初めて見る獣人
「おい、なんだそれは」
オズが脇に抱えているそれは獣人のように見える。
だがそれはこれまで見てきた獣人にはないある大きな特徴があった。
翼だ。
背中に大きな一対の翼が生えていたのだ。
それに頭に生えている二本の角もなにやら見覚えがある。
「驚いたでしょ。空から落ちてきたのが『ドラゴンの獣人』だっていうんだから」
オズが連れて来たもの、それはかつて見たことのなかった『ドラゴンの獣人』だった。
いつか前にミラがエルフ族の人を連れてきた時と言い、我が家にはよくゲストが訪れるな。
「でもいいのか?初めて見るドラゴンの獣人をこんなところに連れてきちまって」
「魔法使いたちはアタシの一声には逆らえないわ。それにアンタだってきっとそうしたはずだし」
自分の権力を最大限に使った大胆な行動に開口を禁じ得ない。
そしてさっきの発言で一つ気になることがある。
「俺だってそうしたはずってどういうことだ?」
「ドラゴンが全体的に寒さに弱い種族だっていうのは知ってるわよね」
「あぁ、それなら知ってる」
「今は冬。人間に近い形をしているとはいえ、寒さに弱いドラゴンがそんな時期に外に放り出されたらどうなるかは予想つくでしょ」
そうなれば衰弱して死に至るのは確実だ。
「とにかく今はこの子を温めるのよ。毛布を用意して暖炉の近くにおいてあげて。アタシは簡単な食事を作るから」
人助けに関する強引さは我が家の性か。
逆らっても誰のためにもならない、ここは彼女に従おう。
「さて、こんなもんでいいかな」
ソファを暖炉の前に近づけ、そこにドラゴンの獣人の子を横たわらせて毛布を掛けた。
至近距離で見て気づいたけれどこの子は女の子なんだな。
意外と年若いようだ。
それに顔も意外と整っている。
「ねぇ。もしかしてアンタ、その子に色目使おうとしてなかった?」
急にオズに尋ねられて俺は心臓が止まりかけた。
おかしいなあ、あの位置から俺の顔は見えないはずなのに。
「そんなことはないぞ。そんなことは」
「へぇー……」
怖えよ。
女の勘って怖えなぁ。
とりあえず温めるための措置が取れたところで改めて呼吸の有無を確認してみた。
大丈夫だ、呼吸は安定している。
これならすぐに回復できるだろう。
「それにしても、ドラゴンの獣人って存在してたんだな」
「ねー。アタシも今まで見たことなかったからてっきりいないものだと思ってた」
長年俺たち人間の前に姿を見せなかったドラゴンの獣人がどうして今になって俺たちの前に現れたのだろう。
目を覚ましたら聞いてみよう。
「んん……あぅ……」
暖炉の方からあどけない声が聞こえてきた。
ここに運んできてからだいたい二時間ぐらいか。
「オズー、あの子が目を覚ましたぞ」
「ごめーん!今アリスから手離せないから一人で対応して」
それなら仕方ないな。
しばらくは俺だけでなんとかするか。
「ここは……?」
「俺の家だ」
目を覚ましていきなり未知の場所にいて戸惑っているであろうドラゴンの獣人に俺は簡潔に説明した。
「なぜ私はここにいるのだ」
「俺の妻が倒れてるアンタを見つけて連れてきたんだ。あ、食事も用意してあるんだけど食べる?」
「断る。見知らぬ奴から出される食事など何が仕込まれてるかわからぬ」
そんな状態で断ってくるとは想像もできなかった。
さてはこの子、かなり疑り深いな。
仕方がない、俺たちの行為がただの善意であるということを示さないと。
「じゃあ毒も何も仕込まれてないってわかったら、手を付けてくれるか?」
「……いいだろう」
よし、応じてきた。
「温かいスープと付け合わせのパンがある」
「見ればわかる」
「先に俺が一口食べてみる。俺に何も悪い変化がなければそこには何も入っていない」
俺はスープを匙で掬って口元へと運び、パンを千切ってわかるように噛みしめてみせた。
毒の類は何も入っていないのでそれを飲み込んだところで当然俺の身には何も起こらない。
「ほ、本当に何も入っていないんだな?」
「逆になんで毒を仕込む必要があるのか俺にはわからん」
「で、ではいただこう……」
結構お堅い性格の子なんだな。
ドラゴンの獣人の少女は恐る恐る匙を受け取り、スープから手を付け始めた。
「あ、温かい……」
今まで凍えていたところにこの食事の温かさは身に染みるだろう。
本当に何も仕込まれていないことを理解した少女は一気にがっつりと口へ運び、腹へと収めた。
そして数分後、少女は俺から差し出された食事をすべて平らげた。
「先ほどは疑ってすまなかった。感謝する」
「いいんだよ。それに感謝するなら俺じゃなくて君をここに連れてきた妻に感謝してくれ」
「これは私からの礼だ」
行動する体力を取り戻したらしい少女はふと立ち上がると一気に俺のところまで詰め寄って来た。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは流石に……」
「遠慮はするな。受け取ってくれ」
顔が近い顔が近い!
それに身体が密着してていろいろとマズ……
「待たせてごめーん。そっちはどうなっ……」
階段から降りてきたオズはその光景を見て絶句した。
そりゃあそうだよな。
俺は今、見ず知らずの少女にキスをされているんだから。
「いや、これは……その……アレだ、不可抗力だ」
「最低!この浮気者!」
その日、俺は初めてオズに本気でひっぱたかれた。
俺は悪くない、絶対に悪くないぞ。
ただ悪い点があるとしたら、ここがあまりにも見られやすい場所だったということか。
ドラゴンの獣人の少女によって俺は浮気者というレッテルをオズに貼られることになった。
少女にはいろいろと聞きたいことがあるし、オズの誤解も解かなければならない。
そして、俺の頬に張り付いた特大の紅葉のことをミラにどう説明するかも考えないといけない。
今回のイベント、初っ端からいろいろと大変だ。




