幼体化
前略、仕事から帰って来たらオズが子供の姿に戻っていた。
信じられないがどうやら本人らしい。
合法ロリから違法ロリへと変わってしまったというわけだ。
幸いなことにも精神年齢が退行したりはしていない。
「な、なによさっきから……」
オズが微妙に恥ずかしそうにしている。
まさか自分が子供の頃の姿をこんな形でみられることになるなんて思いもしなかっただろうな。
「いやー、お前って子供の頃はこんなだったんだなって」
「何か変?」
なにか子供の頃の容姿にコンプレックスでもあるのだろうか。
「いや。普通にかわいいと思ったんだが」
「ホ、ホントに……?」
「うん」
正直なところ何を気にしているのかさっぱりわからない。
「子供のアタシ、チビに見えない?」
あー、身長のことを気にしてたのか。
日頃の振る舞いから全然気にしてないかと思ってたけどそうでもなかったんだな。
「そりゃあ、大人のお前に比べれば小さいけれど子供基準なら普通だと思う」
「そう?それならよかった」
俺のフォローで安心したのかオズは小さな胸をなでおろした。
子供の頃はミラとそう変わらないのに大人になるとあんなに大きくなるんだよな……
女の子の身体ってすげえ。
「それにしてもどうしてこんなになっちまったんだろうな」
「そんなことアタシが知りたいぐらいよ」
ですよねー。
昼寝から覚めたらこんなになってたとか自分でもびっくりするよな。
「おい、ちょっと待て」
オズが酒瓶に手を出そうとしたのを見て反射的に制止してしまった。
「何よ」
「いや、子供の姿で酒を飲むのはまずくないか?」
確実にマズい。
心だけは本当に大人の少女が当然のように酒に手を伸ばすという構図がなんかもういろいろと危なくて仕方がない。
「いいじゃん別に」
「いや、今のお前って肉体年齢が子供に戻ってるからさ……」
いまだにこの世界の飲酒に関する法の有無はよくわからないがとにかく子供が酒を飲むのはよくないと思う。
「くぅ……アンタが止めるなら今は我慢するわ」
すまないな、元の身体に戻るまでは我慢してくれ。
「とにかく、今日はもう遅いし明日から原因を探ってみよう」
「それもそうねー」
どうしていつも俺たちの周囲で事件が発生するのだろうか。
しかし今はそんなことを嘆いていても仕方がない。
この状況を解決する方法を見つけなければ。
そして翌日、いつものように出勤した俺の目には信じられない光景が広がっていた。
「なんだよこれ……」
ギルドの中が子供だらけだ。
いや、子供しかいないのではなくてギルド中の大人が子供にされてしまっていると考えた方がいいだろうか。
俺以外に大人が一切存在しない風景に気味悪さすら覚える。
子供ばかりとなれば当然仕事にも影響が出る。
特にそれがはっきりと出るのが力仕事だ。
大人の力があってこなせる仕事を子供の力でこなそうとすると労力が数倍になる。
身体が覚えた技術でなんとか賄える部分があるとはいえフィジカルの差だけはどうにもならない。
「おおオッサン!無事だったんだな!」
ちょうどアルと邂逅した。
彼女の外見は全く変わっていない。
ということは彼女は怪奇現象に巻き込まれなかったのか。
「どうなっちまったんだよこれ」
「そんなことウチが知りたいぐらいだ」
ですよね。
「とにかく、これじゃあ仕事になりゃしねえな」
アルが遠くを見ながらぼやいているがまったくもってその通りだ。
俺たちクルセイダー、特に機動隊は肉体労働がメインだ。
俺とアル以外が全員子供になってしまっていれば業務がほとんどできないにも等しくなる。
「とりあえず出勤だけはしておくか」
「おう、そうだな……」
状況がどうであれ無断欠勤は避けたい。
職場に顔を見せるぐらいはしておかなければ。
「おーっす」
「おはようございまー……」
案の定だ。
クルセイダーの面々も見事に子供だらけになっている。
大人だった面々の肉体年齢はオズと同じぐらいの九から十二歳相当に引き下げられている。
「なんだタカノ?珍しいものでも見るような目しやがって」
この狼少年は間違いなくグレイさんだ。
珍しいも何も写真のないこの世界じゃ子供時代の姿はまず見られないんですが。
「いや、なんでもないっスよ」
「見ての通り、俺たちはなぜかガキの姿に戻っちまった。お前と猫、あとアレン以外はまるで仕事に使えねえ状態だ」
影響を受けていない俺とアルはともかく、どうしてアレンは問題ないのだろう。
「アレンは子供に戻らなかったんスか?」
「戻ってるには戻ってるがそれでも体格はお前とどっこいどっこいぐらいだし、体力も問題なかった」
アイツは子供のころからデカかったんだな。
じゃあいつも通りに仕事ができるのは俺とアルとアレンだけか。
「俺はこの状態での業務体制を考える。お前らは三人で午前中の巡回警備に行け」
こんな状態でも仕事はしないといけないのか。
仕方がない、行くか。
そんなこんなで俺たち三人はギルドの巡回警備を始めた。
「大人がいねえと道が広く感じるな」
「確かに」
大人がいなければ一人一人が取るスペースが小さくなるから道が広くなるのは当然のことだ。
改めてみるとギルドの道って結構広かったんだな。
「まさかお前を見上げることになるなんて思いもしなかったわ」
この状況を楽しんでいるかのようにアレンが笑っている。
お前は楽しそうでいいな。
「見上げるっつってもそんなに変わるもんじゃねえだろ」
アレンの背丈は縮んだとはいえ俺の肩ぐらいまではある。
ざっと百七十は越えているだろう。
「牛はガキの頃からデカかったんだな」
「俺が特別デカいわけじゃねえぞ。牛の獣人はだいたいこんなもんだ」
なんとなくイメージできるわ。
これまでに何回か見たアレン以外の牛の獣人たちも尽くデカかったし。
「それはそれとして、どうしてオッサンはガキに戻ってないんだ?」
アルに尋ねられて俺は初めてそのことについて考えた。
どうして俺だけ幼体化しなかったんだろうか。
「なんでだろうな」
わからん。
どうして俺は例外なんだろう。
ここで一度現在の状態をおさらいしてみよう。
現在ギルド周辺の人間がすべて子供になってしまっている。
影響を受けていないのはミラたち『現時点の子供』、アルたち『完全には大人になりきっていない者』、そして俺だ。
今わかっていることはこれだけ、もしかすれば俺たち以外にも幼体化を免れた人がいるかもしれないがそれはわからない。
何が原因でこんなことになったのか、どうすればもとに戻るのかはさっぱりわからない。
なにか解決の糸口を掴めればいいんだが……




