ネルヴァの交渉
「単刀直入に言います。ご主人様はこの手紙の複製そしてその手紙をほぼ全ての村、町、都市への配備
及び言葉の通じない人がそこへ来た時に渡すことを望んでいます。」
いきなり交渉というか要求を突き付けて来たから色々と分からないことだらけだ。
「質問良いですか?」
「許可します。ただし手短にご主人様を待たせているので。」
「・・・?ありがとうございます。
まず前提としてですが、そちらの方の方が偉いという事でいいのですよね?」
子供の方を見ながら聞いてみる。
話を全く聞いてないようにも見えるのだけど、兵からの報告だと天からの使いを名乗るのはそっちの子供の方で、このおっかない獣人の方はこの子供につき従う存在だという。
これから交渉するのだからどっちに主導権があるのかはっきりさしておきたい。
「もちろんご主人様の方が上の立場にあります。
そのような当たりまえの事は聞かずともわかるでしょう。」
「そっそうですね。」
不機嫌そうになにをあたり前の事、というような雰囲気をしていたのであわせておきました。
普通は子供の方がご主人様だと思わないと思うけど。
あっ、でも子供はどこか人形を思わせるも、綺麗ともかわいいとも取れそうなほど整っており、
身に着けている物も高級だから、良家のお嬢様とその使用人って思う人もいるかも。
いや、首輪・・・・じゃなくてチョーカーですね、あれ。
あれをつけてるから愛玩用の奴隷と誤解する人が大半ですかね。
いえ、強いというのも分かる人は分かりますから護衛とみるでしょうね。
「先ほどから一言もしゃべっておりませんが、何かこちらの不手際でもありましたか?」
主、つまり子供の方に向かってしゃべりかけましたが、子供は少し不思議そうにこちらを見るだけです。
なおも子供の方に話しかけようとしましたが、その前に獣人の方から静止がかかりました。
「ご主人様はあなた達の言葉を解しません。質問は私が聞きます。」
言葉がわからない?そんなのよっぽどの秘境か、あるいは・・・・・
「もしかしてあなた方は異世界の方でしょうか?」
言ってからしまったと思いました。
ある古い文献に、異世界人が過去にいたという話が有ったのですが、これはおそらく間違った情報です。
その文献以外でそういう記述がある物はなかったので。
今まで相談もしていなかった目の前のおっかない獣人の方が主人らしい子供に何やら相談をしています。
これは、もしかするともしかしたりするのですか?
「ご主人様からのお言葉を伝えます。
少し違うけど、そう言うっていう事は過去に異世界の存在を確認されているの?
という事です。」
少し違うという所が気になりますが、今は質問に答えましょう。
「古い文献に異世界の存在が来たという記述がありました。
ただ、その文献以外では異世界の存在が記録されていなかったので、
間違った情報だと今まで思ってました。」
私がそう言うとまたもや私にはわからない言語で主人の子供と話し出しました。
少しめんどくさいですね。どうにかできないでしょうか?
・・・・・・・・・あっ、思いつきました。
「オリヴァ、聖者の腕輪を持ってきてください。あれならそちらの方とも話すことができるはずです。」
「・・・・・・分かりました。」
私から離れるのを少し渋ったオリヴァでしたが、客人の前ですので暫定国王である私の言葉に抗うと、
私の権威を貶めることになると判断したのでしょう。
問答もなく私の従ってくれました。
「聖者の腕輪とは?」
私達の話を聞きつけたおっかない獣人の方が聞いてきました。
「聖者の腕輪というのは外部記憶装置とでも言いましょうか?
一言では少し言い表しにくいのですが、それをつけるとピットゥ語が分かるようになるんです。
ただ、着けている間しか効果はありませんが。」
「まずピットゥ語というのは?」
ああ、少し違うけど異世界の方という事でしたね。
「まずヴィダ語とピットゥ語というのがあります。
ヴィダ語というのは普段使っている言葉です。
ピットゥ語は基本的に聖典や賛歌、それから神官や巫女たちが使う言葉です。
貴族は神殿との関係からピットゥ語の習得はほぼ必須ですし、
市民でもたいていの人は片言程度には話せます。もちろん私も習得しています。
ですが貴族の中では横着なものがいまして。その者達が使っているのが聖者の腕輪、という事です。」
「なるほど、ご主人様があなた達と話すことができると。」
「はい、その通りです。ただ、先ほども言った通り、
市民では熱心な信者や神殿に出入りするもの以外は片言ですので通じないこともありますが。」
「それでも便利です。それはどこで買うことができますか?」
「いえ、今オリヴァに持ってこさせていますのでそれを差し上げます。」
「私もピットゥ語が分からないので私の分も欲しいのですが。」
「ああ、それは気づきませんでした。オリヴァが戻ってきたら言いましょう。」
私と主人である子どもが話せるようになっても、
そうなったら今度はこのおっかない獣人の方が話の内容が分からなくなりますからね。
オリヴァが聖者の腕輪を持って戻ってきました。
「国・・・暫定国王様、聖者の腕輪をお持ちしました。」
「オリヴァ、ありがと。それでもう一つ持ってきてほしいのですが。」
「もう一つですか、分かりました。」
おっかない獣人の方の方を見て察したオリヴァがまた部屋から出ていきました。
オリヴァを使いっ走りにするみたいで気がひけるのですが、
この部屋にあまり人を近づけたくありません。
信用できるオリヴァに任せるしかないのです。
「ではこちらをどうぞ。」
おっかない獣人の方を経由して主人である子供に聖者の腕輪を渡します。
おっかない獣人の方に聖者の腕輪を渡されて不思議そうにそれを見ていた主人である子どもですが、
おっかない獣人の方に説明されたのでしょう。理解の色が浮かびました。
そして子供は聖者の腕輪をつけました。
付けた瞬間主人である子供は少しくらっとしました。
おかしいですね。粗悪品の聖者の腕輪なら違和感を感じたり、変な浮遊感を感じたりすることもあるそうですが、王宮にあった聖者の腕輪です。そういうことが起こるとは考えられないのですが。
そんな考え事をしているとふらっと子供が立ち上がりました。
そして私の方に近づいてきます。
「《どうしました?》」
ピットゥ語で話しかけます。
聖者の腕輪を着けてるので言葉は通じるはずですが子供は反応しません。
しかしその目は私に真っ直ぐ向けられてます。
どこか人形を思わせた顔でしたが、
今は頬は上気し、瞳はうるみ、生気にあふれ、同性である私でもドキッとさせられる色香がありました。
なおも主人である子どもは近づいてきます。
そして私の目の前まで来たと思うと・・・・・・がばっと覆いかかってきて私は押し倒されました。
「なっ、なんですかっ?」
思わずピットゥ語ではなく、ヴィダ語で話してしまいました。
これでは相手に伝わらないというのに。
いえ、この様子では言葉が伝わっても相手は止まるとは思えませんが。
何とか相手の下から抜け出そうともがきますが、相手の力が強くてびくともしません。
ああ、ひ弱そうに見えた子供でしたが、やはり強者でしたか。
門の所では全く攻撃をしなかったみたいでしたが、防御専門という事はあり得ませんよね。
そう考えている間に子供の上気した顔が近づいてきます。
なぜだかドキドキします。
これは・・・・・生存本能でしょうか?
目の前に強者を目にして吊り橋効果とか?いえ、危険なのは状況ではなく、相手ですが。
そんな事を現実逃避気味に考えている間も子供の顔は近づいていき・・・・・・・・・




