急成長!?
ドラゴン迎撃戦が終わり、夏が過ぎて異世界生活四度目の秋を迎えた。
ミラは夏休みが終わって普段通りに学校が再開した。
俺はといえばまだまだ休暇中だ。
で、現在俺たちはただならぬ事態に直面している。
「お腹が超重たいんですけど……」
どういうわけかオズのお腹がすごく大きくなっている。
妊娠の経過にしてはあまりにも早すぎだ、どう考えても数十週間はかかるであろう大きさまで一気に成長している。
原因はどうあれ、こうなってしまったものは仕方がない。
本来よりも大幅に出産が早まったことを念頭に入れて行動しないといけないな。
「お腹の子は大丈夫か?」
「ちゃんと生きてるわ。ついさっきお腹蹴られたっぽいし……」
「ふふっ」
子供は無事なようで安心したのもあるけどオズの表情が面白くてちょっと笑ってしまった。
「なによ?」
「いや、安心したっていうか、ちょっとおもしろかったというか」
「じゃあアンタも蹴られてみる?」
「やめてくれよ」
正直なところ腹の内側から蹴られるってどんな感じなんだろうな。
男の俺にはまず経験できないだろうし、永遠にわからないか。
「なあ、ちょっとだけいいか?」
「何」
少しだけ試してみたいことがある。
お腹の中の赤ちゃんの鼓動って聴こえるんだろうか。
「少しお腹に耳を傾けさせてくれ」
「ひやっ!?な、なによいきなり!?」
けっこう唐突なアクションだったのもあってオズがかなり驚いている。
意外とかわいい声も出せるんだな。
「赤ちゃんの鼓動って外から聴こえるのか確かめたくなってさ」
「なんだびっくりしたぁ。で、聴こえる?」
……ッ!!
聴こえる、微かではあるが心臓が動いているのが伝わってくる。
すげえ、これが生命の神秘って奴か。
「聴こえたぞ。俺たちの子の鼓動がな」
「生まれてくるのが楽しみね」
「ああ、そうだな」
だからオズが健康を維持できるように俺も手を尽くさないとな。
さて、ふと気になったことがある。
今回の現象の直接的な原因に魔法が絡んでいるのはほぼ間違いないんだが何がこれを引き起こしたんだろう。
実はオズが結構身体に負担をかけるレベルの魔法を行使していたとかだろうか。
彼女なら実際にあり得る線だが俺との約束を守ってくれたようだし、力を抑えていたというのは嘘ではない。
だとすればレオナルドさんだろうか。
いや、あの人に限ってそれはないな。
猛烈な寒気で一時はオズをダウンさせたがさすがにこんな効果まではないはずだ。
だとすれば残るはミラ……?
あの『ヘブンズアーク』という大魔法、彼女が発現させた癒しと守護を兼ね備えた絶対の防御結界だがどんな仕組みで俺たちを回復させているのだろう。
魔法に理屈を求めるのは野暮なことだがもしかするとそこに答えがあるのかもしれない。
ミラに直接訪ねてみよう。
「ただいまー!」
噂をすればなんとやら。
ミラが学校から帰ってきた。
オズが妊娠してからというものミラは学校帰りは寄り道せずにまっすぐに帰ってくるようになった。
「おかえり。今日は学校どうだった?」
「楽しかったよ!」
そうか、それはよかった。
「なあミラ。この前使った大魔法について聞きたいことがあるんだが」
「うん、どんなこと?」
「あの魔法、俺たちの体力を回復する力があるみたいだがどういう仕組みになってるんだ?」
「あれはね、光の力で生命力を極限まで活性化させて治癒力を引き上げてるの。だからケガや病気を治してるのは光そのものじゃなくてそれを浴びた生き物自身の力っていうわけ」
そういう仕組みになってたのか。
その言い方だと回復効果は生き物以外には適用されないってことになるな。
というか魔法ってそういう仕組みを決めた上で編み出すのか。
三年ほど魔法使いたちと一緒に暮らしてきて初めて知ったぞ。
オズの召喚魔法にも仕組みがあるってことだよな、今度聞いてみよう。
ということは、あの大魔法の光を浴びたオズの生命力が極限まで高まったことでお腹の子も同時に急成長したっていうことだよな。
メリットともデメリットともとれるなんとも言えない副作用だ。
「なるほどな」
「それがどうかしたの?」
「オズの腹が急に大きくなったからもしやって思ってな」
それを聞いたミラは目を輝かせた。
「お姉ちゃんが!?すぐに見に行く!」
そういうとミラは俺の方へ手荷物を放り投げてオズの元へ飛び込むように走って行った。
「おぉー!もうこんなに大きくなったんだ」
「アタシもびっくりよ」
「いつ産まれるのかな?」
「わかんないけど、冬ぐらい……かな?」
「じゃあ、産まれたらお姉ちゃんはお母さんになるね」
そうだ、オズはお母さんになるし俺はお父さんになる。
何気ないようでとても重要なことだ。
今までミラの『親代わり』だった俺もこれで名実ともに『父親』になるわけだからな。
「お姉ちゃんがお母さんになるってことは……ミラはどうなるのかな?」
「そうねぇ、ミラはこの子の『お姉ちゃん』になるわね」
「ミラが……お姉ちゃんに!」
その言葉の響きにミラは目を輝かせた。
俺たちの子はミラにとっては義理の弟か妹になる。
オズの妹分として可愛がられていた彼女もきっと心のどこかではオズのように振舞いたかったのかもな。
いろいろと微笑ましい光景を眺めていると俺の中でふと重要なことが思い出された。
『子供の名前を決めなければ』




