呪われたギルド、大人一人
幽霊が暴走を起こし、ギルド全体は強烈な呪いに満ち満ちてしまった。
精神年齢は大人の状態を保っていた人々が精神まで子供レベルに退行してしまっている。
街中が子供特有の大声で溢れかえり、いつもとは別の意味でとてつもなく騒がしい。
一度は呪いを解かれたオズも再び子供に戻されてしまった。
おかげでコンプレックスがぶり返して性格まで子供時代に逆戻りだ。
「ちったあ外に出てみたらどうだ? 運動不足になるぞ」
「嫌……アタシちっちゃいからみんなに笑われるもん……」
子供時代のオズってこんなにシャイな奴だったのか。
まさか本当にレオナルドさんの証言通りだとは思わなかった。
そんな彼女はベッドの隅で布団をかぶって小さくなってしまっている。
これは深刻な事態になったなぁ。
一方、俺はというとなぜか呪いの影響を受けずに元の姿を維持できている。
この調子で考えるならこの周辺には大人は俺だけだ。
トーラさんの動向が気になるけれど、決して無傷だとは思えない。
あの幽霊はトーラさんと接触して何に怒ったのか考え直してみよう。
まず一つは間違いなく自力で約束を果たせないと断定されたことだ。
百年以上の時を重ねてようやく得た力を否定されたというのは大きい。
だけどそれ以外にもあの幽霊を憤らせる何かがあるような気がする。
めっちゃ怖いけれど、外に出てあの幽霊の様子を見に行ってみよう。
もしかすればまた何かわかることがあるかもしれない。
「ミラ、ちょっと出かけてくる」
「どこまで行くの?」
現在の状況を知っているだけにミラは俺のことを心配しているようだった。
彼女は元々子供だから今回も呪いの影響を受けずに済んでいる。
「ギルドの様子を見に行く。みんなの様子が心配なんだ」
「じゃあミラも行くよ」
「ダメだ。ミラは家にいてくれ」
「どうして……?」
「幽霊が危険だっていうのはミラもよく知ってるだろ」
ミラを危険なところに行かせるわけにはいかない。
呪いの影響を受けていないとはいえ、幽霊の力は未知数だ。
それにミラにはどうしても家にいてほしい理由がある。
「で、でも」
「オズがまた小さくされて性格まで子供に戻っちまった今、この家を任せられるのはミラしかいないんだ」
食い下がろうとするミラを俺は半ば強引に遮った。
普段俺が頼っているオズに今は一切頼ることができない。
そうなると頼れるのはミラだけだ。
だから彼女に何とかしてもらうしかない。
「俺のことは心配すんな。絶対帰ってくるから」
「本当に?」
「大丈夫だ。ヤバくなったらちゃんと逃げてくるからな」
危険を承知ではあるが死ぬ覚悟なんてしていない。
ミラたちを置いて死ぬなんてできるわけがない。
だから危なくなったら逃げて帰るつもりだ。
「ちゃんと帰って来てね。約束だよ?」
「約束する。だから家のことは任せたぞ」
ミラと口約束を取り付け、俺はギルドへと向かうことにした。
「クロ、久しぶりにギルドへ行こうか」
クロの背に乗り、俺は一気にギルドへと飛んだ。
最も見晴らしのいい塔の頂上へとクロを降ろし、俺はそこからギルド全体を見渡した。
ここから眺めると道は広いように思えるし、通りの喧騒さも感じられない。
あの幽霊がいるとしたらどこだ。
「君は……タカノ君だね」
その喋り方には覚えがある。
トーラさんだ。
無事だったんだな。
そんな安心感も束の間、その姿を見た俺は言葉を失った。
なんとトーラさんまで子供にされていたのだ。
「なんとか精神への干渉は防げたけれど……おかげでこの通りだよ」
こうしてみると毛色が違うイズナ君って感じがするな。
中性的な顔立ちや立ち振る舞いまでそっくりだ。
「タカノ君はまたしても呪いを受けずに済んでいるようだね。やはり君には他の人間にない何かがあるみたいだ」
俺が異世界の人間だということがこんな形でメリットになるなんて思わなかったがおかげでプレッシャーも感じている。
何せ、このギルドに残った大人が本当に俺だけになってしまったのだから。
「何はともあれ、無事に生きてるようで何よりです」
そうだ。
幽霊のことを尋ねてみよう。
またなにか新しいことがわかるかもしれない。
「あの幽霊。どうやら友人に出会えないことだけが憤りの原因じゃないらしいんだ」
やはりそうだったか。
「その原因、トーラさんはなんだと思いますか?」
「幽霊とはいえ相手は子供、きっとそんなに難しいことではないと思うんだけど……」
子供が怒る理由といえばなんだろうか。
まず思いつくのは自分のしたいことが上手くいかないときだ。
……自分のしたいことが上手くいかないとき?
「トーラさんは自分の子供に癇癪を起こされたことってありますか?」
「あるよ」
「その時って何がありましたか?」
「確かイズナが死霊魔法を学びたいといってきた時だったっけか。僕がそれを断った時にあの子はひどい癇癪を起こしたんだ」
あのおとなしいイズナ君がそんな風に癇癪を起こしたのか。
信じがたいが有力な情報だ。
「その理由を考えれば、きっとわかるはずです」
「あの時僕が断ったからあの子が怒ったというのはわかる。だがこれ以上の理由というのは……」
「子供ってすごく単純な理由で怒るんじゃないですか? 例えば『自分のしたいことに周囲が協力してくれない時』とか」
それを聞いたトーラさんは気づいたように目を見開いた。
どうやら彼も勘づいたらしい。
「あの幽霊の居場所を知りませんか? どうしてもやりたいことがあるんです」
あの幽霊に対して一つ、どうしてもやらなければならないことがある。
『大人の』俺でなければできないことが。




