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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第11章 おじさん一家の娘
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誘拐事件、閉幕

 レオナルドさんの手によってカミュレは倒され、誘拐事件は一応の終わりを告げた。

 あの後オズと一緒に屋敷を調べてみたものの、他の被害者の姿はなかった。

 きっと皆手にかけられてしまったのだろう、気の毒だ。

 

 さて、問題はここからだ。

 ミラはというと、ひどく衰弱していて意識が戻らないもののまだ息はあるという状態だ。

 不思議なことに外傷らしきものはまったく見受けられなかった。

 なにがあったのかは知らないが目立つ傷などが残らなかったのは何よりだが肝心の本人が目を覚まさない。

 時々悪夢でも見ているようにか弱い吐息を漏らしている程度であって、意識を取り戻す気配が一向にない。

 この調子で早三日が経過していた。


 オズは事態の収束を宣言するべく、アリスを連れて実家へと帰省している。

 つまり、今我が家には俺とミラ、そしてクロだけだ。


 「なぁ……また目を開けてくれるんだよな……?」

 

 俺はミラのすぐ傍でぼそりと声をかけてみた。

 ミラからの反応は当然ない。

 わかりきっていたことのはずなんだが……でもそれが悲しいし、悔しくて仕方がない。

 もっと早く助けに行くことができていれば今頃ミラは目を開けて俺たちと会話したりしていたんだろうか……


 「頼む……また目を開けてくれよ。また家族みんなで笑いてぇんだよ」


 こんなところでミラに眠ったままになってほしくはない。

 まだたくさん話したいことがあるし、彼女の成長を間近で感じ取りてえんだ。

 だから……だから……


 「目を覚ましてくれよ!なぁ!もっといろいろ一緒にやりてえことがあるんだよ!」


 家族も同然の存在であるミラがこうなってしまったことにとてつもなく悲しい。

 ミラは俺にとってこの世界での原点であり、彼女がいたからこそ今まで生きていくことができてきたんだ。

 それがこんなことになっちまうなんて想像できるかよ……


 

 俺が悲しみに暮れているそんな時、誰かが家の戸をノックする音が聞こえてきた。

 こんな真昼間に誰だろう。

 レオナルドさんあたりだろうか。


 「はい……」

 

 戸を開き、その向こうにいる人物を確認すると、それはレオナルドさんとアレンだった。

 なんとも意外な組み合わせだ。


 「タカノ……なんつーか、やつれたな」


 アレンに言われて俺は初めて自分の状態に気が付いた。

 そういえばあれからずっとミラにつきっきりだったし、自分の寝室で寝てなかったな。


 「タカノ君、ミラの容態は?」

 「相変わらずです。今も時々うなされてます」

 「そうか……」


 ミラの状態を報告するとレオナルドさんは深くため息をついた。

 やっぱり自分の娘が危険な状態だとわかると仕事どころじゃねえよなぁ。


 「なんでこんなことになっちまったんだ?」


 ベッドでずっと眠っているミラを見たアレンは俺たちに尋ねてきた。

 その理由はレオナルドさんが知っている。


 「膨大な魔力を際限なく行使した影響で身体に過度の負担がかかっていたんだ。普通の人間で例えるならば三日間飲まず食わずの休みなしで走り続けた後のようなものだよ」


 レオナルドさんはアレンにミラがどんな状態にあるかを語った。

 そんなの俺たちだって耐えられない。

 

 「それなら早く肉体疲労を回復させるようにしてやらねえとな」

 

 アレンは解決策を提示してくれた。

 肉体疲労の回復か、それなら思いつく手段はあるにはある。


 「とにかく栄養を摂らせないといけないが……この状態でどうやってミラに摂取させるかだな」

 「普通に口から与えるしかねえだろうなぁ」

 「それができればどれだけいいことか」


 点滴というものが存在しない以上は頼れる手段は経口補給のみだ。

 だがミラが意識を失っている関係で今はそれが難しい。


 「しかし、ものは試しというものだ。手段を選んでいる余裕は我々にはない」


 レオナルドさんはずいぶんと思い切った判断をした。

 俺もきっとそうしていただろう。


 いろいろと口に運びやすいものを考えた結果、レオナルドさんが錬成で作った丸薬を水と一緒に流し込むことにした。

 アレンから助言を受け、テツマメという植物から成分を取ることにした。

 テツマメは所謂大豆のようなものでその実は鉄のように硬い。

 だがそれは生食の話、加工するなら話は別だ。


 「俺たち牛の獣人にとってのテツマメはお前たち人間にとっての動物の肉ぐらい重要な栄養源だ。たぶん肉を食うのと同じぐらいの効果があるはずだ」


 アレンたちに草食の獣人は俺たちみたいに肉を食わないもんなぁ。

 肉体の疲労回復にはタンパク質を摂取するのが一番効果的だし、そういう面からみてもテツマメはいい材料になるはずだ。


 「じゃあ俺はそろそろ休憩終わるし、帰るわ」

 

 そうか、アレンは休憩時間を使ってここまで来てくれてたんだな。

 

 「ありがとな。俺は復帰したら必ずする」

 「おう、今度奢りで飲みな」


 それぐらいなら安いものだ。

 アレンと別れて、我が家にはレオナルドさんと二人になった。

 オズはいつ帰ってくるかわからないし、もう少しはこんな調子かな。


 丸薬作りから数十分後、レオナルドさんの調合と錬成魔法によってタンパク質を固めた丸薬が完成した。

 さて、あとはこれをミラに飲ませるだけなんだが……


 「ちょっと待ってもらっていいですか」

 「なにかな?」


 丸薬が少しばかり大きい気がする。

 このままだとミラの細い喉に痞えてしまわないか心配だ。

 

 「これ、砕いて粉にしません?水に溶かせばそっちの方が飲ませやすくなると思うんで」

 

 粉末にして水に溶かして流し込んだ方がやりやすいような気がする。

 元は豆なわけだし、強烈な苦みとかもない。

 少なくとも固体よりは流動体の方がリスクは少なくなるはずだ。


 テツマメから錬成した丸薬を砕いて粉になるまですりつぶし、水に混ぜて完全に溶けるまでかき混ぜた。

 これなら途中で詰まることなく飲ませられるはずだ。


 さて、いよいよこれを実行に移すわけだ。

 俺はミラの上体を少しだけ起こし、顎を引かせて口の間に隙間を作る。

 意識のない人間の口を開けるのには結構力が必要だということを失念していた。


 「レオナルドさん、お願いします」

  

 俺がミラの口を開けているので当然俺の手は空いていない。

 レオナルドさんがいてよかった。


 「始めるよ」

 「はい」 


 レオナルドさんは手にしたカップを傾け、ミラの口に薬を混ぜた水をゆっくりと注ぎはじめた。


 「ストップ!」


 俺はレオナルドさんの手を止めさせた。

 その間にミラの首を傾かせて口に含まれた液体を喉へと送り込む。

 慎重に、慎重に。


 少し注いでは制止をかけ、咽ないようにゆっくりと流し込む。

 これを繰り返すこと数分、今回作った薬をすべて飲ませることができた。


 「これで少しはこの子の助けになればいいんだが……」


 レオナルドさんはこの上なく落ち着かない様子だ。

 境遇こそどうあれ、やはりミラの父親だっていうのを感じさせられる。


 ミラ、早く目を覚ましてくれよ……


 

 


 


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