プロローグ:おじさんと迷子
今回から9章が始まります。
この世界での四度目の夏がやってきた。
ここ最近は特に大きな事件も起きることなく、ギルドでも平和な時間が流れている。
「あれ……?」
仕事中、ふと気になるものが俺の視界に入ってきた。
「どうかしたか?」
「いや、子供がな」
アルに尋ねられて俺は気になるそれを小さく指さした。
こんな真昼間から小さな子供が一人でギルドの中をさまよっている。
おつかいの最中に道にでも迷ったのだろうか。
「なんだよ、子供が一人で出歩いてるのなんて特に珍しいものでもないだろ」
その通り。
お使いに来る子供もしょっちゅういるし、その光景自体は特別珍しくない。
でも様子が気になる。
「あの子の表情、なんか不安気じゃないか?」
下手すれば今に泣き出しそうだ。
声をかけに行ってみるか。
「ウチは大丈夫だと思うけどなー」
「まあ、ああいう子が厄介ごとに巻き込まれないようにするのも俺たちの仕事だから」
そう、これは仕事だ。
子供が一人でうろついてると何かと危ないし、保険をかけて先に声をかけておいた方がいいだろう。
「ボク、一人で何してるの?」
幼い少年は俺たちの存在に気付いて足を止めた。
「おじさんたちは誰?」
「おじさんたちはこのギルドを守るお仕事をしてるんだよ」
俺たちはクルセイダーの腕章を見せて身分を証明した。
俺たちの身分を知った少年は少し安心したようにため息をついた。
「キミ、どうしてここに一人でいるんだ?」
アルが単刀直入に話題を巻き戻した。
「えーっと、帰り道がわからなくなっちゃって……」
なるほど、迷子か。
それならお安い御用だ。
「じゃあ、おじさんたちが門の前まで送って行ってあげよう」
「本当に?」
これぐらいの小さい子が道に迷うということは元来た道に戻れずに延々とぐるぐるしてしまうことが多い。
そうなる前に俺たちが元来た場所に送り返せればそれに越したことはない。
「どっちの方からここまで来たかわかる?」
「うーん……わかんない」
それは困ったなぁ。
「じゃあ、見覚えのある場所ってある?」
せめてそれさえ分かればいいんだが。
「えっと……あそこのお店」
少年が指さした先には仕立て屋がある。
なるほど、ということは南側から来たんだな。
「よし、じゃああっちの方に行こうか」
「うん」
アルに少年の手を引いてもらって俺たちは南に歩みを進めた。
俺だと身長差がありすぎて手をつなぎにくいし、アルが並んでくれて助かる。
仕立て屋の前までやってきた。
ここから先はまた情報を引き出そう。
「ここから先で覚えてる場所ってある?」
「えーっと……鉄を叩く音が聞こえる場所があったよ」
鉄を叩く音か……
このあたりにあるだろうか。
「アル、周囲の店をチェックしてくれないか?」
「わかった。ちょっと待ってろ」
少年から手を離すとアルは壁を伝って一瞬で屋根の上に飛び移った。
視点が高くなればより多くの情報を得られる。
「お姉ちゃんすごーい!」
少年はアルの技を見て大喜びだ。
「すごいだろ?あのお姉ちゃんああ見えて元泥棒なんだぞ」
「うるせえ!余計な事教えんじゃねえ!」
話を聞いていたアルに怒られた。
もう乗り越えたと思っていたけどまだコンプレックスだったんだな。
「周りに鉄を叩く音が聞こえそうな場所はあったか?」
「あったぞ。鍛冶屋が一件」
鍛冶屋か。
確かに証言と合致する。
アルに先導してもらって鍛冶屋までたどり着いた。
この付近は一本道で迷うことはなさそうだが果たして……
「どう?思い出した?」
「うん、もう大丈夫」
元来た道を思い出したみたいだ。
「ありがとう!」
「気を付けて帰るんだよ」
手を振りながら一人で帰っていく少年に俺は手を振り返した。
これで一件落着だ。
アルがどこか訝しんでいるかのように少年の後姿を見つめている。
なにか問題でもあったのだろうか。
「なあ。さっきから不思議に思ってることがあるんだけどさ」
「なんだ?」
「あの子の手、人間とは思えないぐらい冷たかったぞ。アイツ本当に生きてるのか?」
俺たちと出会う前になにか冷たいものに触れていたのかもしれない。
だとすれば手が冷たいのは決して不自然とは言い切れないと思うんだが。
「要するにどういうことだよ」
「わかんねえけどさ、生気をまるで感じなかったんだよな」
おいおい、冗談はよしてくれよ。
あれが幽霊か何かだとでも言いたいのか?
「死人が歩くわけねえもんなぁ……」
「さっぱりわかんねえけど不気味でしょうがねえよ」
本当にただの偶然だよな……
まさかあの子が幽霊だなんてことあるわけないよな……?
俺たちがもう一度見たときにはあの子の姿はどこかへ消えてしまっていた。
退勤してからもあの子の正体が気になって仕方がない。
ただ手が冷たいだけの普通の子供だったのか、それとも俺たちの常識の及ばないなにかだったのか。
気が付けばもう家に戻ってきていた。
「ただいまー」
「トモユキ!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!」
帰って来て早々にミラが大慌てで俺の手を掴んで引っ張ってきた。
オズがどうしたっていうんだ。
「……は?」
ミラに大慌てで連れて来られたオズの部屋にはものすごいちんちくりんな少女が一人佇んでいた。
長い赤髪に赤い瞳、オズと外見の特徴は完全に一致しているが……
「昼寝から覚めたらこんなになってた」
「お前、本当にオズなのか?」
「まさか疑ってる?」
「そりゃあな」
今朝まで普通の格好してた自分の嫁が仕事から帰って来たらロリ少女になってたなんて信じられるかよ。
「じゃあこれで信じるでしょ」
ロリ少女が右手を真横に水平に伸ばすとその先に金色の魔法陣が展開された。
ああ、召喚魔法だ。
ということは本当に本人なんだな。
……マジかよ。




