魔力を求めるミラ
水晶の森に危機が迫って数日。
オズ派の魔法使いたち数十名が森に到着し、水晶の樹がすべて枯れてしまうのをギリギリのところで食い止めているらしい。
森を荒らすゴブリンの退治も並行して進めらているものの数が減る気配が一向になく、見つけては駆逐するというのを繰り返しているようだ。
駆逐に多数の一方で森の回復に従事する魔法使いが少なくてオズを悩ませているんだとか。
まあ、オズの下についてる連中だからな……
あれからというもの、ミラはまた悩んでいるようだ。
どうやら自分が魔法をもっと上手く使えればより多くの樹を復活させられたかもしれないと考えているらしい。
俺は初めてミラが魔法使いとしての能力を求める姿を見た。
それと同時に彼女が魔法使いの名家、マーリン家の血を引いているということを再認識した。
俺には魔法使いのことはさっぱりわからない。
オズは水晶の森にいるから今は顔を合わせられない。
こんな時、魔法使いのことを聞ける人物は……
「ふむ……ミラが力を求めているんだね?」
仕事帰り、俺は図書館に寄ってレオナルドさんに事情を説明した。
レオナルドさんはどういうわけか何度も頷いている。
「いずれはそういうときが来ると思っていたんだ」
「と、言いますと?」
「魔法使いの性って奴だよ。どんな魔法使いでも一度はそういうことを考える」
魔法使いってそういうものなのか。
「どうすれば力を付けられると思いますか?」
「そうだね……タカノ君にはまず魔法使いの力がどのようにつくられるのかから説明しよう」
そういえば全く知らなかった。
魔法使いはどうやって力をつけていくんだろう。
「魔法使いの力は『魔力』、『知識』、『実践経験』の三つで構成されているんだ」
「三つですか……」
「そう。魔力は生まれ持った素質、知識と経験はそこに後付けされる安定剤のようなものなんだ」
生まれ持った素質……
ミラは幼いながらも多彩な魔法を自在に扱える。
故に素質は十分すぎるほどだと言っても差し支えないはずだ、知識も豊富に持っている。
だとすれば必要なのは実践経験だろうか。
「三つの中でミラが何を必要としているのかな?」
ミラに足りないものは経験だろう。
しかしもっと魔法を使いたいといっていたな。
もしかすると、ミラはより多くの魔力を求めているのではなかろうか。
「魔力……でしょうか」
それを聞いたレオナルドさんの表情が難しそうになった。
「うーん……それは困ったなぁ」
魔力を伸ばすのは難しいようだ。
「魔力を伸ばすためには長年の研鑚が不可欠なんだ。私も今のようになるまでに少なくとも二十年は費やしたからね」
不可能ではないが時間がかかるということか。
それではミラが力を手にする前に森はどうにかなってしまいそうだ。
「つまり時間がかかるということですか?」
「その通り」
「もし、短い間だけ一気に魔力が強くなるみたいな……そんなことってありますかね?」
「なくはないね。しかし……」
そこまで言ってレオナルドさんは言葉を詰まらせた。
「しかし……?」
「それは危険な行為だ」
なるほど。
やはりそういうことにリスクは付き物か。
「具体的には、どれぐらい危険なんです?」
「力に飲まれて人間そのものが変わってしまうかもしれない」
人間そのもの……だと?
ミラがミラじゃなくなるってことか!?
「ミラに限ってそんなことは……」
「ないと言い切れるかい?」
レオナルドさんに問い詰められて俺は何も答えられなかった。
いや、そんなまさか……
「私ですら滅多に手を出さないような代物だ。まだミラには早すぎる」
待てよ、レオナルドさんが『滅多に手を出さない』と言っていたな。
ということはその方法は身近にあるということか。
「その方法っていうのは……どんなものなんですか?」
「選定の剣を使うことだ」
『選定の剣』
この世界に三つ存在するとされる魔装、その内の一つでマーリン家が所有している。
確か前に聞いた言い伝えでは……
「選定の剣が持ち手を選ぶというのはそういうことなんだ」
「そうだったんですか……」
流石は魔装、そしてその担い手だ。
スケールが違う。
「私とて力を抑えるのが難しいものを、まだ幼いミラに持たせるわけにはいかない」
「そうですか……」
基本的にミラに甘いレオナルドさんがそこまで厳しく対応するということは本当に難しい問題なのだろう。
「あー。やっぱりここにいたんだ」
後ろからの声に驚いて振り返るとミラがいた。
こんな時間にどうしてここにいるのだろう。
まさか俺のことを探しに来たのだろうか。
「なんでここがわかったんだ?」
「トモユキはこの前ミラとお話をしてたでしょ?もしかしたらそのことでお父さんに相談しに来てるんじゃないかなーって」
恐ろしい洞察力と行動力だ。
これも彼女が成長している証か。
「そっか。ごめんな、こんな遅くまで一人にさせちまって」
「それで、お父さんはどこまで話を知ってるの?」
なんでそこまでお見通しにされているのか俺には理解できない。
「ミラ。ついに君が力を求める時が来たのかとお父さんは驚いたよ」
「どうすればミラはもっと魔力を高められるかな?」
これが魔法使いのあるべき姿なのだろうか。
むしろこれまでこういう姿を見せなかったマーリン家が異質なのかもしれない。
「方法は二つ。年月を重ねて鍛錬を積むこと、そしてもう一つは……」
「選定の剣……」
剣のことはミラも知っているようだ。
「どうしてもミラがすぐにでも水晶の森を復活させたいというのなら、選定の剣の力を使うしかない」
「ミラ、剣の力を使えば君が君でなくなってしまうかもしれない。その覚悟はあるかな?」




