オズ、乱れる
その晩、俺はオズとテーブルを挟んで一対一で向かい合っていた。
どうやら話したいことがあるようだ。
なぜかオズはすでにかなり酒を飲んでいる様子だ。
「ねえ、今日のことなんだけどさ……」
「な、なんだ」
もしかして昨夜のことを覚えているのだろうか。
勝手に緊迫して呼吸がしづらい。
「朝起きたらアタシの下半身が裸になっててベッドの上に履いてたはずのパンツが捨ててあったんだけど」
ものすごく心当たりのある報告を受けて首筋から変な汗が出まくっている。
後ろに続く言葉に嫌な予感しかしない。
「いつ気が付いた?」
「アンタたちが家を出てからね。なんかいつもより下半身がスースーしたからそれで目が覚めて……」
よく言うわ。
普段から寝るときはすごく風通しのよさそうな格好してるくせに。
「ってかやっぱりアンタこのこと知ってたのね!?アタシに何したの!?」
「何かってなんだよ」
早とちりするオズについキレ気味に食い下がってしまった。
「何って、その……あの……」
オズが顔を真っ赤にしている。
あー、何を想像しているのかわかったぞ。
「あぁ、昨夜のことを正直に話そう」
ここは正直に話して誤解を解くのが一番だろう。
特に困るような内容じゃないし。
「ゆ、昨夜何をしたの?」
「昨夜のお前はトイレで寝落ちしてた」
「……は?」
どうやら寝落ちしていたことは覚えていないようだ。
「もしかして昨夜のこと覚えてない?」
「えーっと……確かアンタと一緒にいっぱい飲んで、それからお風呂入って、自分の部屋に行ったところまでは覚えてるんだけど」
なるほど。
その後トイレに行ったことは覚えていないのか。
「さっき言った通り、お前はトイレで寝落ちしてたんだ。ご丁寧に鍵まで閉めてな。おかげでトイレの鍵を壊す羽目になった」
修理費を折半してくれないかな。
「え……マジ?」
「マジだよ。下半身ほぼ丸出しで寝てたし、どうせ起きないだろうからそのままベッドまで運んでやったよ」
「そ、そうだったの……?」
とりあえず誤解とかはなくなったようだ。
「パンツに関しては俺の不注意だ。もうちょっと確認しとけばよかった」
「いや、それは仕方ないわ。さすがに酔いが回ってそこまでできるわけないし……」
ですよね。
「で、でもさ……」
オズがやたらモジモジとしている。
普段はこういう表情をまったく見せないだけに新鮮だ。
「もうアタシたち結婚してそろそろ二年になるし、そろそろそういうことがあってもいいんじゃないかーって……」
予想のはるか上を行く発言が飛び出した。
そうか、何気なく過ごしてきたから実感がわかなかったがもう結婚して二年になるんだな。
「アンタは、そういう気にならないの……?」
オズが鼻息を荒くしながらわざとらしく胸元をはだけさせて俺に見せつけてくる。
正直かなり興奮させられるけど、普段とあまりに行動が違いすぎて正直怖い。
「おい、ちょっと待て」
「アタシ……欲しくなっちゃった……」
何を欲しているのかは言わずともわかる。
「アンタとそういう関係になってからアタシずっと待ってたのよ!でももう我慢の限界よ!」
そう叫ぶや否やオズはいきなり立ち上がって俺に飛びかかってきた。
乱心だ!
オズが乱心している!
誤解は解けたが逆に吹っ切れやがった!
「待て!落ち着け!」
オズの目の焦点が合っていない。
これはもう話合いで落ち着かせるとかそういうレベルじゃない。
ヤバい!完全に理性がぶっ飛んでやがる!
「バカ!やめろ!」
「知らないわよ!恨むならアタシをここまで焦らした自分を恨みなさい!」
なんだコイツ!
理性が飛んで本能で動いてるからかいつもよりめっちゃ力が強いぞ!
ヤバい、このままじゃ〇される!
嫌だ!
俺は酒の勢いなんかで子供は作りたくねえ!
あああああ誰か助けてくれ!
「うおおおおおお!!」
ギリギリのところでオズを振り切り、そのまま勢いで家から飛び出した。
素面と酔っ払いじゃ足回りの差は歴然だ。
こうなったらこのままオズが正気に戻るまで逃げきってしまおう。
「ハァ……ハァ……」
とりあえずギルドまでは逃げてきた。
オズは追いかけては来ていないようだ。
召喚魔法で呼び戻されるないのは運がいいと考えた方がいいだろう。
さて、勢いで飛び出してきてしまったがここからどうやって一晩を過ごそうか。
何も持ってないから宿も借りられないんだよな……
「あっ、おいオッサン!こんなところで何してるんだ?」
その声は!
「アル!ちょうどいいところに!」
あああああ猫様と出会えためぐり合わせに感謝!
「お、おいなんだよ!」
「頼む!少しの間俺を匿ってくれ!」
「はあ!?」
「事情は後で説明するから!!」
「わかった!わかったから揺するな!」
なんとかアルの家に匿ってもらうことができた。
こんな時間の来客の珍しさからルイ君とリリーちゃんにじゃれつかれているけれどさっきの出来事に比べれば可愛すぎるレベルだ。
「はぁー、オズ家の当主が乱心なぁ」
「びっくりだよ。危うく〇されそうに……」
しまった。
十六歳には刺激の強い話題だったかもしれない。
「まー、なんだ……オッサンも苦労してんだな」
「今回は突然すぎて俺も理解できなかったわ」
「それはそれとして、なんでそんなに乱心したんだ?」
そうだ。
どうしてオズは急に乱心したんだろう。
思い当たる節があるとすれば……
俺は事の経緯をアルに話した。
「ほー、酔っぱらって寝てたオズ家の当主をパンツ脱がせたままベッドの上で放置したのか」
確かに何も間違ってないけど言い方に問題があるのでは?
「そういう夫婦のことはさっぱりわかんないけどさ、同じことをされたらウチならたぶん同じ勘違いをすると思うぞ」
そんなものなのかな。
「とりあえず今晩だけはウチにいてもいいからさ。その間に今後どうするか考えてみるのはどうだ?」
「ありがとな、そうさせてもらおう」
「明日は仕事休め。狼にはウチから伝えといてやるよ」
コイツも気が利くようになったなぁ。
「だからその間ルイたちと遊んでやってくれよ」
「は!?」
これはやられた。
ある意味一番疲れることを任されてしまった。
「遊ぼ遊ぼー!」
「何して遊んでくれるー?」
今回の一件、俺が悪かったのだろうか……?
俺はいろいろと思考を巡らせながら一晩中猫の兄妹と戯れて過ごした。




