エピローグ 再び水晶の森で
水晶の森の一件が解決してから数週間が経った。
俺たちはエルフ族の様子を見に水晶の森を訪れていた。
クロの背に乗り、俺たちは森の中を駆ける。
今思えばクロも随分と大きくなったもんだ。
「すっかり元通りになったわね」
「ねー!すごくきれい!」
水晶の樹の隙間から射す木漏れ日がなんとも心地いい。
「さあ、もうすぐ着くわよ」
一度訪れた場所の地理情報を正確に把握できるオズはこういう時はとても頼もしい。
オズがクロを止め、俺たちは地上へと降り立った。
そこは確かにエルフ族の里に間違いなかった。
「おぉ!魔法使い様たちではありませんか」
久々に見たエルフ族の人たちも元気そうだ。
「やっほー!遊びに来たわよ」
「久しぶり!」
オズたちも楽しそうで何よりだ。
「これはこれは、魔法使い様の伴侶の……」
あー、そういえば俺たちの名前は教えてなかったっけ。
「タカノです」
「タカノ様でしたか。お久しぶりでございます」
なんというかその……
オズの夫というだけで特に何もしてないのに丁重に扱われるのってなんだかなぁ。
でもエルフ族の人たちがそうしたいなら別にそれでもいっか。
「この前くれたお酒、あれすごく美味しかったわ!」
オズは酒のことでエルフ族に謝礼をしている。
確かにあれはすごく美味かった。
そのせいでオズが一晩でほぼ全部飲んじゃったけどな。
「そうでしょうそうでしょう。よろしければ酒蔵まで案内いたしましょう」
「本当に!?」
「ええ、本来ならば関係者以外には立ち入りできないのですが魔法使い様には特別に」
そのまま酒樽とかに顔から突っ込んでしまわないか心配だけどさすがにそれは考えすぎか。
「タカノ様はどうお過ごしになられますか?」
俺か。
俺はただ付き添いで来ただけだからなぁ。
「俺は家族の引率みたいなもんだし、ここでみんなを見てるだけでいいかな」
「そうですか」
なんというか、俺自身が特に何をしていなくてもオズやミラが元気な姿でいてくれるのが何よりの喜びだ。
だからこれといって俺自身が動かなくてもいいかな。
「黒竜様ー!」
「すごーい!本物の黒竜様だ!」
エルフ族の子供たちがクロを見て大はしゃぎしている。
そんなクロの側にはミラが付いている。
「触ってみる?」
「本当にいいのー?」
「もちろん」
今思えばミラも大きくなったもんだ。
エルフ族が元々小柄な種族とはいえ、その子供たちと身長差があるのを見てそう感じずにはいられない。
「あの銀髪の魔法使いの子は、タカノ様の子ですか?」
「娘みたいなもんだけど、俺の子ではないかな」
隣で子供たちの様子を一緒に見ていたエルフ族の女性に尋ねられた俺はそう答えた。
それに対して意外というような表情を見せた。
「あの子、元々は由緒正しき家の生まれで本当なら俺と一緒にいるような存在じゃないんスよ」
「じゃあどうしてタカノ様の元へ?」
「いろいろあってな、今はあの子の両親から正式に許可をもらって一緒に暮らしてる」
話し込めばいろいろと複雑だし、これぐらい大雑把な説明でいいだろう。
「血は繋がってなくても、俺たちは家族だと思ってます」
「家族といってももいろいろ形があるんですね」
ミラは家族公認の家出娘、オズは元居候で今は俺の妻。
全員血のつながりはないけれど、同じ家で寝食を共にし、心の中でつながっている一つの家族だ。
「あれから森はどうですか?」
「平穏な時間を過ごせています。害獣は出てこなくなりましたし、水晶の輝きも前より大きくなったようです」
水晶の樹はミラの大魔法で生命力を最大まで回復している。
最盛期と同じ輝きを放っているわけだからそれも当然か。
「それに、私たちも新しいことを始めたんです」
「新しいこと?」
「はい。水晶の光を浴びていなくても森の外に出られるようになるにはどうすればいいのかを考え始めたんですよ」
エルフ族は水晶の光を浴びないと衰弱して最終的には死んでしまう。
森の外へ出ることができない原因だ。
「いつかは私たちも森の外に出てタカノ様のような人間と積極的に交流できる日が来るんでしょうか」
「来ますよ、きっと」
今はまだ無理だとしても、いつかはこの問題が解決できる日が来るだろう。
そうなるとギルドにエルフ族がやって来るのだろうか。
俺たちが生きているうちに実現するといいな。
「ねえ、トモユキも一緒に遊ぼー!クロと追いかけっこするの!」
ミラから呼びかけられた。
なんだかものすごく物騒なことを言っている気がするがまあいいか。
「子供に呼ばれたんでちょっくら行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
子供たちと一緒に森の中を駆け回っていると自分まで童心に帰るような懐かしさを感じる。
無論、あの頃のように体力が無尽蔵にあるわけではないけれども。
「むふふー!また貰っちゃった」
オズが上機嫌だ。
どうやらまた酒を貰ったらしい。
「今度はどれぐらい貰ったんだ?」
「酒樽一杯分」
はぁ!?
まさかとは思ったが本当に酒樽に頭から突っ込んでしまわないだろうか。
「これから定期的に貰いに行こうかしら」
「やめとけ」
交友関係を切られても文句言えないぞ。
あと定期的じゃなくて『酒が切れたら』の間違いだろ。
下手したら毎日じゃねえか。
「ミラはどうだった?」
「エルフ族の子たちといっぱい遊んだよ!それにいろんなこと教えてもらったの!」
相変わらずの知的好奇心だ。
彼女を動かす原動力と言ってもいい。
「そうか、帰ったら俺たちにも話を聞かせてくれよ」
「うん!」
俺たちは時々大きな事件に巻き込まれたりもするけれど、周りの人たちを助け、時に助けられながら三人でそれを乗り越え解決していく。
これからもずっとそれが続いて行くのだろう。
おかげでこの世界は本当に退屈することがない。
さて、次に俺たちを待つものはなんだろうか。
今回で8章は完結です。
次回から9章が始まります。




