〈file3〉はじめてのご依頼は
「えっと……こちら「8-Signal」です。救急ですか?迷子ですか?」
ヘッドセットの向こう側に意識を集中させながら、未宙はおずおずとマイクに声を乗せた。
初めての受電に胸の動悸が早まり、隣で見守る星凛へ思わず視線を泳がせる。
『ひっ……ぐすっ……。うっ……』
「……?もしもし……?」
しかし、耳に届いたのは、今にも消えてしまいそうな幼い少女の泣き声で未宙も困惑してもう一度訪ねる。
『お母さんがどこか行っちゃって……。近くに誰もいないから……』
「あ、え……と、とにかく落ち着いて。……まずはお名前を教えてもらっても良いかな?」
未宙はデスクの上でぎこちなくペンを握り直し、声音を少しでも柔らかくしようと呼吸を整えた。
「……葉奈」
掠れた小さな声が返ってくる。
未宙はウィンドウに「はなちゃん」と殴り書きした。
「葉奈ちゃんだね、ありがとう。じゃあ葉奈ちゃん、周りに何か見える?」
少しでも情報を引き出そうと、未宙は身を乗り出すようにして問いかける。
『……シール』
「シール?」
『赤いシールが見える……。丸と三角のマークが書いたシール……』
不穏な手応えに、未宙の背筋を冷たいものが走り抜ける。
「丸と……三角……。他には何か見えない?」
『……ううん、見えない……』
「そっか……。……GPSが稼働してない……。電波障害か……?」
未宙は眉をひそめ、コンソール画面に目を向けた。
通報者の位置情報を特定しようとシステムを叩くが、マップ上のカーソルは無情にも点滅を繰り返すだけだ。
「……丸と三角……。未宙。今その子がいる所がどこかもう少し詳しく聞いてくれる?」
背後からスッと差し込まれたのは、いつになく真剣な星凛の声だった。
「え、あぁ。……葉奈ちゃんは今どんな所にいる?変な音とか、壁の色とか、何でもお兄さんに教えてくれると嬉しいな」
『……外が見えるの。木とか、色んなお家が動いてる』
星凛の指示を受け、未宙は努めて優しく、語りかけるようにマイクへ言葉を紡ぐ。
「動いてる……!?家とか、木が!?」
思わず声を張り上げた未宙に、星凛と水瀬の視線が一斉に突き刺さった。
やりにくい、そんな顔をしながら、もう一度意識をヘッドセットの向こう側へと向ける。
『うん。……あ、家見えなくなっちゃった。今度は大っきな建物だ……』
「移動してるのか……?」
未宙の呟きに、星凛が弾かれたようにキーボードを叩き始めた。
「……何かに乗ってるのかな……?兄さん!この辺りで今運行してる無人バスを調べてもらっていい?もしかしたら故障して閉じ込められてるのかも!」
「あぁ、今問い合わせている所だ。……よし、掛かった。どうやら五車両程運行している様だ。……でも」
モニターに複数の運行データを高速で表示させながら、和李の表情が険しく陰っていく。
「でも?」
星凛が聞き直すと、和李はこちらを見ながらゆっくりと顔を上げてきた。
「子供の目撃情報や故障していると言った情報はない。それ、本当に無人バスか―――?」




