オズの特別授業
今回も三人称視点の話です。
翌日、ミラは昨日のように学校へと登校してきた。
杖をついている以外はほとんどこれまで通りだ。
「聞いたか?今日特別講師が来るらしいぞ」
「マジで!?どんな人なんだろうな」
中等部と思わしき生徒たちが教室に向かいながら会話をしている。
(特別講師って誰だろう)
ミラは何も話を知らない。
今日は通常授業ではないのだろうか。
「皆さん、今日は特別講師がお越しになられています。すぐに大講堂へ移動してください」
初等部の主任が教室に赴くなり、教壇に立つまでもなく生徒たちに宣告した。
それに従い、初等部の生徒たちはざわつきつつも大講堂へと移動していく。
「それでは本日の特別講師にお越しいただきましょう。オズ家第十四代当主、クラリス・オズ様です」
「ええっ!?」
学年主任が言い渡したその人物の名にミラは大変驚いた。
彼女はその人物をつい数十分ほど前に家の中で見かけたばかりなのだ。
さらに言えば昨日もそんな話は聞いていなかった。
主任の呼びかけに応じるように教壇の前に金色の円陣が展開され、今回の特別講師=クラリス・オズがその中から姿を現した。
今朝見た時とは違う、魔法使いの礼装を纏っての登場だ。
「あーあー、オホン!メルクーア魔法学院初等部の皆、おはよう」
クラリスは教壇の前に立つと大きく咳ばらいをし、挨拶を切り出した。
普段と違い、その声色には魔法使いの長たる威厳があふれている。
「本来教師ではないアタシが今ここに呼ばれたのは他でもない、学院の教師たちが教えられない分野での教えを説くためよ」
クラリスからの講義を生徒たちは私語一つなく聞き入る。
無論、ミラも例外ではない。
「アタシからの特別授業、それは『魔法による防衛術』について」
『防衛のために魔法を行使する技術』については本来この学院では専門外の分野である。
先の事件を受け、これから生徒たちに危険が降りかかる可能性を懸念した学院長がクラリスに授業を依頼したのだ。
「かの悪名高い魔法使いによって魔法使いの子供が襲撃される事件があったのは覚えてるわよね?この学院の生徒の中にも被害を受けた生徒がもしかしたらいるかもしれないわ。今回はそんな事件から自分の力で身を守れるようにするための特別授業よ」
概要を説明したクラリスはさっと教壇を降りた。
「こうやってただ喋ってるだけっていうのも性に合わないし、実演しながら教えていくわよ」
そういうとクラリスは召喚魔法を発動し、杖を手元に呼び寄せた。
同時に初等部の主任がクラリスと正面から向き合い、実演の態勢に移る。
「まずは対魔法防衛として最も基本的な結界の張る魔法を実演するわ」
魔法に対する防御術はいくつか存在するがその中で最も基本的な術は結界による防御だ。
それ以外の術は高度な技術や実践経験を要する。
「結界は各自の得意分野の魔法を応用すれば簡単に生成することができるわ。炎熱魔法が得意なら炎の、錬成が得意なら土の防壁っていう具合にね」
クラリスはそれぞれの分野を応用し、炎熱魔法を応用した純度の高い青色の炎の結界と講堂の床を作り変えた金剛石の防壁をそれぞれ即興で発生させて見せた。
彼女の技術力の一端を目の当たりにした生徒たちはただ圧倒され、賛辞の言葉の一つも出てこない。
「さあ、早速実技教習よ。各自自分の得意な属性の結界を張ってみなさい」
クラリスから指示を受け、生徒たちは各々の得意分野を活かして結界を張る演習を始めた。
炎や氷、風など様々な属性の結界が展開され、講堂を多様に彩る。
「魔法を行使するうえで重要なのは発動をしっかりとイメージすること。失敗しても焦らず冷静に、もう一度やり直してみなさい」
クラリスの言葉通り、魔法は使用者の精神状態によってその力が上下する。
昂ればその分強力になるが、逆に暴走のリスクが伴ってくる。
安定した発動のためには冷静であり、且つネガティブでない状態を維持する必要がある。
「炎の結界は外側へ渦を巻かせるように展開してみなさい。そう、初めてにしては上出来ね」
その間にクラリスは講堂内を歩いて生徒たちを見て回り、その一人一人に技術指導を施した。
様々な属性の結界を見る中、クラリスは珍しい属性を発見した。
それは炎でもなければ氷塊でもなく、風や土塊でもない。
六角形型に展開された、『光の結界』であった。
「昔からそんな感じはしてたけど、やっぱり『これ』が得意なのね」
結界は属性によってある程度の長所と短所が存在する。
だが『光』にはその短所がほぼ存在しないと言ってもいい。
防御的な面でみれば最高峰の存在である。
そして光属性の魔法を得意とする魔法使いは全体を通しても珍しい存在なのだ。
「これが一番、みんなを守れるから」
光属性の使用者、ミラは固い意志を込めた眼差しを向けながらクラリスにそう伝えた。
『誰も傷つけさせない』という彼女の意思が光属性の魔法という形へ昇華したのだろう。
その理念を汲み取ったクラリスは黙って頷くと踵を返し、再び他の生徒を見に行った。
一通りの生徒を見て回ったクラリスは次のステップへと移った。
「結界の張り方を覚えたところで次は実際にそれを使って衝撃から身を護ってみる演習をするわ」
クラリスは蒼炎の結界を展開した。
対して初等部主任は杖を構え、結界に対して魔法をぶつける姿勢を取る。
「結界は防御用といっても属性によって得手不得手が存在するの。例えば炎の結界ならば燃えるものや冷気系の攻撃を防げるけれど燃えないものや水による攻撃は防げないし、強い風を受ければ自分が巻き込まれるリスクがあるわ」
クラリスはその教え通りに実演してみせた。
主任が氷塊による攻撃を放てば蒼炎の熱で溶かされてクラリスに触れる前に消滅し、強風を放てば結界が形を崩し、クラリスの礼装であるローブの一片を焦がす。
実演を終えたクラリスは慣れた手つきでローブを翻して火の粉を振り払い、講義を再開した。
「今回は炎の結界で実演してみせたけどそれ以外の属性もほぼ例外なく得手不得手が存在するわ。重要なのはその得手不得手を理解し、状況に応じた適切な属性による防御をすることよ」
そういうとクラリスは自らの杖を手放した。
杖は金色の光の中に格納され、完全にその場から姿を消す。
「時間も押してるし、最後にアタシから課題を一つ。各自最も得意な属性の魔法を素早く展開できるようにしておきなさい提出期限は設けないわ。これでアタシからの授業は終わり、防御術のことは忘れないようにね」
授業の終わりを言い渡し、クラリスは自らの発動した召喚魔法でどこかへと姿を消してしまった。
その日、学院内は初等部から高等部までクラリスの話題で持ちきりになった。
中には将来オズ派への派閥入りを心に決める生徒までいたという。
「初めて学校で教えを説いてみたけど、こういうのも意外と悪くないわね」
学院の屋上から生徒たちを見下ろしながらクラリスは独り言を呟いた。
そして召喚魔法を発動し、人知れず学院から去っていくのであった。




