それは呪い?
結局、その日の仕事は午前中で切り上げになった。
むしろこんな状況で普通に仕事をしろという方が無理だし、仕方がないといえば仕方がない。
思いがけない形で時間ができた。
何かできることはあるだろうか……
「そうだ!」
というわけで図書館へやってきた。
こういう時にはやはりここに来て知恵を借りるしか思いつかない。
「やあ、やはり君が来るんじゃないかと思っていたよ」
あれ、レオナルドさんは影響を受けていないんだ。
それどころか図書館で働いている人たちは子供になっていない。
「あれ?レオナルドさんは子供にならなかったんですか?」
「私も昨夜に身体が縮んだよ。あれは『幼体化の呪い』だね」
呪い?
魔法が存在する世界だからそういう類のものもあるだろうとは思っていたがまさか本当に存在していたとは。
「まさか自力で呪いを?」
「その通り。私の力をもってすればどんな呪いでも解ける」
マジかよ。
レオナルドさん、そんなことができるのか。
「ぜひ、貴方の力で呪いを解いてほしい人が一人」
というわけで大急ぎで事情を説明してオズを連れてきた。
「クラリスちゃん、その姿を見るのは随分と久しいね」
レオナルドさんが昔を懐かしむように目を細めて笑っている。
一方のオズは恥ずかしさのあまり俺の後ろに身を隠してしまった。
「お前ってレオナルドさんとそんな昔から交流あったのか」
「まあね、オズ家とマーリン家はなんだかんだで親しい関係だし」
「子供の頃のクラリスちゃん、僕を見るとすぐ隠れちゃってね」
「へぇー、恥ずかしがり屋だったんですか?」
後ろを確認すると図星と言わんばかりにオズは顔を真っ赤にしている。
「だって……アタシの周りは大人ばかりで自分だけチビなのが恥ずかしかったんだもん……」
なるほど、ただでさえ背が低い上に大人だらけの環境で育てばそりゃそうなるよな。
わかりやすいコンプレックスだ。
「と、とにかくアタシをもとに戻してよ」
「うんうん、戻してあげるから前に出てきてくれるかな」
「うぅ……」
子供の頃のコンプレックスが完全にぶり返してしまったオズはかなりしおらしい態度でレオナルドの前へ出た。
「さて、始めようか」
レオナルドさんは懐から分厚い本を取り出し、それを開くと床に青色の魔法陣を展開させた。
陣はオズを囲み、より強く発光する。
「呪怨よ、在るべき場所へと返りたまえ」
たった二言程度の詠唱によって魔法が発動し、それによってオズの身体からなんとも形容しがたい色をした何かが抜け出していった。
それと同時にオズの背丈が元に戻っていく。
「これでよし。もう大丈夫」
「お、おぉ……本当に戻ってる」
オズは自分の手足を見て感動している。
本人はこれを望んでいたんだろうけど俺的にはもう少し子供の姿を眺めたかったなぁ。
「これでお酒が飲める……」
やっぱり喜ぶ場所はそこか。
酒を止めたときに滅茶苦茶しょぼくれてたからな。
「それにしても、誰がこんなことをしたんだろうね」
「まったくよ、おかげで散々な目に遭ったわ」
レオナルドさんのぼやきに乗じてオズが憤っている。
コンプレックスほじくり返されて恥ずかしい思いさせられたわけだから怒るのも当然か。
「あれ?みんないたんだ」
ミラがひょっこりと顔を出してきた。
学校帰りだろうか。
「おかえり、学校はどうだった?」
「先生もみんな子供になっちゃってて授業が進められなかったの。さっきまで図書室で勉強してたんだけどあまり集中できなくて……」
学校の先生も呪いの影響を受けたのか。
突然大人がいなくなると子供にも大きな影響が出るな。
「大変なことになったね」
「ねー」
「こんなことができるのはよほど力のある魔法使いか、それとも……」
「それとも?」
確かにレオナルドさんやオズに並ぶぐらいの力を持った魔法使いならこれぐらいやってしまえそうだ。
だがレオナルドさんの口ぶりからするに魔法使い以外にもこんなことができる輩がいるらしい。
「幽霊の仕業だね」
「幽霊?」
こっちの世界にも幽霊とかいるのか。
「えっとね、夏は幽霊が特に出やすい季節なの。幽霊はいつもは見えないんだけど夏になると力が強くなるからミラたちにも見えるようになるんだよ」
ミラが俺に説明してくれた。
元いた世界でいう『お盆』に似ているな。
これもこっちの世界の一般的な知識か。
「あっ、そういえば……」
「そういえば?」
「俺、昨日身体が冷たい迷子の男の子に会って」
「あー、それは確実に幽霊だね」
マジか。
可能性を疑ってはいたがまさか本当に幽霊だったとはな。
「幽霊は生前に叶えられなかった欲望を成し遂げるために行動するんだ。タカノ君が出会ったのはある場所に帰りたかったみたいだね。幽霊は魔力とは違う不可思議な力を持っている。目的を果たすためならその力で何をするかもわからない」
厄介な奴だなぁ。
この呪いが幽霊の仕業だとすれば何を達成するためにこんなことをしたのだろうか。
「それなら呪いをかけた幽霊が目的を果たすまではずっとこんな状態が続くってことですか」
「そういうことになるね」
少なくとも夏が終わるまでこの状態ってことになるよな。
そんな状態でここがドラゴンの進路になったらこのギルドおしまいじゃねえか。
「流石に『霊術師』が動くんじゃない?」
「霊術師って?」
前にその存在を聞いたことはあるぞ。
どんな人だっけ。
「幽霊を鎮めたり、逆に呼び出したりできる魔法使いのことよ。世界に六人しか存在しないわ」
そうだそうだ、思い出したぞ。
「その死霊術師の一人がこのギルドの近くに住んでいる。騒ぎを聞きつけてもう活動を始めているかもね」
たぶん、イズナ君のお父さんだろう。
いつか前に聞いた気がするがこの近くに住んでたのか。
幽霊、そして霊術師。
今回の事件の鍵はこの二つになりそうだ。




