霊術師と幽霊のこと
俺たちはトーラさんから話を聞くために場所を変えて家まで戻ってきた。
買い出しをし忘れたけど切羽詰まっているわけじゃないし、どうせしばらく休みが続くだろうからまた別の日でもいいか。
「タカノ君といったね。話す場所を設けてくれたことに感謝するよ」
トーラさん曰く『大勢の前では話せないことがある』らしいからこうして移動してきたわけだ。
ミラはイズナ君を連れて自室で勉強会を開いている。
今なら子供には刺激が強い話をしても大丈夫だろうし、いろいろと踏み込んだ話を聞いてみよう。
「じゃあ、お話を聞かせてもらってもいいですか」
「どうぞ。好きなことを聞いてくれていいよ」
それじゃあ、お言葉に甘えて。
「霊術師って、何をする仕事なんですか?」
「さっき僕がやっていたように幽霊を消滅させるのが主な仕事だよ。他には生きた人間からの依頼で幽霊を呼び寄せたりもする」
つまり幽霊を消したり出したりする仕事か。
「幽霊の呪いは、消滅させれば元に戻るんですか?」
「大抵は元に戻るよ。中にはただ幽霊を消滅させるだけでは消せない呪いっていうのもあるんだけどね」
「ギルドにふりまかれた呪いが解けないのは?」
「きっと僕が消滅させたのとは違う幽霊がかけた呪いだったんだろうね」
幽霊によって呪いが違うっていうことか。
それはまた面倒な。
「さっき使ってた札ってなんですか?」
「僕が仕事をするときに使う道具だよ、あれを使えば幽霊の中の記憶を読み取ることができるんだ」
「もちろん、生きている人に対しても有効だよ。こんな風に」
トーラさんは俺の顔の前に札をかざした。
こうすれば俺の記憶も読み取れるのだろうか。
「おや……?」
札を見たトーラさんは呆気に取られたような表情を見せた。
なにか変なものでも読み取ったのか。
「どうかしましたか?」
「五百二十年より以前の記憶がなにも読み取れないんだ。今までこんなことはなかったんだけど」
五百二十年か。
四年前ということは俺がこの世界にやってきた時だ。
「もしかしてそれって……」
心当たりがあるとすれば一つ。
俺がそれ以前のこの世界での記憶を持っていないからだ。
「タカノ君には何か特別な事情があるようだね。詮索はしないことにするよ」
もしかして俺が呪いを受けなかったのって『この世界での子供時代の記憶』が存在しないからじゃないか?
オズやレオナルドさんたちはこの世界で生まれ育っているから呪いの影響を受けて子供の姿になったと考えればあり得ない話ではない。
「さっきの女の子の幽霊、どうやって欲を満たしてあげたんですか」
飢えを満たすという欲をあの一瞬でどうやって満たしたんだろうか。
気になって仕方がない。
「幻術であの子の求めるものの幻を見せたんだ。あれぐらいなら容易いものだよ」
幻術か……
あの子は騙されて消滅していったのかと考えると少しかわいそうな気がするけどそもそも幽霊がここに存在してはいけないものなら仕方がないか。
「アタシからも聞きたいことがあるわ」
オズが質問を切り出した。
霊術師に関する情報は彼女も知らないことが多いようだ。
「なにかな?」
「どうして霊術師はアンタを含めて六人しかいないの?」
それは俺も気になっていた。
なぜそんなにも霊術師は数が少ないのだろう。
「霊術師は魔法の中でも極めて特殊な『死霊魔法』を取り扱うことは知っているね?」
「それはもちろん」
「それに加えて霊術師になるためには二つの条件が必要なんだ」
「条件?」
「一つは夏でなくても幽霊が見えること、そしてもう一つは幽霊の持つ狂気に飲まれないこと」
霊術師になるためにはいろいろと特殊な条件がかみ合わなければならないようだ。
「そういえばオズってその『死霊魔術』ってのを使ったことはあるか?」
「いや、基礎に触れたことすらないわ」
まさかオズですら触れたことがないとは。
つまり普通の魔法使いとは縁のない存在ということか。
「死霊魔術は学術機関ですらごく一部でしか取り扱わない。それぐらい危険の伴う魔法なんだ」
「どうして危険なんですか?」
「幽霊は得体の知れない力を持った存在、それに干渉するわけだから一歩間違えれば自らも死に引きこまれる」
うわぁ……
そりゃ普通なら基礎にすら触れることすらないし、教えられるのもごくわずかなわけだ。
「なるほど……」
「幽霊と接触するっていうのはとても危険なことなんだ。僕であっても一切気を抜けない」
もしかして俺とアルはとてつもなく運がよかったのか?
俺たちも死に引き込まれていたのかもしれないと考えると冷たい汗が全身から噴き出してきた。
「あとね。霊術師は世界に六人って言ってたけど、つい先日一人が除霊の時に道連れにされたから今は五人だよ」
怖えええええええ!!
霊術師の仕事ってリスク高すぎません!?
俺だったら絶対にやらないぞ。
「どうしてそんなに危険な仕事に就いたんですか?」
トーラさんはリスクを知っていてあえてこの仕事を選んだのだろうか。
「他に誰もいなかったんだ。霊術師の適正を持った人物がね」
「つまり、自分がやらざるを得なかったと」
「そうだね。もともと僕は幽霊が見えるし、その力に対抗するための魔法が得意だったんだ」
対抗するための魔法、さっき使った幻術もその一つか。
イズナ君やタマモさんが得意な変身魔法も扱えるのかな。
「僕がならなければ霊術師がほとんどいなくなっていたから、結果的にはこれでよかったのかなって思ってるよ」
今でも人材不足が深刻だと思うんですけど。
霊術師の世界ってシビアなんだなぁ。
「聞きたいことはこれですべてかな?」
「あ、最後にもう一つだけ」
一つだけ、どうしても聞いておきたいことがある。
「呪いをかけた元凶はどうして大人たちを小さくしたんだと思いますか?」
わからない。
幽霊が何の目的をもって大人たちを子供の姿にしてしまったのだろうか。
それによってどういう欲を満たそうとしているのだろう。
「自分の子供が欲しいとか、あるいは子供時代の誰かを探しているとか、子供にまつわることであることには違いないだろうね」
『子供の頃の誰か』を探しているのかな。
探している人が今も生きているのかはわからない、もし見つからなければ永遠に大人たちは小さくされたままだろう。
そのためにも霊術師が必要だと感じずにはいられない。
「そうですか」
「幽霊に関することは引き続き僕が動く、後のことは霊術師に任せてくれるかな」
トーラさんならきっとなんとかしてくれる。
根拠はないけどそんな気がする。
「今日は貴重なお話をありがとうございました」
「うん、また会えるといいね」
たぶん、近いうちにギルドの中で再会すると思います。
今はトーラさんはギルドの中で仕事をしているわけだし、俺たちはその近くを生活の拠点にしているわけで。
事件の元凶は『昔の子供に関するなにかを満たそうとしている幽霊』か。
いったいなにがしたいんだろう。




