黒竜信仰と森荒らしの元凶
今回は途中まで三人称視点の話です。
春のとある日。
水晶の森にてクラリス・オズは森を荒らす存在の正体を突き止めるべく活動を続けていた。
ここ三日ほど周囲を捜索するものの痕跡はまだ見つかっていない。
「こうも水晶樹ばっかりだとさすがに飽きてくるわね……」
どこまでも続く水晶樹の景色にクラリスは辟易としていた。
さらに木の根が張り巡らされていて足場が悪く、進むのにも一苦労だ。
「よし!こういう時は上から見るに限るわね」
何かを思いついたクラリスは召喚魔法を発動させた。
金色の魔法陣が展開され、その中から黒き巨大な竜が姿を現す。
タカノ家のペット兼番竜、フェアリードラゴンのクロだ。
「クロ、飛んで」
クロの背に乗り、クラリスは指示を出した。
指示に従ってクロは翼を広げて飛翔し、地上を離れてゆっくりと上昇する。
上空からは森の様子が一目瞭然だった。
全体を見渡すにはこちらの方がはるかに効率がいい。
「やっぱり何もないわねぇ……」
やはり森で何かが起きているような様子はない。
エルフ族の長老が語るには森を荒らす何かがいるらしいが、それが行動を起こしたような形跡もない。
何やら森が騒がしい。
エルフ族たちの声だ。
クラリスは地上に降りて様子を確かめることにした。
「おお、黒竜様だ!」
「黒竜様が降りてこられたぞ!」
なにやらクロが注目を集めているようだ。
「どうしたの?クロがそんなに珍しい?」
「珍しいも何も、黒竜様は我らエルフ族にとって神にも等しい存在なのです」
黒竜信仰、それはエルフ族に代々存在する文化である。
クラリスは初めてその存在を知ることとなった。
「黒竜様!」
「おお、黒竜様よ!」
高揚するエルフ族とは対照的にクロはどこかを睨むように見つめている。
クラリスはその視線の先を追うが特に何かがあるようには思えない。
「クロ?」
クラリスが声をかけた瞬間、クロは牙をむいて見つめていた場所へと飛び掛かった。
その衝撃で周囲にいたエルフ族たちはまとめて吹き飛ばされ、尻餅をつく。
どこかへと消えたクロが飛んで戻ってきた。
その足には一匹の獣ががっちりと掴まれている。
「うわっ、ゴブリン…」
クラリスはそれを見て戦慄した。
それはこの森を荒らす元凶に他ならなかった。
「なんと、ゴブリンがこの森に…」
「またやって来たというのか…」
ゴブリンを見たエルフ族たちが再びざわめき始めた。
過去にも水晶の森はゴブリンからの襲撃を受けている。
それも一度や二度ではない。
「これは大変なことになったわね……」
クラリスも困ったように頬を掻いている。
いつもなら果敢に戦おうとする彼女がなぜか今回はあまり乗り気ではない。
「魔法使い様、ゴブリンを退治してはくれませぬか?」
エルフ族の長老がクラリスへ懇願した。
「えっ?あぁ……任せときなさいって!」
手を貸すといった以上は中途半端に断ることもできない。
クラリスは躊躇しつつもそれを承諾した。
――――――――
「何?ゴブリン狩りに協力してくれって?」
平日の夜にオズが久々に帰って来たかと思えばいきなりこれだ。
そもそもそういうのってハンターの仕事だろ。
「お願い!手伝って!」
珍しくオズが両手を合わせて頼み込んでいる。
たかが害獣程度なら自力でなんとかできると思うんだが…
「お前だけでなんとかならないのか?」
「無理!いくらアタシでも群れでかかってこられたらひとたまりもないわよ!」
「それに……」
それに?
まだ理由があるのか。
「ちょっとゴブリンには嫌な思い出があるからできるだけ関わりたくなくて……」
なるほど、過去に何かあった奴だ。
詳しいことは聞かないでおこう。
「そんなに嫌なら自分で戦わずにハンターたちに駆除を依頼すればいいんじゃねえの?」
「そんなことしたらオズ家の威信が台無しよ!アタシがゴブリンごときと戦うのを嫌がってるって知られたら笑われるに決まってるし」
面倒くさいなぁ。
代々築き上げてきたオズ家の威信を失いたくないのっていうのはわかるけれども実に面倒くさい。
「あれ?そういえばミラは?」
違和感に気づいたオズが尋ねてきた。
いつもなら夕食前ぐらいの時間なのにも関わらずミラがいない。
「今日は図書館に寄るから帰りが遅くなるってさ」
ミラはレオナルドさんに会いに図書館へ行くと言っていた。
エルフ族に関する興味がとことん高まっているらしい。
「流石にあの子には頼めないわよねぇ……」
「そんなことしたらマジで殴るぞ」
ミラをゴブリン狩りに協力とかさせようものなら問答無用で頼んだ奴をぶっ飛ばしてやる。
「ところでお前、クロを知らないか?」
帰ってきてからクロの姿を見ていない。
いつもなら屋根の上で寝ているはずなんだが。
「あー、水晶の森に連れてったらエルフ族たちにすごく気に入られちゃってさ……」
「それで?」
「一晩だけ向こうに置く約束しちゃった」
その後、オズから事情を聞いて納得した。
エルフ族は黒いドラゴンを神として崇拝しているようだ。
そりゃいきなり崇拝対象がやって来たらそうなるよな。
「大丈夫かねぇ、クロ」
「わかんないけどたぶん大丈夫でしょ」
だといいんだが。
「じゃあそろそろ戻るわね」
「飯はどうするんだ?」
「向こうの人たちが用意してくれるらしいからそっちで食べる」
「そうか、気をつけてな」
オズはまた水晶の森に行ってしまった。
なんかもういろいろと大丈夫じゃないような気がして心配でならない。
今度の休日は様子を見に行くことにしよう。




