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「これからの行動について説明を——ってどうしたその隈は」
「「「すいません、寝不足で……」」」
「いつでも体調管理は大事だからしっかりな」
イザークは嘆息しながらも馬鹿どもに対して軽い注意に留める。そして咳払いをすると本題を語り始める。
「これからの行動についてだが、トビアス、ヨルク、アデレードはこのまま学校へ。ビショップは続きの任務があるため待機だ」
「了解です」
「了解」
「了解しました」
「……ちょっと?」
「お疲れ!」
「「「お疲れ様でした!!」」」
「ちょっと待って私だけ置いて行かないで!!」
——ファファール王国城下町
今の時刻は午後九時。城下町から発せられる人工の明るさもビショップが伏せ隠れている塔の屋根までは届かない。下からの光はビショップに届く前に上からの闇に溶け込み、吸収されている。
ビショップが属している国であるダラット王国から二つほど国を越えた先にある国。そこの城下町の塔の屋根にビショップは伏せ、ある者を待っている。
今回の発端はイザークからの個人的なお願いだ。近々、この国で何人かの若者が大々的に表彰される現場を見て来いというお願い。
イザークに貸しがあるビショップに拒否権は存在しないことは明白だった。
「で、こんな落ち目王国に見るほどの価値があるようには思えないんだけど」
ビショップはイザークと繋がっている通信用ティアを口元まで持っていき、目標が来ないことに対する八つ当たりをする。
「まあ、見ていれば分かる。落ち目の王国がここまで大きい表彰式をするんだ。なにかあると思う方が普通だろう」
はぁ、とため息をつきビショップは改めて望遠鏡で覗く。
望遠鏡を覗いた先にあるのは王城の一部。広場だ。
そこは明るい城下町の中でも一際、異彩と激しい光を放つ。それなりの身分、つまりは貴族がうようよとまるでその光に集まる羽虫のように群がっている。
イザークは近くの宿で待機している。イザークは自分が行ってもすぐにばれる。そう思っていたため見ることを諦めようと思っていた。そこに湧いて出たのが、正確には違うが瞬間移動のビショップ。イザークは幸運だった。
「んあ? なんか来ました。若いです」
「人数は?」
「三……四人。男二人と女二人」
大きな両開きの扉から出てくる若者四人。
文にしては頭が良さそうには見えないし、武として見てもまったく脅威と感じることはない。ビショップはそう判断した。まったくもって自分の感が警告を鳴らさないのだ。
服装を見てもどこで仕立ててもらったのか全く分からないような服。
望遠鏡でしか見れないが、その服の生地は既存の物ではないだろうとビショップは思う。
その場には似つかわしくない服装の若者に貴族が殺到したことで、ビショップはこれが表彰式が終わった後の宴ということを理解する。だからといって何も変わらないが。
だらだらと、ビショップが細部の情報をイザークに説明している。それが終わったのを同じくして、ビショップはレンズ越しの広場が新たな展開をしていることに気付く。
「あ~。なんか賊っぽいのが宴に乱入しました」
「は? 賊がか? これだから落ち目王国は……」
さっきまで若者達に群がっていた貴族らは、一目散に逃げている。その場には賊が数十人と若者四人が残されていた。
人数的に若者達は圧倒的不利。この事態をビショップはラッキーと喜びながら眺める。
この事態によってのちに11隊が頭を痛める情報のうちの一つが手に入るのだが、今のビショップが気付くはずもない。
「若者達と賊が交戦しました。ってあれ?」
「どうした? なにかあるなら全て話してくれ」
「いえ、彼らは咎眼を使っているようですが、一人の者が水と氷と炎を使っています」
ビショップが望遠鏡で眺めている広場。それでは何人もいる賊を相手に無双する若者達がいた。各々が火を、水を、氷を、大地を、重力を、様々なものを纏い、扱い、大立ち回りを演じている。
「いやあり得ないだろう。いつから君の頭は軽量化をしたんだ?」
「全員が二つ以上の能力を使っています。あと私の頭は軽量化されていません」
「むう、にわかには信じがたいのだがな。他には?」
「……目が光っていません。能力を使っているのに瞳が輝いていません」
「それこそあり得ないだろう。と言いたいが、……ふぅ困った困った」
イザークが肩を竦ませてヤレヤレと頭を振っている姿をビショップは容易に想像する。実際、イザークは待機している宿でその姿をしていた。
「賊、沈黙しました。若者達に目立った傷はありませんね。完勝です」
その時だった。ビショップと一人の若者と視線が交わる。一瞬ビショップの思考が停止。
あり得ないのだ。そうあり得ないことなのだ。ビショップは約一キロ離れた塔の上に真っ黒の外套を羽織り、伏せていたのだ。さらに、真っ暗な場所を明るい場所から見ることなど不可能である。それらの条件を加味してこの場所で大丈夫だとビショップは踏んでいた。
だが、ビショップは若者の目が改めて咎眼で光っていないと確認できるほどに真っ直ぐに見られていた。
「うわ、やば。目が合いました……ッ」
ビショップから届く情報を何一つ聞き逃すまいと耳をすませていたイザーク。ビショップが珍しく叫ぶように大声で通信した後、突如聞こえる爆発音。それは通信用ティアからも、窓の外からも聞こえる爆音だ。
「どうした!? 生きているかビショップ?」
「けほけほ、死んでいます」
「なら今回の報酬は無しでいいな。よかったよかった」
「不肖ながらビショップ。傷一つなく元気です!」
「いや、傷一つないのも怖いんだけど」
ゴミ箱の中でビショップは先ほどの光景を思い出す。
ビショップが硬直から解放されたと同時に、望遠鏡の中の若者はビショップに向かって手の平を仰ぐ。ビショップの脳内には危険を告げる警報が鳴り響いている。それも、頭にギンギンと鳴り響くその音はアラームのようにけたたましい。
咄嗟にビショップは塔の屋根から飛び降り、事前に垂らしていたロープを掴む。掴んだまま壁を駆け下りる。ビショップの背後では爆発音が響き渡っていた。
その爆発と同時にまさにビショップの運命を握る命綱の抵抗力が消える。真っ逆さまに落ちていくビショップだったが、運はまだ地に落ちていなかった。
真っ逆さまに落ちたビショップは大きめのゴミ箱の中に背中から着地する。
一連の流れを思い出してビショップは無意識に息が漏れる。なんだかんだいってよく自分生きているな、と。
「じゃあ、これからどうします?」
「本日の最後の乗合馬車はあと十分後。私はすでに向かっている。あとは、分かるな?」
「私、間に合いますかね?」
「自分の足と体力に聞け。あ、できるだけ人には見られてはダメだ。目撃情報は面倒事の元」
「了解」
その言葉を言うが早いか走るが早いか、ビショップは闇夜を駆ける。このまま、裏道と屋根を使って直線で行けば間に合うとビショップは計算していた。
屋根部分が消滅した。ユニークな形をした塔を背に民家の屋根の上を走る。
(あいつの目。技術は全然だったけど、中々良い殺意の目をしてたじゃない)
こんな状態なのに頭の中にあるのが、若者の殺意のこもった目ということを気付いたビショップは自分にため息と悪態を送っていた。




