お酒解禁……?
「そろそろさ、『お酒』解禁してもいいわよね?」
……ん?今なんとおっしゃりましたか?
その単語をものすごく久々に聞いたような気がするんですが。
「アリスを身籠ってからずっと我慢してきたんだし、そろそろいいかなーって……」
ヤバい、今日一日の疲労感と酒への渇望のせいかオズの目の焦点が合っていない。
どうにかしてこの場を治めなければ……
「まぁ、夜中ぐらいならいいかもしれんな」
俺も同じ条件を負っているとはいえ、散々我慢させておいてここでさらに我慢を強要するのも酷だ。
少しずつ妥協を重ねていくのがいいだろうか。
「あぁ、久しぶりに飲みたいぃ……」
アカン、完全に溶けてる。
「ちょっと待ってろ。実はお前には内緒にしてたんだがアレンから結構いい酒を貰ってんだよ」
「おぉー、もっと早く教えてほしかったよぉ……」
テーブルに伏して溶けているオズのようなものから音が発せられている。
なんだこりゃ……
あー、どこにしまったっけ。
俺の記憶が正しけりゃ台所の辺りだった気がするんだが。
「酒……酒を……」
もう完全にジャンキーのそれになってしまっている。
もしかしたら俺が知らないところで過去にもこんな風になってたのかもしれないな。
「おぉ、あったあった」
数が月前にアレンから貰ったデカい酒瓶を見つけ出した。
さて、第一の関門はクリアしたが次の問題がある。
「おぉ、早くそれをこっちに」
妻のような物体から腕が伸びてきた。
これに素直に答えると酒瓶を強奪された上に直飲みでグビグビとやりかねない。
酒からしばらく離れていた直後にそれをやるのは大変よろしくない。
「ジョッキに注いでやるからもうちょっとだけ待ってろ」
ラッパ飲みでもしてアル中でぶっ倒れたら大問題だ。
医療技術がお世辞にも進歩しているとは言えないこの世界ではそのまま死ぬかもしれない。
俺はジョッキ半分ぐらいに酒を注いでオズへと渡した。
アルコール独特の匂いが俺の鼻元まで漂ってくる。
「おぉ、久々に酒の匂いが……」
少しだけ香りを嗅いだオズはジョッキを手にすると首を持ち上げて一気に酒をあおった。
ジョッキの脇から溢れ出るほどの勢いでグビグビと飲み進めている。
やはり半分ぐらいにしておいて正解だったな。
「ぷはーっ!!そうよ!!この感覚よ!!」
ついさっきまで液体みたいになっていたオズが人間としての原型を取り戻した。
豪快に吐き出した吐息から酒の香りが漂ってくる。
俺の判断が正しかったのかどうかはともかく、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
「どうよ、久々に飲む酒の味は」
「最高よ!こんなにいい酒隠して待っててくれてたなんて流石アタシの旦那ね!」
嬉しさのあまりか俺のことまで褒めてくれた。
悪い気はしない。
「さて、久々に飲酒を解禁したところで話がある」
「話って?」
「今後の酒との付き合い方のことだ」
これを決めておかないと後でいろいろと問題が生じそうだ。
「とりあえずだな、アリスが完全に乳離れするまで酒はアリスが夜寝てからだ」
「なんで?」
「これは昔聞いた話なんだけどな、酒を飲んだ後に母乳を与えると赤ちゃんがそれで酔っちまうらしい」
「ふーん、なるほどねぇ」
軽度の酔いは気分がよくなるんだが状態的には毒に侵されているようなものだ。
大人である俺たちはいいとして赤子を毒に侵すなんてことは絶対にあってはならない。
「乳離れが終わったらまた今まで通りにしていこう。それまではちょっとだけ我慢だ、俺もそうする」
「わかった。それまではもうちょっと頑張るわ」
健気な奴だ。
だからこそ支えてやりたくもなる。
「ところでそれ、どんな味?」
「めっちゃうまい果実酒よ、なんか初めて感じる風味だけどたぶんアンタも好きな奴」
なるほど、ラベルを見てもわからなかったがこれ果実酒だったのか。
どれ、お言葉に甘えて俺も一口……
「うま……」
それしか言葉が出てこなかった。
なんだろう、酸味の強い苺と熟れた桃を掛け合わせたような味?
結構甘いんだが果実の酸味とアルコールの風味のおかげでくどくは感じない。
「どう、美味しかったでしょ」
「確かにお前の見立てに間違いはなかった」
俺とオズはもう互いの好みを熟知している間柄、酒の好みもなんとなくわかっていたようだ。
「あともう一杯飲ませて」
「あと一杯だけだぞ」
飲んで少し経ってからわかったんだがこの酒、思いの外酔いが回りやすい。
オズは酒好きではあるが酔いが回りにくいというわけではない。
泥酔されるといろいろと困るし、そういうところは俺がコントロールしなければ。
「あー、やっぱ酒はうま……」
酒をグイっと飲み干し、言葉の途中でオズは電池が切れた玩具のようにテーブルに突っ伏してしまった。
様子を見たところ普通に呼吸はしているから心配はなさそうだ。
どうやら疲労感と酔いが合わさって眠気が限界に達したらしい。
「やれやれ……」
俺は寝落ちしたオズを抱えて階段を上った。
とりあえずベッドの上には移動させてやらないとな。
オズの寝顔を見て俺は明らかに一つ変わったと思うことがある。
出会ったばかりの頃と雰囲気が変わっているのだ。
最初は童顔のちんちくりんだと思っていたんだが今は普通に美人系の顔立ちになった気がする。
「お疲れさん」
ベッドで眠るオズに俺は労いの言葉をかけた。
そしてその近くで眠っているアリスの顔を覗き見る。
きっと彼女もオズに似たかわいい子になるだろう。
俺は娘の将来の姿に期待を抱きながら自分の寝室へと向かうのだった。




