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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第10章 おじさんの子
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夫婦の勉強会

 オズの妊娠が発覚した翌日、ギルドマスターに事情を説明した俺はしばらくの間休暇を貰えることになった。

 ちょっと前まで特殊な事情で休職状態だったけどすぐにまた休職することになっちゃったな。

 でも、これで気兼ねなくオズの側にいてやれる。

 

 一応ほんの少しだけど手当も出るらしい。

 貯金も合わせれば生活レベルを落とすことなく生活できるだろう。

 この制度が普及している世界で暮らすことができて本当によかった。


 さて、休暇一日目の俺はオズと一緒に図書館を訪れた。

 まず一つはレオナルドさんにオズの妊娠を報告するため、そしてもう一つは妊娠から出産までの間、俺たちが心がけておくことを勉強するためだ。

 一応ミラにも本屋にお使いを頼んだけどそれを待っているだけだとなんだか時間がもったいない。


 オズ曰く『座学は好きじゃないけど頑張って覚える』だそうだ。

 安心しろ、俺も全く同じことを考えている。

 俺も座学は苦手だけどオズのためにも頑張るからな。


 「やあ、こんな時間に二人揃ってやってくるなんて珍しいね」


 いつ訪れてもレオナルドさんは本の山に囲まれている。

 今は何の研究をしているのだろう。


 「いやあ、特別に休暇をいただきまして」

 「ほう。なにかあったのかな?」


 こういう時、決まってレオナルドさんは俺たちがなんというかわかっている。

 今回もそうだろうか。


 「アタシね、子供ができたの」

 「うんうん……ん?」


 わかっていたかのように頷いていたレオナルドさんが真顔に戻って訊ね直してきた。

 流石に今回のことは予想できなかったか。

 

 「クラリスちゃん、それは本当かい?」

 「ええ、本当よ。だからいろいろと勉強しに来たの」


 事情を理解したレオナルドさんは指を鳴らした。

 図書館に保管されている無数の本の中から数冊の本が飛び出し、レオナルドさんの手元へと収まる。


 「今の君たちが求める情報はこの中にある、必要とあらば手引きもするよ」

 

 レオナルドさんも積極的に俺たちを手助けしてくれるようだ。

 存分に好意に甘んじよう。


 「しかし、クラリスちゃんが子供を授かるとはね。そういうこととは無縁だと思っていたよ」

 「人は変わるのよ。いろいろとね」


 レオナルドさんはオズの方を見ながら、一方のオズは本に目を通してレオナルドさんには目もくれずにやり取りを交わした。

 その通り、人は生きていく中でいろいろと変わるものだ。

 ほとんど変わっていないのは俺とレオナルドさんぐらいじゃないだろうか。


 俺もオズの隣で必死になって本に記された知識の中から有益そうなものを選んでは持参してきたノートに書き記していた。

 流石に全部は覚えられないし書ききれない。


 「レオナルドさんはヴィヴィアンさんが身籠ったときはどうしてたんですか?」


 ふと思い立った俺はレオナルドさんに尋ねてみた。

 彼は俺の人生の先輩でもある、今俺が置かれた状況でどのように立ち回っていたんだろう。


 「私は普段通りに研究を続けていたよ。書斎か実験室さえあればできることだし、無理なくヴィヴィアンの傍についてあげられたからね」


 そうでしたか。

 何か役に立ちそうな情報はないだろうか。


 「そうだねえ、クラリスちゃんはしばらくの間お酒を飲むのを控えた方がいいね」

 

 そういえば妊婦の飲酒はお腹の子供に悪影響を与える可能性があるんだっけか。

 それを聞いたオズはものすごくショックを受けたような表情を見せた。

 

 「しばらくって、どれぐらい……?」

 「赤ちゃんが生まれて、その後離乳するまでかな」


 子供が生まれるまでにかかる日数はおよそ十月十日だと昔に聞いたことがある。

 そこからさらに離乳するまでと考えると軽く一年以上は断酒することになるな。

 無類の酒好きであるオズにはかなり堪えるものがあるだろう。


 「うぅ……辛いけど頑張る……」


 すでにめちゃくちゃ辛そうだ。

 ついつい甘やかしそうになるけどここは俺も厳しく見ていかないといけないな。


 「あとね、タカノ君。君にも一つアドバイスしておきたいことがある」

 

 俺にか。

 どんなことだろう。


 「妊娠中の女の子は気持ちが不安定になりやすいんだ。ヴィヴィアンもそうだったからね。もしクラリスちゃんの気持ちが暗くなってしまったときはタカノ君が支えてあげて欲しい」


 俗にいう『マタニティブルー』って奴だな、聞いたことがある。

 程度には個人差もあるらしいけどその時はちゃんと向き合ってあげよう。


 「そうだねぇ。オズ家の子だから盛大に祝ってあげないといけないね」

 「別にいいわよ。そういうのはアタシの部下たちだけで十分だし」

 「いや、そういうわけにもいかない」


 あれ?

 もしかしてオズ家の方がマーリン家の方が力があるのか?


 「オズ家とマーリン家ってどっちの方が立場が上なんだ?」

 「別にどっちも変わらないと思ってるわよ。ただこっちの方が少し起こりが早かったってだけ」


 魔法使いの家系事情っていろいろと入り組んでるなぁ。


 「私が説明しよう。魔法使いの家の権威っていうのは当主の実力と代々の当主たちが積み重ねてきた功績、そしてその系譜がどれだけ続いているかでおおよそ決定するんだ」


 だいたいどんな場所でも権威っていうのはそうやって決まるものだな。

 それぞれどんな功績を重ねたんだろう。


 「例えばアタシたちオズ家は何代も前に新しい陸地や新種の生物を発見したわ。そしてアタシは新しい魔法を作り上げた」

 「我々マーリン家は先代からこの世界の学問を担ってきた。私は主に生物の研究をより深くまで探求している」


 オズ家は野外活動において活躍しているし、マーリン家は学問において他の追随を許さないほどに貢献している。

 どちらも教科書に載ってもおかしくない偉業を成し遂げている。

 レオナルドさんが生物学に精通しているなら将来的にミラは医学に精通するんだろうか。

 

 「いろいろと与太話をしてしまったね。目当てのことは調べられたかな?」

 「ええ、おかげさまで」


 気が付けば俺たちは夕方までぶっ通しで勉強を続けていた。

 ここで得られなかった知識があったとしてもミラが買ってきてくれるであろう書物を読めばわかることがあるだろうし、俺以外の誰かもきっと手を貸してくれるはずだ。


 「じゃあ、また何かあったときは相談に来ます」

 「いつでもおいで」


 こうして俺たちとレオナルドさんは落ち合った。

 

 「しばらくは身体に大きく負担をかけることはしない方がいいだろうな」

 「例えば?」

 「激しい運動だったり、大掛かりな魔法の発動だったりだな」

 「やっぱりお腹の子にダメージが来るから?」

 「そういうことだ」


 帰り道、俺たちは気を付けるべきことを確認しあった。

 飲酒をしないこと、身体に過度な負担はかけないことがその代表例だ。


 「でも、お酒も運動もダメってなるとなんだか退屈ねー」

 「軽い運動ぐらいならしばらくは大丈夫だろ、それぐらいやっとかないと鈍っちまいそうだしな」


 俺も休職中で普段よりもぐっと運動量が減るわけだし、本当に鈍ってしまいそうだ。

 二人で一緒になにか軽い運動をするのもよさそうか。


 本格的な夫婦生活。

 俺たちはまだその第一歩を踏み出したばかりだ。


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