぇ」


 外が寒い理由についても『今は冬だから』ぐらいしか説明できない。


 「ねぇ、もう窓閉めていい?」

 「いいぞ。ありがとな」


 ミラは窓を閉めるとこちらへと戻ってきた。


 「というわけだ。地上はあと八十五日はこんな感じの日が続く」


 今は冬の五日。

 春の一日になるまではずっとこの調子が続くことは間違いない。

 それを聞いたメリルは一気に血の気が引いたように見えた。


 「なんだと……ならば八十五日は帰れないということではないか……」

 「かもしれんな」


 どうやって帰るのかはともかくとしてやはり寒いのはどうしても無理らしい。

 そうなるとメリルがどうするべきかなんて一つしかない。


 「それなら、春が来るまで家にいればいいんじゃない?」


 オズがメリルに対して提案した。


 「し、しかし……そんな長く世話になるわけには……」

 「いいのよ、お金なら有り余ってるし」


 生活費は問題なく工面できる。

 貯蓄もまだあるし、最終手段にはオズの実家のお金もある。

 それに一時的に一人増えたところで家事の負担はそれほど増えるものではない。


 「それにな、地上にいないドラゴンの獣人を泊めてくれる奴が他にいるとはそうそう保証できんぞ」


 初めて見る種族をいきなり家に迎えてくれる輩ばかりだという保証はない。

 もしかすればそのまま……

 いや、これ以上はやめよう。


 「そうか……ならばしばらく世話になる。その間はよろしく頼む」


 

 こうして、我が家にメリルという新しい家族が一時的に加わることになった。

 

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