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 少しばかり焦げ臭い地に初めから居たビショップとイザークの二人。まずヨルクが合流。次にアデレードが息を切らせながら合流。最後に服を赤色に染めたトビアスが右肩を押さえながら合流した。彼の合流で全員が合流したことになる。


「え、何? 染色したの? 戦闘中にオシャレに目覚めたの?」


 木に背中を預け、息をゆっくりと整えていたトビアスにヨルクはニヤニヤと笑いながら話しかける。


「いや、オシャレじゃなくて染色技術に興味を持ったのかもしれないわ」


 アデレードがヨルクの悪ふざけに乗っかる。トビアスが黒いオーラを出しているのに気付かないまま。

 しかし彼らの余りにも戦場に似つかわしくない、たわいもない会話を苦笑いのイザークが遮る。


「まあ、無駄話は後だ。早めに本陣に戻る必要がある」


 イザークが流し目で全員の生存を確認する。そして、皆を急かすようにして撤収を開始する。ビショップは撤収の準備完了を待っているイザークの近くに忍び寄り、こそっと耳打ちする。


「『忘れ物』があるんでちょっと抜けていいですかね?」


 それを聞いたイザークはビショップを眇めると小さくため息を吐き「これは貸し。十五分以内」と小声で答える。

 了承を得たビショップはすぐさまその姿を消す。ビショップの姿が消えたことを確認したイザークは残った三人に滑らかに言う。


「トビアスの調子が悪そうだから少し休憩だ」


「ビショップは?」


「忘れ物だってよ」








「やあやあ、元気だった?」


 ビショップはまるで日常の一風景のようにその言葉を吐く。

 

 ビショップの目の前の女性は返事をしない。

 彼女は昔の死刑囚のように木に縛り付けられている。その手には細い紐が絡み、縛られている。まるで囚人の手錠のように。

 さらにその瞼は閉じられており、隙間からとめどなく鮮血が溢れ出て、それが首までつたっている。その目が使い物にならないことは誰の目から見ても明らかだった。

 咎眼は目の病気。目が使い物にならなければ、咎眼も使い物にならないのが道理。


「まあ、元気じゃないよね」


「貴方は……貴方は何者……なんで、すか……?」


 彼女はようやく口を開く。しかしその言葉はたどたどしく途切れ途切れ。その理は怯え。自分の能力がまったく歯が立たないどころか、一方的に蹂躙されたことによる怯えだ。


「いやでも本当に君が早い内に見つかってよかった。もし君が他の人に見つかってたら嘘がバレるところだったし」


「嘘?」


「そうそう、だって君の咎眼って瞬間移動でしょ?」


 ビショップは饒舌に語る。それは絶対的な余裕であり、同時に慢心である。

 彼女はビショップが浮かべている余裕の表情が見えていないにも関わらず、鮮明に脳内にイメージされる。


「……貴方の咎眼は?」


「死人に語る趣味は無いから」


 彼女は激しく咳き込み、吐血する。すでにビショップから受けた傷はその命を蝕んでいる。口と目から血を垂らしながらなお、ビショップに疑問をぶつける。


「ならなぜ、私を生かしたうえで再び私の元に来たのですか?」


「お礼を言うため」


「お礼?」


「そうお礼。私に早い段階で殺されてくれてありがとう」


 ビショップは返答する。その顔に嘲笑や見下しなどという感情は全く無い。それは心の底からの感謝だ。

 彼女は一瞬、驚愕の表情。そのあとに軽いため息を吐き、微笑を顔にはりつける。


「そうですか」


「うん。あ、馬鹿にしてるわけじゃないよ。———それじゃあまたね」


 ビショップは軽く微笑むとその場から姿を消す。瞬間移動とはまた違った方法で。






「ただいま」

 

「おかえり」


 適当にくつろいでいた四人の前にビショップが姿を現す。そして無駄な休憩時間を生み出した張本人が「じゃあ、行こっか」とのたまうことによって撤収を開始する。


 森がまるで帰したくないという意思を持っているかのように帰り道が険しく感じる五人。来た道と同じ道で帰っているはずなのに予想以上に体力を使うことになっているのは気のせいではないだろう。

 森は、木々は気付いているのだ。彼らが森を抜け、本陣に辿り着くことによって訪れる自らの終焉を。


 五人は無事に本陣に辿り着く。まあ、当然と言ったら当然なのだが。

 本陣に着くとイザークはトビアスを医療班に渡し、その他の者達を引き連れて初めに作戦の説明を受けた場所である大型テントに向かう。

 

 大型テントの中ではアナトリーが地図を見ながら一人唸っていた。一部の戦局が芳しくないのかその顔は苦々しそうだ。

 

「作戦終了です。敵は残さず殲滅しました」


「ん? ああ。帰ってきていたのか。ごくろうだった」


「もう他に私達が担当すべき作戦はないのでしょうか?」


「うむ。当初の撃破目標は全て沈黙しておる。お前達が担当するべき作戦は今のところは無いな」


 アナトリーがイザークとの会話を終わらせる。そのタイミングを見極めたビショップがアナトリーに話しかける。


「一つ意見をよろしいでしょうか?」


「ん? どうした?」


「あの森を更地にすべきだと思います」


「……そう思うのも道理。しかし弾薬費をあまり多くしたくはない」


「しかしあの森は本陣に近すぎます。次に強襲を受けた場合面倒かと」


 アナトリーは目を閉じる。外界と遮断した状態で、頭を働かせて損得勘定を計算する。具体的にいうと森から奇襲されるリスクと、更地にすることによって使われる弾薬費のコストを天秤に乗せている。

 少しの時間が経った後、大きく息を吐くとアナトリーは目を開ける。


「そうだな。勝ち戦を無駄にするのは勿体ない。更地にするとしよう。改めてごくろうだった、下がってよい」

  

「失礼しました」 


 ビショップは軽くお辞儀をすると、テントから退出する。退出したビショップにつられるように残りも退出する。

  

「お前って礼儀正しくできるんだな」


 ヨルクは心の底から驚いたような表情だ。


「私めっちゃ失礼なこと言われてる!?」


「いや、私も思ったわ」


「私もだな」


 ヨルクの言葉に共鳴したようにアデレード、イザークが次々に言葉にする。それを聞いたビショップは唇を尖らせて「ぶーぶー」と不満をあらわにする。


「いや冗談抜きで。不敬とかで処刑になったらどうやってフォローしようかと思ってたわ」


「私の計算では、腕一本で許してもらえると算出したぞ」


 イザークとアデレードとはここで別の進路をとる。指定されたテントが違うのだから。

 イザークは上位の幹部ようの個人テント。アデレードは女性のため女性用のテント。残りは小汚いテントに分けられている。ビショップ? 女性? なんのことだか。


 夜遅くに帰ってきた11隊の全員は、そのまま永眠するかのように寝る。テントに近づくにつれて今までは全くなかった眠気が襲ってきていた。旅行の家に帰った瞬間に、という例のアレだ。


 日が昇ると同時にすでに日常と化した砲撃部隊による目覚まし砲撃によって兵士が目覚める。

 目覚まし砲撃はいつもの最前線にではなく、本陣近くの森に無数に着弾。地面を抉り、木々をなぎ倒す。まさに鉄の暴風雨。

砲撃が始まって20分もすると緑一色、木々が生い茂りそこに生態系が確立されていた森はその森の営みも、そこに居る動物の営みも停止した。そこに縛られていた彼女も同様に。


 残り0人。敵咎眼部隊壊滅。



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