二人の魔法使いと募る愛情
今回はタカノ視点の話です。
俺たちが目を付け、やって来たのはカミュレの屋敷があるという場所の近隣の雑木林。
オズ曰く『結界か何かのせいで屋敷まで直接乗り込むことができない』らしい。
だから近くまで移動してそこから自分たちの足で乗り込もうという算段だ。
「で、こっからの道はわかるのか?」
「もちろん。アタシに任せときなさいって」
その台詞の真偽はともかくとして、俺は地理情報がさっぱりわからないので信じる他にない。
「アタシが先頭に立つから、アンタはアリスをお願い」
言われなくてもすでにそうしている。
オズが先頭に立って俺たちを導き、俺とアリスがその後ろについてレオナルドさんが最後尾について脇にはクロが並んでいる。
まるでゲームのパーティだ。
「待ちたまえ、この先に何かがいる」
道を進む俺たちをレオナルドさんが呼び止めた。
何かがいるから警戒しろということだろう。
レオナルドさんは予言じみているぐらいに先を見通す力があるから真実だろう。
「確かに、何かいるわね」
帽子の鍔を目元を覆うように傾け、オズは杖を構えた。
どうやら俺たちに対して敵意を抱いているらしい。
「姿を見せたまえ。応じないならこちらとて容赦はしない」
レオナルドさんは姿を隠している刺客に対して忠告した。
普段の振る舞いに比べてかなり威圧的な声だ。
そんな忠告に対し、刺客は姿を現さない。
「仕方がない、それでも応じないのなら実力行使に出るしかない」
「とりあえずこの鬱陶しい木を焼き払ってしまいしょう」
レオナルドさんが呆れるように呟き、オズが杖を天に掲げた。
杖の示す先を見上げると晴れていた空模様を塗り替えるように黒雲が立ち込め、今にも解き放たれんとばかりに小さな雷鳴が聞こえてくる。
「今のアタシたち余裕がないから、生かすことなく消し飛ばしちゃうかもね」
そう言い放ったオズが掲げた杖で周囲を振り払うと、その先は一瞬で緑生い茂る雑木林から草一本残らない焦土へと変わり果てた。
視界を遮っていた木々はまったく残っていないし、レオナルドさんが気配を感じ取ったのであろう刺客の姿はまったく見えない、きっとさっきの雷撃で肉片も残さずに消し飛ばされてしまったのだろう。
我が妻、恐るべし。
「さあ行こう、こんなところで時間を使わされるのは惜しい」
姿は見えなかったとはいえ、目の前から人が消えたことにまったく怖じることなくレオナルドさんは歩みを進めだした。
ついでと言わんばかりに以前俺たちを守るために発動してくれた幻術を使用し、俺たちの姿を隠してくれた。
最強の攻撃役オズと最強の防御役レオナルドさん。
この二人さえいれば俺たちは必要ないんじゃないかとすら思えてくる。
「カミュレの屋敷まではあとどれぐらいだ?」
「何もなければ日が暮れるまでには着くはずよ」
まだけっこうあるな。
それなら危険がなさそうな今のうちにやっておきたいことがある。
「ちょっとここで足を止めてくれないか、アリスにご飯あげたりしねえと」
ここに連れてきた以上、我が子の世話は俺たちがしないといけない。
今なら狙われることはないだろうし、今のうちに要求されそうなものを与えてしまった方が俺たちの支障も少ないだろう。
「小休止にしよう。時間は惜しいが休息も必要だ」
そう言いながらレオナルドさんはその場に腰を下ろした。
何の見栄えもない殺風景だが逆にこれならどこから資格が来ようともわかるし、幻術に護られているから防御もされている。
「話はミラから聞いていたけれど、とてもかわいい子だね」
殺伐とした俺たちの空気が少しだけ温まった。
そういえばレオナルドさんはアリスの顔を見るのは初めてだったっけか。
「そうでしょう。ゆくゆくは可愛い女の子になってくれますかね?」
「クラリスちゃんの子だろう?きっと可愛くて強い魔法使いになるよ」
殺風景の中で団欒の時が流れる。
惜しむべくはこの場にミラがいないことだ。
だから今度はミラを加えて、みんな揃って笑いたい。
アリスにおっぱいを飲ませて寝かしつけるところまではできた。
この寝顔を見ていると自然と心が落ち着いてくる。
「いつか前に見たミラが赤ん坊のころの寝顔もこんな風だったなぁ」
アリスの寝顔を覗いたレオナルドさんが昔を懐かしんでいる。
「今の寝顔もまったく変わらないと思いますよ」
「そうそう、アタシもミラの小さい頃の寝顔を見たことあるけど今も昔も変わんないわよ」
話せば話すほど俺たちのミラへの愛情が深いことが理解できた。
もう小休止は終わりだ。
すぐにでも足を動かさないと。
「いつまでも休んでいられない。行くか」
「そうね、次に笑うのはミラを取り戻してから」
「必ず取り返そう。私たちの娘を」
日が暮れるまでじゃ遅い。
もっと早く移動できる手段を……
「いいことを思いついたぞ」
俺はクロの首を撫でた。
クロを使えばもっと早く移動ができるはずだ。
「なるほど、でも背中に乗れるのはよくて二人ぐらいかしらねぇ」
「確かに。クロ君は身体が大きいけれど乗れる人数には限度がある」
二人の言う通り、クロに乗れる人数はせいぜい二人程度だ。
だがそれはあくまで『背中』に乗れる人数のことだ。
「アンタの発想には毎度驚かされるわ」
「お前に比べりゃ全然だけどな」
クロの背中の上からオズが話しかけてくる。
一方俺はというとクロの足に掴まって宙吊り状態になっている。
確かにクロの背中には大人二人程度が限界だろうが足になら追加で掴まれる。
腕の持久力が必要になる以上、魔法使いの二人にはきついだろうが俺なら問題はない。
「行くぞ、カミュレの屋敷へ!」
我が子と妻と、ペットのドラゴンと、そして義理の娘の父親と共に俺はカミュレの屋敷へと向かう。
待ってろミラ、必ず助け出してやるからな。




