聖者の腕輪(魅了)
目の前に整った少女の顔がある。
どことなく不健康そうな感じも見えるけど、その危うさも少女の魅力を引き出してるようにも見える。
その少女の顔には何も問題はない。
問題は少女の顔との距離だ。
もはや鼻と鼻が引っ付きそうな距離、吐息を交換できる距離、言い方は様々だけどそういう距離だ。
なぜこうなったのか?いや、覚えている。
私が立ち上がって少女を押し倒して迫ったからだ。
しかしその時の感情が理解できない。
あれはまごう事なき愛情だった。それも恋愛方向の。
突然それを感じた私はその感情に突き動かされ少女を押し倒して今に至ると。
しかしおかしい。
なぜこの少女にあれほどまでの愛情を抱いたのか?
今はそのような愛情を感じていたりなどしない。
可能性として考えられるのは、この聖者の腕輪とかいうものだ。
これに魅了系の効果がつけられていた?
装備で状態異常は無効化してるはずだけど、
現実になった弊害で無効化の発動が遅れた?
そこまで考えてから体に震えが走る。
寒い
私は安心したかった
急いで腕輪を外してからネルヴァの所まで行って抱き着く
「ご主人様、一体どうなされたのですか?」
ネルヴァの暖かい声が聞こえる。とっても安心する。
変わらぬ味方、絶対に裏切らない信頼できる存在、
不変の存在は貴重だ。
特に今はそう思える。
魅了系の状態異常
さっきの私の状態を表すならそうだろう。
ゲームの時の魅了状態と言えば、攻撃力の低下、魅了をかけてきた相手に攻撃しようとした時体がうまく動かない、という程度だった。
ダメージをくらえば魅了状態が解けるのであまり怖い状態異常ではなかった。
それが今ではどうだ。
魅了は精神干渉系の状態異常と言える。
心がいじられるのだ。恐怖でしかない。
人は経験があり、心が作られる。
経験が違えば心も違うしそれは全くの別人だ。
それでは心がいじられた人は同じ人だと言えるのか?
少なくとも私の中では同じではない。
私が私でなくさせられる。つまりアイデンティティーの崩壊
ああ、寒い
ネルヴァに一層引っ付く
一度変えられた私は変わらないネルヴァに引っ付き安心感を得る。
今はあの暫定国王の少女に愛情を感じたりしない。
そこが唯一の安心できることだ。
装備品の「公平な無公平」の状態異常無効が効いたのだろう。
おそらくゲーム中の状態異常無効系は耐性とかそういう感じになってるのだろう。
この世界がどれほどファンタジーな世界だとしても、
ヘアピンがすべての毒を無効化してくれるとかはさすがに無理なんだろう。
暫定国王の少女が何か話しかけてくる。
今はネルヴァ以外と関わりたくない。
「ネルヴァ、人がいないところに行って。」
「分かりました。あの腕輪は回収しておきますか?」
ネルヴァの指す方を見るとあの聖者の腕輪が。
震えが止まらない。私を一時とはいえ変えた腕輪。
ただ放っておくのも怖い。
「回収しといて」
「はい、分かりました。ではつかまっていてください。」
ネルヴァが暫定国王の少女に何事か言う。
少女の声が聞こえないようにネルヴァに頭を押し付ける。
そうしてネルヴァは王宮から去って行った。
こうして暫定国王とソニアの会談は終わった。




