純粋無邪気で恐ろしく
トーラさんから話を伺ってから数日が経った。
相変わらずギルドの大人は小さくされたままだし、トーラさんは幽霊の駆除に尽力している。
やることがほとんどなくてギルドをぶらついていると時折トーラさんの姿を見かけるがこちらからは声をかけないように気を使っている。
『幽霊を見つけたら教えてくれ』ってトーラさんに言われたけど幽霊は普通の人間と見分けがつかないし、トーラさんみたいに幽霊と普通の人を判別できる能力は俺にはないから無理な話なんだよなぁ。
「しっかしなぁ。仕事がないと暇だよなぁ」
とある日のこと、俺は偶然鉢合わせたアルと話をしていた。
確かに何日も仕事をしていないと気が狂いそうだ。
「グレイさんもアレンもあの通りだ。呪いが解けるまでは俺たちもこの状態が続くだろうよ」
今の状態では結局できることはないと判断したのかグレイさんはただ現状を傍観しているだけ、アレンは俺たち三人では仕事が追い付かないといって職務を放棄している。
勝手なことはできないし、残された俺たち二人も事実上の休職状態だ。
「しっかし、何のためにギルド中の大人たちを子供にしたんだろうな」
「そんなこと俺が知るかよ」
それについては俺が知りたいぐらいだ。
トーラさんもその謎を追っている。
「おかげでルイたちを止めるのが大変でさ、大人と子供の区別がつかないから誰彼構わず遊ぼうとするんだ」
それは大変なこった。
それはともかく、ルイ君とリリーちゃんがギルドの人たちに受け入れられているようでよかった。
ん、待てよ……
今重要そうなことを言った気がするぞ。
「なあ、もしかして幽霊は『子供と遊ぶために』大人たちに呪いをかけたのかな」
「それならわざわざ大人たちを小さくせずに今の子供たちと遊べば済むんじゃないか?」
それもそうか。
なら『大人を子供の姿に戻す』理由があるってことだよな。
そういえば俺がガキの頃は事前に約束を取り付けてから遊びに行ったりしてたっけ。
口約束とか、電話とか、いろいろな手段を使ったな。
「アル。お前は小さい頃に誰かと遊ぶ前にやってたこととかあるか?」
「うーん……いつどこでなにをして遊ぶかの打ち合わせぐらいはしてたな」
やっぱりか。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
そうか、そういうことだったんだ!
「ようやくわかったんだんよ、幽霊の目的がな」
「それマジで言ってんのか?」
「ああ、幽霊は『子供の頃にした遊ぶ約束』を果たそうとしてるんだ」
大人じゃダメな理由は『子供同士で交わした約束』を果たそうとしてるからだ。
「トーラさんに知らせねえと」
「おい待てよ、誰だそいつは」
「狐の霊術師だ。お前も一緒に探してくれ」
「おう! 外回りなら任せとけ!」
俺とアルはギルドのどこかで仕事をしているトーラさんを探すことにした。
「ルイ!リリー!かくれんぼの時間だ!」
アルに呼び出され、ルイ君とリリーちゃんが飛んでくるようにやってきた。
「いいか? トーラっていう狐を探すんだぞ。見つけたら上手いこと足止めしててくれ」
「はーい!」
「よーし頑張るぞー!」
大きくなっても相変わらずの腕白ぶりだ。
フィジカルの強い助っ人が二人もやってきて心強い。
俺たち四人はトーラさんを探してギルドの中を駆け回る。
しかし探せども探せどもトーラさんは影も形も見当たらない。
「最近よく見かけると思ってたのにこういう時は見つからないんだよなぁ……」
そう嘆かずにはいられない。
幻術や変身魔法を駆使する魔法使いだし、今はそういう時なのかもしれないな。
「ねえねえおじさん」
幼い声と同時に誰かが俺のズボンの裾を引っ張ってきた。
こんな時に何の用だ、今は仕事中じゃなくてオフの時間だぞ。
「どうしたのかな?」
若干苛立っているのを隠して俺は応対した。
相手は見たところ十歳程度の男の子か。
特にこれといって代わり映えした様子はないようだ。
「遊ぼう?」
「ごめんな、おじさん今忙しくて……」
『遊ぶ約束を果たそうとしている』
自分の推測を思い出して俺の身体から一気に血の気が引いた。
もしかしてこの子は……
「ねえねえ、遊ぼう?」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
第六感的なものが俺にかつてない危機感を知らせている。
この子は幽霊だ! それも、とびっきりヤバい奴!
「う、う……うわああああああああああ!!」
俺はとにかく男の子から離れるように背を向けて全速力で逃走した。
間違いない、絡んだら『あっち』に引き込まれる。
まだここで死にたくはない。
ミラやオズを残して逝くなんてことがあってたまるか!
「ハァ……ハァ……」
無我夢中でどれぐらい走っただろう。
仕事以外で息が切れるほど走ったのは本当に久しぶりだ。
流石にここまで来れば追いつかれは……
「僕の尻尾にじゃれつくのはやめてくれないかな」
「だって足止めしていてくれってお姉ちゃんから言われたんだもん」
トーラさんとリリーちゃんの声だ!
助かった!
霊術師がいれば大丈夫なはずだ。
「トーラさん!」
「タカノ君じゃないか。どうしたんだい? そんなに慌てて」
「出たんです。幽霊が!」
「それは本当かい?」
トーラさんの顔つきが一気に変わった。
気が抜けて垂れ気味だった耳も一気に立ち上がる。
「ありがとうリリーちゃん、トーラさんを見つけてくれて」
「どういたしまして」
仕事の邪魔にならないようにリリーちゃんをトーラさんから引き離した。
「幽霊はどこにいるのかな?」
そうだ、あの幽霊の居場所は……
「ねえねえ、遊ぼう?」
あ、ああ……
間違いない、さっきの子だ。
俺は何も言わずに軽く震える指で少年の方を指し示した。
「なるほど。あれが幽霊だね」
トーラさんは札を取り出して男の子へと近づいて行った。
いよいよ元凶との対面だ。
お願いします、トーラさん。




