初めての夜泣き
あれからというもの、不定期ではあるが機動隊の仲間たちがちょくちょく我が家を尋ねに来てくれるようになった。
特に頻繁に来るのがアル、次いでグレイさん、アレンといった具合だ。
育児にも慣れてきていろいろなことが案外苦にもならなくなった。
……と、思っていた。
あのイベントの存在を思い出すまでは。
それはとある日の真夜中のことだった。
俺は二階から聞こえてくる何かの音に起こされた。
寝ぼけていてはじめは気づかなかったが、それはよく聞くとアリスの泣き声だった。
こんな時間に何を要求しているんだ……?
「……ッ!?」
十数秒ほど考えた結果、ぼんやりとしていた俺の脳が急に活性化した。
間違いない、あれは『夜泣き』だ!
俺はベッドから飛び起き、アリスがいるオズの部屋へと向かった。
「あー……なんで急に泣き出したんだろう……」
オズの部屋を訪れると寝ぼけ眼を擦って独り言を零しながらオズがアリスをあやしていた。
夜中に急に起こされて脳が追い付いていないのだろう。
「なんでだろう。ご飯じゃないし、おむつは汚れてないし……」
俺にはまるで原因がわからない。
何を要求してるんだ?
原因を追究する俺たちを置いてアリスは泣き続ける。
「俺がなんとかしておくから。お前はゆっくり寝ていてくれよ」
育児関係のことでオズに過度なストレスを与えたくはない。
とりあえずここは俺がなんとかしないと……
さて、アリスを預かってきた当の本人はというと小さくグズっている。
ご飯でもなければおむつの交換でもない、オズがあやしても効果は全くなかった。
何を要求されているのかやっぱりわからん。
困り果てている俺をあおるようにアリスはグズり続ける。
「どうすりゃいいんだよ……」
そう呟かずにはいられない。
ここで俺の脳裏にあることが過ってきた。
ミラのことだ。
彼女は朝に弱いのはもちろんのことなんだが不意に起こされるのを極端に嫌がる。
夜泣きを聞きつけて目を覚まそうものなら二次災害が発生しかねない。
「おぉ……なんで泣いてるのか知らんがとにかく泣き止んでくれよ……」
夜中に目を覚ましたから眠気で意識が朦朧としている。
いくらグズっているとはいっても相手は赤ちゃんだ、その内寝るだろ……
「不安か?不安なのか?」
夜の暗さは大人でも時々不安になるぐらいだ。
もしそうだとすれば赤ちゃんなら夜の闇に視界が閉ざされてさぞ不安なことだろう。
「大丈夫だ。お父さんが傍にいてやるからな」
とにかくアリスに安心感を伝えてみよう。
もしかすれば落ち着いてくれるかもしれないし。
そしてそうこうしている間に夜は過ぎていき……
「……あれ?」
気が付けば俺はベッドの上で無造作に寝ていた。
アリスの姿が見当たらない、どこに行ったのだろう。
まさか落とした!?
俺は自分でも信じられないほどの勢いでベッドから飛び起きた。
「おはよう。昨夜はありがとね」
家の中をうろついているとアリスを抱いたオズに声をかけられた。
いつの間にアリスを引き取って行ったのだろう。
何はともあれ、俺の不手際で落としたとかいうわけではなくて安心した。
「結局何が原因で泣いてたのかはわからなかった」
昨夜のあれのことをオズに話した。
結局俺は寝てしまっていたがアリスも寝ていたらしい。
「アンタでも思い当たるものなかったのねぇ、どうしたものかしら……」
「そうだよなぁ。それに夜泣きが今回だけで終わりとは思えんからな」
俺の何気ない一言でオズが一気に顔を訝しめた。
そりゃそうだよな、あんなのがこれから先も続くって言われて喜ぶ奴なんていないもんな。
「なんとか対処法を考えないと」
オズの表情は確実に焦りがあるように見える。
だが俺もどうすればいいのかわからない。
わからないもの同士でいくら悩みあったところで答えが出てくるはずもない。
「他のお母さん連中に聞いてみるっていうのはどうだ?」
俺はふと思ったことを口走った。
こういう時は先人の知恵を借りるのが一番だと思ったからだ。
「他のお母さんねぇ、ヴィヴィアンさんはすぐに顔を合わせられる人じゃないし……」
確かに。
ヴィヴィアンさんはあれからキャメロット王国に帰ってしまっているから手紙を送ってもすぐには答えは得られない。
「ギルドでママ友でも作ってみたらどうだ?」
「ママ友?」
俺のもといた世界ではお母さん同士のコミュニティをそう呼んでいた。
きっと今回の件でも力を貸してくれるはずだ。
「よし!そうとなればすぐにママ友を作りに行ってくるわ!」
そういうとオズはアリスを抱えて外へ飛び出していった。
恐らく行先はギルドだろう。
思いついてから行動に移るまでの早さは流石だ。
さて、ミラは学校に行っているようだし、家には俺一人だ。
きっと朝の家事は俺の代わりにオズがやってくれたんだろう、感謝しなければ。
さて、手が空いた俺は何をしようか……




