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「まだ、逃げるんだ」
追い込まれた袋小路、私は後ろからゆっくりと足音を立てて歩み寄ってくる彼を睨みつけた。
「当然」
それでも口元に笑みを浮かべたのは私の最低限の矜持。
「あの頃は、」
彼が帽子のつばを下げて、表情を隠す。
「こんな風に会い見えるなんて考えたこともなかった」
「どちらかというと」
袋小路の一番奥、壁を背にして私は彼に笑みを向けた。
「立場、逆のほうがしっくりくるでしょうね。あの頃の私たちだと」
顔を上げて私を見つめた彼の目には驚愕の色。こんなところで笑うのかとでも問いかけたげな顔に、自信を持って笑って見せる。
「でも、今の私は、あの頃の私とは違う」
頭上できらりとガラスが光を反射した。彼ははっと上を見る。あっという間に降りてきたワイヤーを掴んで私は笑う。
「さよなら、できればもう会いたくないわね」
「必ず、捕まえる」
彼が言い切る前に、強い力に引かれて私は地上に別れを告げる。彼らには私たちを傷つけることは許されていても、その命を害することは許されていない。
有利なように見えて不利な関係。
「首を洗って待ってろ」
見上げる彼の目がやけに瞼に焼きついた。




