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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第10章 おじさんの子
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先人の知恵

 「うぅ……頭痛い……」


 早朝からオズが頭痛に苦しんでいる。

 この前調べてみたところによると妊娠初期のつわりの症状の一つなんだそうだ。


 「大丈夫か?何かできることはあるか?」

 

 悲しいかな、俺は症状の一例を知っていてもそれへの対策がわからない。

 どうすればいいんだろう。


 「大丈夫、それよりお腹空いたからご飯作って……」


 頭痛はあれど食欲は健在なようで少し安心した。

 日常会話が問題なくこなせてるし、程度はひどくはないらしい。

 この調子ならまだ大丈夫そうだ。


 それにしても、この症状をあらかじめ防ぐ方法とかないかなぁ。

 そうすればオズにかかる負担が減るし、俺が動く回数も減らせるんだが。

 調べても具体的な答えは出なかった。

 誰かに聞けばわかるだろうか。


 「ん……やっぱりそうね」


 俺が持ってきた飯を見てオズが答え合わせをしているかのように呟いた。

 

 「どうかしたか」

 「なんだか、いつもよりよく匂いがわかるの」


 あー、つわりの症状の一つに『一部の匂いに敏感になる』っていうのがあったっけ。

 炊き飯や煙草なんかが特にそうらしい。

 俺は喫煙しないから後者の方を気にすることはないけれども。


 「もしかして匂いきつかったか?」

 「別に。ご飯の匂いは嫌じゃないわ」


 そうか、それならいいんだ。

 

 「きつかったらいつでも言えよ。対策考えるからさ」


 男の俺にはわからない感覚だからオズ本人に伝えてもらわないと対策を考えられないのがなんとももどかしい。

 一方でオズはというと俺を見ながらクスクスと笑っている。

 なにかおかしいこと言ったかな。


 「なんだ?何か面白いこと言ったか?」

 「アンタってホント優しいわよねぇ」


 別にそういうわけでもないぞ。

 怒るときは怒るし。

 ただ我が家では俺が怒るようなことがほとんどないっていうだけだ。


 「こういう時ぐらいしか素直に優しくしてやれねえよ」


 思い返せば結構意地張ってたんだよなぁ。

 俺から正直な思いを伝えたことはほんの数回ぐらいしかないんじゃないだろうか。

 せめて今ぐらい、正直な気持ちで向き合おう。


 それはそれとして、オズはいつも通りに食事に手を付けてくれた。

 食事ができるならたぶん大丈夫かな。


 「なんかご飯食べたら気分が楽になってきた」

 「そっか、一応もう少しぐらい寝てればいつも通りになるだろう」


 そろそろ時刻は八時を回る。

 もうすぐミラを起こす時間だ。

 彼女は歳を重ねるごとに早起きが苦手になっていっている気がする。

 夜更かしをするようにでもなったのだろうか。


 「起きろミラ。朝ごはんできてるぞ」


 ミラの部屋を覗いて声をかけた。

 この季節だというのにミラは掛布団にくるまって眠っている。

 暑くないのだろうか。


 「う、うーん……」

 「ほら起きた起きた。今日も学校だろ?」


 実は八時がミラを叩き起こしても怒られないギリギリのラインだ。

 特別な理由なしにこれ以上早く起こそうとすると露骨に機嫌が悪くなる。

 

 「お姉ちゃんは?」

 「先に食べたぞ」

 「そう。調子はよさそう?」

 「ちょっと前まで頭痛いって言ってたけど朝ごはん食べたら軽くなったってよ」

 「そっか。それならよかった」

 

 ミラはどんな時でも俺たちを気にかけてくれている。

 感謝だ。


 「じゃあ行ってきまーす!」

 「おう、いってらっしゃい」


 俺は学校に行くミラを玄関前で送り出した。

 さあ、オズが寝ている間に家の中のことを一通りやってしまおう。


 洗濯よし、食器洗いよし。

 買い物は……オズが起きたら一緒に行くか。


 今朝のオズの頭痛、きっと今回に限ったことじゃないよな。

 いつまで続くかわからないし、再発したときのために何か対策をしたいけれどどうすればいいだろう。


 わからん、せめてこういう時に医療知識がある人がいればなぁ。

 ……そうだ!


 再び目を覚ましたオズの体調がいつも通りに戻ったようなので一緒に買い物に出かけた。

 もしかすればギルドの人にいる人からなにか情報を貰えるかもしれない。


 「オズ、ちょっと寄りたいところがあるんだがいいか?」

 「別にいいけどどこ?」

 「薬屋だ」


 こういう時、役に立ちそうな知識をくれそうなのはまず薬屋だ。

 聞いたことをただ俺が伝えるよりは当事者と一緒に話を聞く方がいいだろう。


 「おぉ、いつか前のクルセイダーの方だね」

 「お久しぶりです」


 およそ一年ぶりに薬屋の婆さんと顔を合わせた。

 前に会ったときに比べると少し腰が曲がったような気がするけど元気そうで何よりだ。


 近くにあった椅子に腰を下ろし、俺とオズは婆さんに事情を説明した。

 年齢経験や職業的に一番頼れそうなのがこの人だ。


 「ほう、子供が生まれるのかい。そりゃあめでたいね」

 「ありがとうございます」


 社交辞令的な言葉にオズは喜んで返事をした。


 「それで、つわりの対策だったね」


 話を切り替え、薬屋の婆さんは本題に入った。


 「はい。何かいい知恵はありますか?」

 「あるよ。特に嬢ちゃんはよく聞いておきな」

 「は、はい」


 仕事モードの婆さんは雰囲気がガラリと変わる。

 オズも真剣に聞く意思を示している。


 「朝方は頭痛が起こりやすい。もう経験したかい?」

 「はい、ちょうど今朝に」

 「それなら話は早い。枕元になにか甘いものを置いておきな、手ごろに砂糖が摂れるようにしておくんだよ」

 

 砂糖か。

 お菓子類で事足りるかな。


 「ここらで売ってる菓子類で間に合いますかね」

 「それでも十分さ。ただし食べ過ぎは太るから気を付けな」

 「気を付けます」


 早朝の頭痛への対策は見つかった。

 後で菓子売り場に行こう。


 「吐き気は経験したかい?」

 「いや、まだ」

 「急に吐き気を催すことがあるかもしれないけど無理に我慢することはない。あまりにひどいっていうんなら妊婦用の吐き気止めを調合してやろう」

  

 前の世界の知識のうろ覚えだけど妊婦が服用できる薬って普段よりもかなり限られてるんだっけか。

 こっちの世界でもある程度そういう区別があるんだな。


 「どうする?念のために少し処方してもらうか?」

 「うーん……じゃあ三回分お願いします」

 「はいよ。今日中には間に合わないけど早めに作っとくよ」

 

 ありがたい。

 備えあればなんとやらだ。


 「つわりは特に妊娠したての頃に起こりやすい。今はつらいだろうけど時間が経てば次第に症状は軽くなるよ。個人差は多少はあるけどね」

 「本当ですか!?」

 「こんなところで嘘をついたってどうにもならんよ。ハッハッハ」


 婆さんは茶化すように笑った。

 少し口が悪いけど根は気さくな人だ。


 「よかったな。対策が見つかって」

 「そうね、これで少しは楽になるといいわね」


 意外とあっさり解決策が見つかってよかった。

 婆さんに応援の言葉ももらえたし、気が楽になった。


 「嬢ちゃん、ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?」

 「アタシですか?」

 「そう。悪いがこっから先は女の世界だから男は少し席を外してくれるかい?」


 薬屋の入り口付近で待つこと数十分、オズは婆さんと一緒に帰ってきた。

 けっこう話し込んでいたようだが何を話していたんだろう。


 「二人ともうまくやりなよ。何かあったらまた相談に来な」

 「はい。ありがとうございました!」


 まだまだこれからだ。

 がんばってオズを支えるぞ。

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