プロローグ オズ家の血を引く子
前略、オズの体調がよろしくないらしい。
なんでも下腹部に違和感があるそうだ。
これはもしかするともしかするかもしれない。
「オズ、心して聞いてくれ。もしかしたらお前は妊娠しているかもしれん」
「……!!」
衝撃を受けたように表情が固まった後、オズは歓喜に満ち満ちたように笑った。
「ついにできたのね……!アタシたちの子が」
「まだそうと決まったわけじゃねえけど可能性は高い。明日ぐらいに医者に診てもらってくれ」
もしオズが妊娠したのなら俺たちの生活にも結構な変化が出る。
そのためにもいろいろと準備や勉強をしておかないとな。
その翌日の仕事中、俺はオズのサポートをするためにはどうすればいいのかを考えていた。
こっちの世界は医療が特別優れているわけではないから誰かに任せきりにすることができない。
ましてや男の俺が育児休暇なんて取れるのだろうか。
子供ができるのはオズ本人の望みだし、俺も嬉しいんだがそれと同時にいろいろな不安が伴ってくる。
「なんだタカノ、いつになく不安そうな顔してよ」
俺の心情を読み取ってきたアレンが声をかけてくれた。
とりあえず相談ぐらいはしてみるか。
「もしかしたらオズに子供ができたかもしれなくてさ」
俺がそういった瞬間、気軽そうに振る舞っていたアレンが一気に真顔になった。
まだ確定したわけではないがこちらはそうであるというのを前提にしなければならない。
「……お前、とうとうそこまで行ったのか」
「まだ可能性の話だ」
「もしそうならすげえことだぞ。天下のオズ家の血を引いた子供がお前の子になるわけだからな」
すっかり忘れていた。
オズの子であるということはその子は将来的にオズ家そのものを継ぐことになる。
魔法使いとしても自分の跡継ぎはかなり大切なことのはずだ。
「それでさ、オズが出産してある程度落ち着くまでの間側にいてやりたいんだ。それまで休暇を取ることはできそうか?」
「できるも何も身籠った女の側には夫がいてやるのが当たり前ってもんだろう。」
こっちの倫理道徳的には妻の出産を夫が全力でサポートするのが普通のようだ。
俺もそうしたかったからとてもありがたい。
「オズ家の女が身籠っていると判明したらすぐにギルドマスターに報告しに行け。すぐに特別休暇が降りるはずだ」
なんてすばらしいんだろう。
ビバ異世界。
「聞いたぞタカノ。オズ家の女を孕ませたんだって?」
「やめてくださいよそういう言い方」
グレイさんの物言いに問題がある。
それだと俺が一方的にやったみたいじゃねえか。
「まだわかんないっスよ。一応オズには医者に診てもらうように言ったんスけどね」
「マーリン家のガキの面倒を見ながら本格的に親になるわけだな」
「そういうことになりますね」
今までずっとミラの面倒を見ていたから自覚がなかったが俺も本格的に子持ちになるわけだ。
幼児の面倒見は慣れたもんだが乳児に関してはさっぱりわからん。
今のうちに勉強しておいたほうがいいな。
「もしそうなるとしばらく育児休暇で離脱するわけか」
グレイさんも育児休暇のことを認知している。
本当にごく普通に存在する制度なんだな。
「まあ、そうですね」
「ちっとばかし寂しくなるが家庭の平和には代えられんからな。戻って来たらガキの顔を見せてくれよ」
理解のある人ばかりでとても助かる。
日頃の行いがよかったから今こうして助けてもらえるのだろうか。
「ただいま」
その日の仕事を終え、家に戻ると真っ先にオズが俺のところへとやってきた。
「おかえり」
「医者に診てもらったか?」
「ええ、今日の昼に診てもらったわ」
「どうだった?」
答えは何となく予想できるがすごく緊張する。
「アタシのお腹の中に一つ。新しい命が宿ってるって」
……そうか。
疑いは確信に変わった。
「よかったな。念願の子供ができて」
「ええ、アタシすごくうれしい」
俺とオズは玄関の前で抱擁を交わした。
「俺も全力で手助けする。だから元気な子を産んでくれ」
ミラにも協力してもらわないとな。
俺たちの子はミラにとって義理の弟か妹になるわけだし。
こうして、オズをサポートする俺の生活が幕を開けることになった。




