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死後につくる、新しい家族  作者: 火蛍
第9章 不可思議な大事件
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おじさん怒る

 トーラさんの幽霊を感じ取る力を頼りに俺はクロを駆ってギルドの中を飛び回った。

 身体が子供に戻ってしまったとはいえ、霊術師としての力を失ったわけではない。


 「強い力を感じる、きっとこの近くにあの子がいる」


 俺の後ろからトーラさんが伝えてきた。

 その言葉を信じ、俺はクロを近くの通りへと降ろした。


 クロの周囲には子供たちが群がってきた。

 精神まで子供に返っているならドラゴンを見て大はしゃぎするのも当然か。


 「クロ、適当に遊んでやってくれ。くれぐれもやりすぎてケガはさせるなよ」


 自分で判断ができるクロならその心配はないとは思うが念のために注意しておこう。

 俺はトーラさんを背負い、幽霊のいるという場所を目指して走った。


 「懐かしいね。こうして大人に背負ってもらったのは」

 「そうですか」


 俺が最後に背負ってもらったのはいつだっただろう。

 今はそんなことを考えている場合じゃないか。


 「ここが一番強く力を感じる。きっとあの子がいる」


 声色を変えたトーラさんから警告を受け、俺は足を止めた。

 さあ来い、俺にはどうしてもやっておかなければならないことがある。


 俺たちの気配を感じ取ったのか、姿を隠していた幽霊が向こうからやってきた。

 怒りと悲しみでその表情は子供とは思えないほどに歪んでいる。


 「お前たち……今度は何をしに来たんだ……」


 どうやら俺たちのことを覚えているらしい。

 俺たちに対する憎悪は特別強いようだ。


 「この前は逃げちまって悪かったな。今日はお前に言いたいことがある」


 啖呵を切って震える足を無理やり動かし、俺は幽霊の前へと立った。

 

 「言いたいこと……?」

 「そうだ。これまでのお前の行いに対していろいろとな」


 今の俺に恐れはない。

 伝えたいことを全部ぶちまけてやる。


 「お前、自分の願いをかなえるために何をしたのかわかってるのか?」

 「この街の大人をすべて子供にしてあげたよ。身体も心もね」

 「その結果ギルドがどうなったか知ってるか」

 「どうでもいいよそんなこと」


 俺はようやく確信できた。

 コイツはどこまでも『自己中心的』なんだ。


 「ふざけんじゃねえ!!」


 久々に心の底から怒りを覚えた。

 俺の怒声に幽霊は一瞬で委縮した。

 どれだけ強大な力があろうとやはり精神は子供だ。


 「人間が助け合って生きていく中には『大人じゃないとできねえこと』っていうのがある、すべての人間が子供だったらそれができなくなるんだぞ!そうなればこの街がなくなっちまうかもしれねえ!テメエがやったことはその手伝いだッ!!」

 「違う。僕はそんなつもりじゃ……」


 俺の剣幕にビビった幽霊は急に及び腰になった。

 やはり、コイツは自分の行いが周囲にどんな影響を与えているかを全く理解していない。


 「テメエにそのつもりはなくてもなァ、現にそうなっちまってんだよッ!!」


 俺はさらに足を進め、幽霊との距離を詰めた。

 こちらから詰め寄られるという予想外の事態に狼狽え、幽霊は後退る。


 「来るな!来るなぁ!」


 幽霊は全身から禍々しい色のオーラを放出してきた。

 これが呪いの根源なのだろう。

 理由は分からんがそんなものでいくら抵抗したところで俺には通用しない。


 「や、やめろぉ!!」


 気迫だけで幽霊を圧倒し、俺は幽霊の襟首をつかんで持ち上げた。

 幽霊だからかはわからないが、その身体は驚くほどに軽かった。

 

 「クロ!!」


 呼び声に応じ、クロが上空から現れた。

 幽霊を連れ、俺はクロに騎乗する。


 「わからねえって言うなら教えてやる。クロ、ギルドをぐるっと一周してくれ」


 クロは巨大な翼を羽ばたかせ、地上を離れた。

 初めての離陸体験で幽霊はさっきまでの荒みっぷりを完全に失い、落とされまいと俺にしがみつく。


 「見ろ。あれがお前が呪いをかけた結果だ」


 初めて見る上空からの景色を幽霊はまじまじと眺めていた。

 そこには大人としての責務をすっかり忘れ、遊びに夢中になるあまりに喧嘩を起こす子供たちの姿があった。

 子供しかいない今、別の視点から仲裁に入る者はいない。


 「テメエはあの喧嘩を止められるか?」

 「……できない」

 「だろうな。子供同士の間に起こった問題っていうのは子供だけじゃまず解決できない、大人の力が必要なんだ。けれどもテメエの力で大人がいなくなっちまった今、あの喧嘩を止める者はいない」


 ようやく自分がしたことを理解したかのように幽霊は目を伏せた。

 遅すぎたぐらいだが自覚ができたのはいいことだ。


 「テメエの探してるやつはもうこの世界には生きていない。これ以上呪いをかけ続けていてもどうしようもないこともわかっただろう」

 「……うん」

 「二度と身勝手な理由で生きている人間の邪魔をするんじゃねえ」


 ようやく俺の本心をすべてぶつけることができた。

 幽霊にも俺の意思は伝わったようだし、これで幽霊に対して思い残すことはない。


 「クロ、降りるぞ」


 元来た場所へとクロを降ろし、俺たちは十数分ぶりに地上へと戻った。


 「空の旅は楽しかったかな?」

 「いや、あんまり」


 少しの間待ち呆けをしていたトーラさんに尋ねられて雑な答えを返した。

 ここ最近は特にクロに乗る機会が増えたので別に楽しいわけでもない。


 「わかったよ。僕がしたことはこの街のみんなに迷惑をかけただけだった……」

 「ようやくわかったか」

 「みんなにかけた呪いを解くよ。そうすればもとに戻るから」


 そういうと同時に幽霊の周囲からオーラが消滅していった。

 これで子供にされた人々は元の姿に戻っていくことだろう。


 「じゃあ、僕はなんのために幽霊になったんだ……」


 幽霊は再び嘆いた。

 そればかりは俺にはどうにもできない。


 「あのね。一つだけ君と友達を合わせてあげられる方法がある」


 大人の姿に戻ったトーラさんが片膝をつき、幽霊と視点を合わせて言い放った。

 それってまさか……


 「どうするの?」

 「僕が霊術を使ってここに君の友達を呼び寄せる。子供の姿で呼べる保証はないけどね」

 

 やはりそうか。

 霊術師の能力の一つである『幽霊を呼び寄せる力』を行使するわけか。


 「もう一度君の記憶を読み取らせてもらうよ。いいね?」

 

 そういうと答えを待たずにトーラさんは札を使って幽霊の記憶を読み始めた。

 ほどなくして記憶が読み取られる。


 「四百四年、夏の九日。君はエルザという少年と遊ぶ約束をしているね」

 「うん」

 「ではここに彼を呼ぼう。彼がどんな姿になっていようと受け入れる覚悟はあるね?」

 「受け入れるよ。エルザは僕にとって『大事な友達』だから」


 トーラさんは地面に魔法陣を展開させた。

 オズの作る魔法陣とは違う紫色の輝きが普通の魔法とは違う妖しさを醸し出している。


 「我が名に於いて現世の理に背き命ず。亡き命『エルザ』を幽かなる者としてここに降臨させよ」


 これが霊を呼び出すための詠唱か。

 何を言ってるのかさっぱりわからねえや。


 トーラさんの魔法により、老爺の幽霊が魔法陣の中から呼び出された。

 彼が幽霊の求めていた少年『エルザ』の老いた姿なのだろうか。


 「幽霊君、彼が君の求めていたエルザだ。後は好きにしたまえ」


 トーラさんに促されるがままに老爺の元へ近寄った。


 「エルザ……君は本当にエルザなの?」

 「いかにも、私はエルザ・イリスだ」


 老爺は静かに名乗った。

 どうやら彼が幽霊の探し求めていた人物のようだ。


 「エルザ、僕のことを覚えてる?小さい頃に遊ぶ約束をしたミドラスだよ」


 そういえばこの幽霊の名前を初めて聞いた。

 彼はミドラスというのか。


 「ミドラス……?」

 

 エルザさんは小さく首を傾げた。

 生前、しかも死ぬ数十年も前にした約束だ、覚えていなくても不思議ではない。


 「エルザ……僕のことをは忘れちゃったんだね……」


 それにしても、ミドラス君には苦難ばかり続くな。

 初めてできた友達と交わした約束を果たす前に命を落とし、探し人を見つけるために百年以上も力を溜め続け、俺たちに現実を突きつけられた挙句にやっと見つけた探し人はすでに自分のことを覚えていないのだから。

 死にたいほどに辛いだろう、しかし彼はすでに死んでいる身である以上死ぬことはできない。

 悪行を差し引いてもその境遇はかわいそうでならない。


 「当然だよね……初めて友達になって、その日のうちに僕は死んじゃったから……」


 ミドラス君は嘆き、力なく跪くと大粒の涙をいくつもいくつも落とした。

 そんな彼の姿をエルザさんは何も言わずに眺めている。


 数十秒後、エルザさんは片膝をつき、ミドラス君に手を差し伸べた。


 「私が子供の頃に出会った少年だね。思い出したよ、出会ったその時もそうやって泣いていた」


 奇跡が起きた。

 エルザさんがミドラス君のことを思い出したのだ。

 その顔つきは老爺のものから少年の日のそれに戻っているように見える。


 「エルザ……エルザァ!!」


 ミドラス君の涙がうれし涙へと変わった。

 エルザさんから差し伸べられた手を取り、土埃を払って再び立ち上がる。


 「あの日の約束、覚えてる?」

 「一緒に思い出したよ」

 「僕はこの日を待っていたんだ。ずーっと遊ぼう!」

 「ああ、君の好きなことをして遊ぼう」


 ミドラス君はエルザさんに呪いをかけ、子供の姿へと戻した。

 これで彼は百年越しの約束をようやく果たせる。

 

 「好きなだけ遊ぶといい、では君たちをあるべき世界へと帰すよ」

 「うん。霊術師のおじさんありがとう」

 「もうこっちに来て悪さするんじゃねえぞ」


 トーラさんの手によって魔法陣は閉ざされ、ミドラス君はエルザさんと共に消滅していった。

 二人はきっとあの世的なところで仲良く遊び続けることだろう。

 度重なる不幸にさらされ続けた少年は最後の最後に一つだけ報われた。


 こうして、ギルド全体を巻き込んだ幽霊事件はひとまず終わりを迎えた。

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