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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第11章 おじさん一家の娘
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友の来訪

 ミラのリハビリをはじめて三日ほど経った。

 まだ歩くことはできないけれど杖で支えれば自力で立つことができるぐらいには回復した。

 順調だ、この調子ならあと一週間もすればまた歩けるようになるだろうか。


 そんな日のことだ。

 誰かが家の戸を小さくノックする音が聞こえてきた。

 この頃はよく誰かが我が家を訪れる。


 「はい」


 俺は家の戸を開いてノックの主を確かめた。

 そこにいたのはこれまた珍しい人物だった。


 「あの、こんにちは」


 金毛の狐の獣人、イズナ君だった。

 最後に見たのは夏の幽霊騒動の後以来だっけか。

 こころなしか前に見たときより背が伸びているような気もする。


 「こんにちは。今日はどうしたんだ?」

 「ミラちゃんに勉強教えてもらおうと思って……ほら、今学校が休校してるので……」


 そういえばそうだったな。

 カミュレ騒動を受けて学校は全体で休校してたんだった。

 教師がいないとなると図書館に行くかミラに当たるかのどちらかになるか。

 

 「わかった、ミラに用があるんだな。上がって上がって」

 「お邪魔しまーす」


 イズナ君は小さくお辞儀をすると我が家の敷居を跨いだ。

 相変わらずの礼儀正しさに感心させられる。


 そういえばイズナ君はこれまでも何回か我が家を訪れたことがあるけれどミラの部屋に入るのは初めてだっけ。

 ミラは誰かを部屋に入れることには抵抗ないみたいだし、一度案内しておくか。


 「ミラ、入るぞー」

 「んー?どうしたの?」


 ミラはベッドの上で本を読み耽っていた。

 足が不自由故に行動が制限されていてやることがないのも相まってこの頃はかなりのペースで本を読み進めている。

 

 「ミラちゃん、久しぶり」

 「おー!イズナだ!」


 ミラは久々に友人の顔を見て喜んでいるようだった。

 そりゃ学校がなくて自力で外出もできないところに友達が来てくれたら嬉しいよな。


 そんな一方で何かを察したらしいイズナ君は何とも言えない表情をしていた。


 「もしかしてミラちゃん、ケガとかしてますか?」

 「どうしてそう思ったんだ?」

 「なんだかいつもと様子が違うなーって思ったんです。いつもならボクを見るとミラちゃんの方から抱きつきに来るんで……」


 そうだったのか。

 確かに肌触りよさそうなふわふわの毛並みしてるからな。

 でもそれだけで異変に気付ける辺り、流石の親譲りの観察力だ。


 俺はイズナ君にミラの今の状態を伝えた。


 「……というわけでな、今のミラはまだ自力で歩けないんだ」

 「そうだったんですか」

 

 実際のところは杖で支えないと普通に立つことすらまだ難しいレベルだ。

 だからといって気にかけてもらう必要はない。

 俺としてはこういう時だからこそいろんな人たちにミラを支えてもらいたい。


 「じゃあ、あとはゆっくりしてってくれよ」


 俺はイズナ君にそう伝えて部屋を出た。

 そして扉を閉めてからすぐに身を翻して壁に張り付き、聞き耳を立てた。

 二人がどういう風に過ごすのか滅茶苦茶気になる。


 盗聴を開始して数分、いろいろと二人の話し声が聞こえてくる。

 この家は防音なんてものは施していないのでほとんどの音が壁を通じて筒抜けになる。

 

 「何を教えてほしいの?」

 「錬成基礎を教えてほしいな。試験に合格できるか不安で……」

 「あー、イズナは錬成苦手だもんね」


 そういえばミラも昔自分で錬成した雪のゴーレムを制御できなかったことがあったな。

 魔法の中でも比較的難しい部類に入るのだろうか。


 「じゃあまずは筆記試験で点数取れるようにしよっか」

 「そうだね。技能が少し足りなくても筆記でなんとななるかもしれないし」


 ミラたちの学校の試験ってそういう仕組みになってたのか。 

 技能試験と筆記試験の二種類があるってまるで車校みたいだな。

 

 「そこの本棚に魔法史と錬成基礎の本があるから取ってもらっていい?」


 アレだ、目的の科目を勉強するついでに他の科目も関連付けて覚えてしまおうとかいう奴だ。

 俺には到底できない芸当だ。

 

 「何やってんのアンタ……」


 俺が壁の向こうに聞き耳を立てるのに夢中になっていたところ、後ろからオズに声をかけられた。

 この構図はあまりにもアレだ、なんとしても弁明しなければ。


 「今イズナ君が来ててさ、何してるのか気になってよ」

 「あー、あの狐の子ね」


 そんなこんなしているうちに俺とオズは一緒に聞き耳を立てていた。

 なんだかんだでイズナ君がどんな風に過ごしているのか気になるらしい。


 「そういえばアリスは?」

 「今は寝てるわ」


 そうか、なら少しぐらい目を離していても大丈夫そうだな。


 仲良く勉強しているのであろう、壁の向こうから二人の明るい声が聞こえてくる。

 いろいろと初めて耳にする名詞が飛んでくるが魔法使いじゃない俺にはなにがなんだかさっぱりだ。

 そもそも聞いただけで覚えられるほど俺は頭の出来がよくない。


 「学校ってあんなこと教えてるのね」

 「そういうことは俺たちはさっぱりわからねえもんな」


 オズは両親やその部下たちから魔法を教わっていたから学校には通っていなかったんだったな。

 授業でどんなことを教えているかについては今初めて知ったようだ。

 

 さらに数十分ほど経過しただろうか。

 二人の声が聞こえなくなった。

 かなり集中しているのだろうか。


 「どうしたんだろう」

 「気になるわね」


 覗きたくなってきた。

 でもバレたらドン引きされるのは確実だ。

 覗きたいという欲望と人としての体裁を保ちたいという理性に板挟みにされた俺は壁を挟んで大いに葛藤させられた。


 「なあ、ちょっと覗いてみないか?」

 「はぁ!?」

 「声がでけえよ。でも二人の様子ってやっぱ気になるだろ?」

 「まぁ、それは気になるけど……」


 安全に覗くために取れる手法は一つ、共犯者を作って役割を分担することだ。

 俺はオズの好奇心を煽って共犯を唆した。


 「いいか、そっとミラの部屋の扉を開ける。隙間から様子を見るぞ」

 「バレそうになったら?」

 「お前の召喚魔法で別の部屋まで飛んで逃げる」

 

 なんだかんだで言いくるめてオズとの共犯にすることに成功した。

 思春期のあれこれでこういう技術を培っておいてよかった。

 俺が先陣を切って盾になり、気づかれそうになったら逃げはオズに任せる、完璧な作戦だ。

 

 「よし、開けるぞ……」


 俺はミラの部屋のドアノブに手をかけ、音を立てずにゆっくりと引いて僅かに隙間を開けた。

 さて、気になる部屋の様子は……


 「こ、これは……」


 俺はそっと扉を閉めた。

 

 「まだアタシ覗けてないんだけど」

 「あー、すまん」

  

 あまりに尊い光景を前に思わずオズのことをそっちのけにしてしまった。

 あの様子だとバレることはないだろう。

 俺はもう一度扉を開いた。


 「どれどれ……あー……」


 部屋の様子を垣間見たオズは語彙力を失ったようなため息をついた。

 それもそのはず、そこにはとても可愛らしい光景が広がっているのだ。


 かなり集中して勉強したから気づかぬうちに疲れてしまったのだろう。

 ミラとイズナ君は寄り添うようにくっついて眠っていた。

 しかもさっき聞いた話に違わず、ミラはイズナ君に抱き着いている。

 あの子たちにはまだ恋愛という概念がないのだろう、かなり密着した状態だし、イズナ君もまんざらでもなさそうな感じがする。


 「どうだ?」

 「めちゃくちゃ可愛くない?」

 

 同感だ。

 あの領域を侵すことなど俺たちにはできない。

 俺たち二人はそっと扉を閉めた。



 「ありがとうミラちゃん。早く身体が治るといいね」

 「うん、学校が始まるまでには元に戻すから」

 

 あと後、目が覚めてからまた勉強を続けたらしく、イズナ君は日が暮れた頃に帰って行った。

 学校もそう遠くない日に再開するだろうし、それまでにはリハビリ終わらせないとな。


 「トモユキ。明日からもっと『りはびり』頑張るからね!」

 「おう、頑張りすぎて逆に身体壊さねえようにな」

 

 『学校に行く』という大きな目的ができてミラもかなり意気込んでいる。

 こっちも張り合いが出るってもんだ。


 さぁ、これからもっともっと忙しくなるぞ。

 

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