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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第10章 おじさんの子
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四年目のドラゴン 後編

 前略、ドラゴンは低温を弱点としていることが判明した。

 それを前提としてレオナルドさんが強力な攻撃をかけたのまではいいんだが……


 「ヤバっ……震えが止まらない……」


 急激に外気が冷え込んだ影響でオズがを起こしてしまった。

 今のオズの状態が状態なだけに無視できない。


 「おい、大丈夫か!?」

 「大丈夫、自分で立てるか……ら……」


 自力で立ち上がろうとしたオズは再びその場に崩れ落ちた。

 ダメだ、足に力が入っていない。

 それにすごい汗だ。

 ワイバーンが近づいていないことを好機にオズの髪をかき分け、額に手を当てて熱を測る。


 「熱がある、すぐに治療してもらうぞ」


 身体的、精神的な負担がいろいろと祟ってしまったのだろう。

 こんな状態で戦わせるわけにはいかない。


 「レオナルドさん、この場は任せます」

 「わかった。時間は最大限に稼いで見せるよ」


 オズを抱きかかえ、俺は裏の医療部隊の滞在する泊地に向かった。


 「ゴメンね、無茶言った挙句にこの有様でさ……」


 オズがかつてないほどに弱弱しい声で俺に謝ってきた。

 いまさらそんなことを言われたってどうにもならない。


 「イレギュラーが重なった結果こうなっただけだ。お前は悪くない」

 

 いつもなら負けん気全開で立ち上がって戦い続けようとするぐらいの気の強さがあるはずなんだが今日はわけが違う。

 これは妊娠していることによる感情の不安定さだろうか。

 弱った嫁の姿を見るのは俺も心苦しくなる。


 およそ数分後、医療部隊の泊地に到着した。

 

 「急病人だ。発熱があるから応急処置を頼む」


 最寄りの医療部隊の人にオズの容体を伝え、案内されるがままにベッドまで運んで行った。

 オズは小さく震えている、寒気が収まらないのだろう。

 身体を温めて水分を補給させないと。


 「ミラは大丈夫かな……?」

 

 ひとまず応急処置を施してもらったオズはミラのことを心配しているようだった。

 

 「大丈夫だ。きっとレオナルドさんについて上手くやってる」


 自分の目で確かめに行きたいが今のオズから目を離すわけにはいかない。

 あの子のことだからちゃんと聞き分けができるはずだ。


 「タオル取り替えてほしかったらいつでも言えよ」

 「ありがと……ほんとありがと……」


 急病でも衰弱に加えて妊娠中の感情の不安定さもあって信じられないほどに弱弱しい。

 

 「ごめん……ずっとなにもかも頼りっきりでさ……アンタと出会ってなかったらアタシはずっと何もできない人間だったし、何度も助けてもらっちゃって、今もこうして優しくしてもらって……」


 オズは己の胸中を俺に打ち明けてきた。

 きっとこうでもしないと込み上げてくる不安に押しつぶされてしまいそうなのだろう。


 「アタシ……魔法使いたちの前では強くなきゃいけないからこんな風に甘えられるのアンタぐらいしかいなくて……でもこんな姿見せたら嫌われるんじゃないかって考えたら怖くて……」


 胸中を打ち明ける最中でオズは泣き出してしまった。

 なるほど、確かにオズは魔法使いの頂点に立っている存在だし、それ相応の振る舞いというのを意識していたんだな。

 

 「あのな。俺はオズが弱った姿を見せようとも嫌ったりしねえし、幻滅するようなこともねえ。だから不安になったら思う存分甘えればいいんだよ。どんなお前でも俺は受け入れる」

 「う、うぅ……」


 とにかくオズの中の不安を取り除くか、それができなくても軽減するぐらいはしてやらねえと。


 「そりゃあ俺よりお前の方が強いし、本気で喧嘩したらこっちは絶対に勝てねえ。そんな俺でもお前を支えることはできる。だからさ、もっと遠慮なく俺のこと頼ってくれよ」


 臭いことを言ったかもしれないが、オズに返した言葉は俺の本心だ。

 彼女に寄り添い、支えとなり続ける決心をしたからこそ結婚という道を選んだんだ。

 

 「何かあったら責任は俺が取る。だから後のことは他のみんなに任せてお前はゆっくり休め。な?」

 

 こんな時だからこそ俺はオズを全力で守って、彼女の手足の代わりになってやらなければならない。

 心配するな、普段頑張ってるお前の代わりに今俺が頑張るだけなんだからさ。


 「ごめんね……少し休んだら、また頑張るから」


 そういうとオズは潤んだ目をゆっくりと閉じた。

 少しじゃなくてもいい、元気になるまでゆっくり休んでくれ。


 オズが寝息を立て始めた。

 これでようやくゆっくりできるみたいだな。 

 ミラの方が少し心配だ、ちょっと様子を見に行ってこようかな。


 「すみません、少しの間だけオズのことを見てもらっても大丈夫ですか?」

 「わかりました」


 医療部隊の一人にオズの看病を任せ、俺はミラの様子を見に行くことにした。

 

 「ミラ!!」


 彼女の名を叫び、俺は再び防衛の前線へと戻った。

 レオナルドさんがかなり足止めをしてくれていたようだがドラゴンはこちらに着実に足を進めていた。


 「トモユキ!お姉ちゃんは!?」


 俺に気づいたミラがオズの安否を心配している。

 

 「大丈夫だ!今は眠ってる!」


 オズのことも心配だがドラゴンも心配だ。

 ドラゴンが『とある行動』を起こさないかと思うと気が気でない。


 「ッ!?」


 心配していた矢先にこれだ。

 ドラゴンは首を持ち上げ、大きく息を吸い込むような素振りを見せた。

 間違いない、『咆哮』が飛んでくる。


 今咆哮を飛ばされるとかなり不味いことになる。

 俺たちや砦へのダメージもそうだがその轟音でオズが目を覚ましてしまう。

 さらにその音圧がお腹の子供にダメージを与えてしまいかねない。

 それだけはなんとしてでも避けなければ。


 「ドラゴンの咆哮を阻止するんだ!」

 「ダメです!間に合いません!」


 すでにドラゴンの腹が限界まで膨張している。

 口を開くまであと数秒あるかないかか。


 「お父さん!剣を貸して!」


 ミラが鬼気迫る様子でレオナルドさんに訴えた。

 選定の剣を使えば彼女はすさまじい魔法を扱うことができる。

 その力があればもしかすれば……


 「お願いします!一時的でもいいですから!」

 「お願い!もう時間がないの!」


 二人がかりでの押しに折れてレオナルドさんは無言で剣を鞘に納め、それをミラに投げて渡した。

 ミラはそれをキャッチすると鞘からその刀身を抜き、柄を両手で握り締めて詠唱を始めた。


 「その輝きは癒しの息吹、その輝きは万物を遮る盾、その輝きは根源へと至る道」


 初めて聞くミラの魔法詠唱だ。

 選定の剣を手にして詠唱をするということは大掛かりな魔法を発動するというわけで……


 「発動せよ!ヘブンズ・アーク!」


 詠唱の完了と共にミラが剣を掲げるとその刃は白い輝きを放ち、俺たちの前に光の大盾が展開された。


 「ドラゴンが吠えるぞ!」


 クルセイダーの一人から警告を受けて思わず身構えた。

 ……が。


 結界の向こうのドラゴンは明らかに咆哮している。

 だがその威力がミラの展開した結界に遮られて届かないばかりかその轟音すらも聞こえてこない。


 「すげえ……」

 「すごいでしょ!水晶の森で初めて大魔法を使ってからこっそり研究してたんだよ!」


 そうだったのか。

 水晶の森で発動させたときは周囲の草木や人間が次々に回復させていた。

 それを発展させて防御と回復に特化させたというわけだな。


 その輝きはまさに『天からの助け舟』というにふさわしいだろう。


 「この光は……」

 「身体に力が漲ってくる!」


 前線でドラゴンやワイバーンと交戦していたクルセイダーや魔法使いたちが活気を取り戻し始めていた。

 やはりそうだったか。

 ということはもしや……


 「ちょっと医療部隊の泊地に戻ってくる!」


 大慌てでオズのいる医療部隊の泊地に向かった。


 「なんか起きたら元通りになってたんですけど」


 ベッドの上で上体を起こしていたオズはすっかり血色がよくなっていた。

 

 「マジか。熱はどうだ」

 「大丈夫」


 念のために額に手を当てて熱を測ったが本当に平熱に戻っている。

 ミラの魔法結界の効力で体調が元に戻ったようだ。


 「後でミラにお礼言わないとな」

 「ミラに?」

 「あの子が発動した魔法のおかげでお前の熱が引いたんだよ。今もドラゴンから皆を守ってくれている」


 事実を知ったオズは驚いたように目を丸くした。


 「あの子に任せていられないわね。アタシもいいところ見せなきゃ」


 オズは気を取り直し、杖を手に取って帽子を深く被った。

 普段の強気さを取り戻したようだ。


 「アンタ、アタシの背中はちゃんと守ってよね」

 「任せとけ。もともとそういう約束だったからな」


 行くぞ、俺たちの戦いはここからだ。


 「オズ、ドラゴンの弱点は低温だ。奴の体温を奪えば効果的に攻められる」

 「わかったわ。それなら必要以上に力を使わずに済みそうね」


 戦線に復帰したオズと共に俺は砦へと戻ってきた。

 オズの姿を見た他の仲間たちはミラによる回復に加えてさらに士気を昂らせた。


 「お姉ちゃん!」

 「ありがとうミラ。後はお姉ちゃんに任せておきなさい」


 オズはミラの頭を撫で、彼女に代わって前へと立った。

 杖を構え、その先をドラゴンへと定める。

 それを見たミラは結界を解き、剣を鞘に納めてレオナルドさんへと返還してオズを見守る。


 「レオナルド、ドラゴンには低温が効くっていうのは間違いないのよね?」

 「間違いない。すでに我々によって立証済みだ」

 

 「さあ行くわよ!」


 オズは杖を振り下ろし、ドラゴンの足元を一瞬で凍結させた。

 四肢を氷によって封じられた上に体温を奪われてドラゴンは一気に弱っていく。


 「目標!前方のドラゴン!大砲発射用意!!」


 クルセイダーの大砲部隊から号令がかかり、ドラゴンへと狙いが定められる。

 ついにその火力をお披露目してくれるんだな。


 「三、二、一、発射!!」


 爆発音と同時に大砲の発射口から炎と黒煙が噴きあがり、巨大な黒鉄の弾丸が放たれた。

 勢いよく撃ち上げられた弾丸は放物線を描き、ドラゴンの上半身に次々と着弾する。


 「着弾確認!」


 すげえ威力だ。

 ドラゴンの角に命中した大砲の弾はいともたやすくそれをへし折ってみせた。


 だがその威力に関心してばかりではいられない。

 強力な分撃ち手は無防備になる。


 「危ねえぞ!」


 俺はハンマーをぶん回してワイバーンの一匹を討ち取った。

 ただの人間だってちゃんと活躍はできる。

 

 「第二弾!発射用意!」


 第二弾の発射号令がかかった。

 ようやく俺たちただの人間も魔法使いと並んでドラゴンに立ち向かえるようになったんだな。


 「あっぶないわね!!」


 背後から迫っていたワイバーンを俺が殴り飛ばしたのを振り返って確認したオズは落雷を起こして上空を飛び回っていた他のワイバーンをまとめて撃ち落とした。

 オズがワイバーンを一掃し、それを掻い潜ったワイバーンは俺たちが駆逐、そして魔法使いたちと大砲部隊がドラゴンに有効打を与えられるし、万一の場合にもミラが鉄壁の守りを展開してくれる。

 なんかもう負ける気がしない。


 そんなこんなで攻守を切り替えながら戦うこと数時間。

 ついにドラゴンは力尽きた。

 角が折れ、足が凍り付いて限界までボロボロになった巨体が音を立てて地面に倒れこむ。

 

 「終わったぞ。今年のドラゴン迎撃戦が……」

 「えぇ、討伐までできたわね」


 俺たちは一斉に歓喜の声を上げた。

 空を覆いつくしていたワイバーンの残党もドラゴンが息絶えたのを知ると遠くへと逃げて行った。

 これでドラゴン迎撃戦はひとまず終わりだ。


 「ありがとなミラ。みんなを守ってくれて」

 「ミラは役に立てた?」

 「ええ。ミラがいなかったらアタシは今頃ベッドの上でうなされてただろうし」


 実際その通りだ。

 ミラが大魔法を使ったからこそこちらの被害はほぼ皆無になったし、オズが戦線に戻ってくることができた。

 感謝してもしきれない。


 「そういえばレオナルドさんは?」


 さっきから姿が見当たらない。


 「もう少し残っていくんだって。ドラゴンのことで調べたいことがあるみたい」


 そうか、いかにもあの人らしい。


 「アンタも、今日はいろいろとありがとね」

 「お安い御用だ。それより体調はどうだ?なにか違和感とかは」

 「大丈夫、力はちゃんと抑えたからなんともない」


 そうか、それならよかった。


 これからはまた夫婦共同での産休が再開される。

 もうすぐ秋になるから季節の変わり目にも備えないとな。


 さあ帰ろう。

 俺たちの家へ。

 


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