脅威が去って
どうやら先日クロが戦ったあの白竜、ゴブリンが手なずけた戦闘用のドラゴンだったらしい。
他の動物を家畜にして使役する習性もあったとは恐ろしい奴だ。
だが最大戦力であるドラゴンを退けられたことでゴブリンたちもどこかへ逃げて行ったようだ。
オズ派の魔法使いたちに加えて力を取り戻したエルフ族たちも戦線に立ち始めていたし、遅かれ早かれどうにかなっていただろう。
何はともあれ、水晶の森にはこれで平和が戻るはずだ。
「たっだいまー!」
あれから約一週間後の夜、やたらと上機嫌な様子でオズが帰ってきた。
オズが帰ってきたということは本当に森の一件が終息したと考えてもいいだろう。
「おかえりー!」
「おかえり。待ってたぞ……ん?」
オズの隣には見たことのある人物がいる。
エルフ族の長老だ。
「エルフ族って森の外に出ると衰弱するんじゃなかったのか?」
「どうしてもお礼が言いたいってさ。それに森の外っていっても一晩ぐらいなら平気だし、今回はアタシがいるから大丈夫大丈夫」
「この度は我らの水晶の森を助けていただきありがとうございました。おかげで我らはこれまで通りに暮らしていくことができます」
椅子に腰かけ、改めてエルフ族の長老は俺たちにお礼を告げてきた。
「どうしてゴブリンたちがあの森を襲ってきたんですか?」
前々からずっと気になっていた。
どんな理由があってゴブリンは水晶の森を狙ったんだろう。
「そうそう、アタシも気になってたんだよね。いつもだったら冬に来るんでしょ?」
「その通り、いつもならば冬に来るはずなんです。去年の冬にやってこないと思って不思議に思っていたらこの始末です」
「ゴブリンがなぜ今になって森を襲ったのかはわかりません。例年通りならば森の中にある資源を狙ってきたのでしょう」
なるほど、時期がずれたから対応が遅れたのか。
待てよ、森の中にある資源を狙っていたのにどうして森を枯らそうとしたんだ?
「恐らく、なんらかの目的を持ち、森に住む我々を排除するために」
ゴブリンはただの害獣じゃない。
言葉こそ話せないけれども人間以外の生物にしては高い文明力を持っている。
なにやらまた不穏なニオイがするな。
「貴方達には感謝してもしきれません。些細なものではありますがどうぞこれをお受け取りください」
エルフ族の長老は大きな包みから一升瓶を数本取り出した。
それがなんだか見覚えがある。
「これ何?」
見慣れないそれをミラが興味津々に覗き込む。
「エルフ族に伝わる秘伝の美酒でございます」
やっぱりか。
これを要求する奴は我が家には一人しかいない。
「ありがとー!前からずっと飲みたかったのよねー!」
ほら見たことか。
オズが瓶を抱きしめながら恍惚とした表情を浮かべている。
前にも飲んだことがあるって言ってたな、よほど美味いのだろう。
「銀髪の魔法使い様。貴方様にも感謝の品を用意しています」
「ミラにも!?」
エルフ族の長老はミラにも感謝の品を用意しているらしい。
枯れかけた森を蘇らせた最大の功労者でもあるから当然ともいえるだろう。
「なにかな!?なにかな!?」
「さあ、なんだろうな」
ミラはワクワクしている。
実は俺もかなり期待をかけている。
「おおー!!」
エルフ族の長老から手渡されたそれを見てミラは大はしゃぎしている。
すげえ、水晶の樹でつくられた杖だ。
透明に見えるそれは光を受けて様々な色の輝きを放っている。
まるで宝石を削って作られたかのようだ。
「今回の一件で感謝を込めて特別に作りました。他の誰も持っていない、貴方様だけの杖です」
そういえばミラは自分の杖を持っていなかった。
初めて手にする杖が世界に一つだけのものとなればさぞ気分が高揚していることだろう。
「すごいすごい!これ本当にミラにくれるの!?」
「ええ、我々からのほんの気持ちです」
「わーい!ありがとー!!」
初めての自分の杖を手に入れてミラは舞い上がっている。
「なあオズ、あれを店で買おうと思ったらいくらするんだ?」
「わかんないけど……魔法使いの杖、それもエルフ族の特製となれば五十万ルートは軽く飛んでいくかもね」
ひっそりとオズに耳打ちした俺は卒倒しそうになった。
五、五十万だと…
俺の給料約四ヶ月分じゃねえか……
「またいつでも森へ遊びに来てくだされ。我々はいつでも歓迎いたしますぞ」
エルフ族の長老は俺たちに別れの言葉を残し、オズの召喚魔法によって水晶の森へと帰って行った。
せめて名前だけでも聞いておけばよかったかな、まあいいか。
「さあ、早速これを開けましょ」
久々の家族三人揃っての夕食だ。
オズはウキウキで酒瓶をスタンバイしている。
「俺にも少し分けてくれよ」
「いいわよ、今回はたくさんあるし」
よっしゃ!
エルフ族が作る酒、果たしてどんな味なんだろうか。
飯を食べながら俺とオズは二人でエルフ族が作った酒をあおった。
「んんー!!この味よこの味!」
「超美味え……」
ヤバい、これはマジで美味いぞ。
色合いや風味的に恐らくは果物の酒だろう。
果物の味がはっきりとわかるし、それでいて喉越しもよくて後味も悪くない。
それに香りがとてもいい。
酒が美味いと自然と飯も進む。
過去に飲んだ酒の中で一番美味いと言っても過言ではないだろう。
時間が許すならずっと飲んでいたいぐらいだ。
「ねーねー。お酒ってどんな味がするの?」
俺たちが美味そうに飲んでいる姿を見て興味を持ったミラが覗き込んできた。
「うへへー、ミラもちょっと飲んでみるぅ?」
「おいやめろ」
オズがグラスに注ごうとしたところをギリギリで阻止することに成功した。
というかアイツもう出来上がってやがる、どんだけハイペースで飲んだんだよ。
「むー、なんでー?」
「子供にはまだ早いんだよ。飲んでいいのはもっと大きくなってからだ」
楽しい時間を潰しかねないのは百も承知だがここは大人としての尊厳を見せておかなければ。
下手に酒飲ませてミラが変なことになったら困るし、何よりこの場にいる全員が酔ったら何かあったときに止めてくれる役がいなくなる。
その後も久々の家族水入らずでの楽しい時間は続いた。
ありがとうオズ、ありがとうミラ、ありがとうレオナルドさん。
そして、ありがとうエルフ族。




