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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第4章 南部奪還と奴隷少女

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第87話

雨音だけが倉庫の中に響いていた。

目の前にいるのは、やたらと自信満々な少女……


(……巫女って言ったか?)


そう名乗った少女を見ながら、俺はしばらく黙っていた。

先ほどまで倉庫の中を逃げ回っていた。

正直、巫女という言葉から想像する人物像とは随分違う。

自然と首を傾げてしまう。


「信じてへんな?」

「……信じる要素がない」


即答すると、サクレは不満そうに頬を膨らませた。


「ひどない?」

「ひどくない。むしろ今の状況で信じる方が危ないやつだろ?」


社には巫女がいる。

街の住民も、ギルド職員もそう認識している。

そんな状況で突然現れた女性が『私が本物です』と言ったところで、はいそうですかと信じられるはずがない。


「証拠は?」

「……あるわけないやろ?」

「ないのかよ」


思わず突っ込む。


「せやな。種族で言うなら黒エルフやな。肌黒いやろ?」

「……ああ」

「で、巫女っていうのは黒エルフなんや!」

「……ああ」


こっちの反応が鈍いことが感に触ったのか、自称巫女ことサクレは地団駄を踏む。


「まあええわ。巫女の証拠やろ?あるにはあったんやけど……全部奪われてもうた」

「奪われた?」

「せや。いっちゃん分かりやすいのが能力やろな。岩龍様と交信できる能力。今はもううちのやない」


サクレの声から軽さが消えた。


「それは聞いたことがあるな。巫女ならロックドラゴンを動かせるんだろ?」

「操るって言い方は好きやないけどな。あくまでお願いする立場やし」


サクレは少しだけ目を伏せる。


「けど、今は無理や」

「……何故だ?」


しばらく黙り込んだ後、サクレは腕に巻かれていた包帯へ手を掛けた。

ゆっくりと布を解いていく。

その下を見た瞬間、思わず眉をひそめた。

傷だらけだった。

注射器の針がされたような傷や、魔法陣の焼きを入れようとした傷等、見れば見るほどいたいたしい。


「……なんだ、それは?」

「これが奪われた証拠やな。巫女の力を奪われた時の傷や」


サクレは淡々と言った。

だが、その声は少し震えていた。


「巫女の力は、代々うちの家系に受け継がれてきたんよ。岩龍様と街を繋ぐための力。ロックドラゴンに声を届けるための力」

「……それを奪われた?」

「せやで。まあ理由は分からんでもないけどな」

「……誰に?」


サクレの軽い言葉とは裏腹に、表情が暗いものに変わった。

そこにあるのは悔しさや怒り等の負の感情。

色々なものが入り混じっている。


「……叔母様や」

「……叔母?」

「うちの母の妹。今、社にいる巫女はその人や」


衝撃の事実が判明した訳だが、それを鵜呑みにすることも出来ない。

信じるに値するかどうか、話の続きを促す。


「叔母様も昔は巫女様やったんよ。巫女はうちの家系から選ばれるんやけど、選ばれん人も多くて、な?叔母様の娘はんも候補の一人やったんやけど、うちが選ばれてしもうてん」

「……巫女に選ばれるのは何かあるのか?」

「分からへん。うちやって好きで選ばれたわけやないしな。それから、叔母様から嫌がらせされてん」


サクレは首を横に振る。


「叔母様の娘は自由になって外に出てもうたから、余計やったんやろな?叔母様が"巫女はうちのや!"いうて荒れ始めたんわ」

「……その、巫女ってのは奪うなんて簡単にできるものなのか?」

「普通は無理やろな?」


即答だった。

サクレはあっけらかんと答える。


「ようわからんけど、スキルやら能力を奪える術を見出したんちゃう?知らんけど……」


そこであるものが繋がり始める。

勇者の雫に研究施設、そして、能力を奪う技術。

もし、この街で起こっていることがその技術を使っているとしたら、裏にいるのは魔王になる。


「……お前はそれで逃げたのか?というか、よく逃げれたな」

「そんなん、必死に決まっとるやん!めっちゃ痛いねんで?死ぬか思うたわ」


サクレは包帯を巻き直しながら言った。


「……やっと逃げだせたんや。もう捕まりとうない」

「……逃げる先に思い当たる所はあるのか?例えば、ギルドとか?」

「行けるわけないやろ」


サクレは首を横に振りつつ、苦笑した。


「ギルドかて、叔母様の手の内や。下手に巻き込んで関係ない人に迷惑かけるんわちゃうやろ?」

「……倉庫に隠れたのは?」

「ここなら誰にも迷惑かけへんやろ?何かの荷物にお邪魔させてもろて、外に出れるかもしれへんし」


そう言って、サクレは少しだけ視線を逸らす。

サクレもこの街から逃げたいと思っているようだ。


(……なるほどな。言葉に嘘はないようにみえる。これは白かもな)


もし社にいる巫女がサクレではなく、力を奪った叔母だとすれば、巫女の異変についての辻褄は合う。

だが、まだ証拠はない。


「信じた?」


サクレがこちらを見る。


「少しは信ぴょう性が高くなったとは思う」

「それでも十分や」

「……叔母様は巫女と間違えられているが、若返ったりしているのか?」

「んなわけあるかい!ま、腐ってもエルフやからな。若々しいのは種族的なものやな」

「……そんなもんか」


その時だった。

ガタン――

倉庫の外から何かが倒れる音がした。

サクレの顔色が一瞬で変わる。


「……あかんかも?」

「……どうした?」

「追っ手やろな。休む暇すらあらへんわ」


空気が変わった。

さっきまでの軽口が消え、サクレは本気で震えている。


「……なんで分かるんだ?」

「これでもエルフやからな。魔法系は得意やで?探知の魔法は逃げるんなら、基本やろ?」

「……何人だ?」

「ごめんやけど、そこまで詳細には分からへん。今のうちはか弱い女の子やもん」


ぶりっ子ポーズをして少しでも空気をわざと重くしないようにしている。

そんな健気な気遣いをしつつも、よく見れば手は恐怖で震えている。


「……乗っかかった船だ。助けてやる」

「あんたは関係ない!逃げな!」


サクレは必死にこの現状に関わらせないよう説得しようと試みてくる。

が、この状況をみれば、今まで話してくれたことは信じてもいいと思えてくる。

そして、サクレは"助けるべき"少女だ。


「うちは慣れとる。隙を見て逃げるから」

「……知らん!もう、サクレは助けると決めた」

「何でや!」

「……頑張ってるやつを見捨てるほど、腐っちゃいないさ」

「……セリフだけは男前やな。せやけど、ホンマに逃げて。これ以上、誰かが傷付くのはいやや!」

「……ちょうどいい運動にはなるさ」


サクレが呆然とした顔をする。

直後、倉庫の扉が勢いよく開いた。

雨音と共に、数人の男たちが入ってくる。

全員が武装していた。

装備からすると正規兵というより、巫女直属の私兵といった雰囲気だ。

男の一人がこちらを見て目を細める。


「……どちら様でしょうか?サクレ様をこちらに渡していただけると助かりますが」

「……渡すと思うか?」

「そうですか……残念です」


やはり話し合う気はないらしい。

話していた男がハンドサインを送ると、男たちが一斉に動く。


「……背中に隠れてろ。大丈夫だ」

「は?何言うてん!こんな人数――」

「すぐ終わる」


あちらから向かってくるのであれば好都合だ。

相手の力を利用して無力化すればいい。

一人目が剣を振るうが、手首を取り、捻る。

剣を落とさせ、腹へ一撃。

加えて、腕を捻り、剣を振るえないようにしておく。

二人目が槍を突き出すが、そのまま柄を掴み、引き込む。

体勢を崩して前のめりになったところに足払いし、受け身を取らせない倒れ方で行動不能にする。

三人目は短剣。

面倒な武器ではあるが、相手が距離を詰めてきたところを剣と同様に腕を掴み、無力化する。


(……大したことはなさそうだな)


残りの男たちが足を止めた。

想定外だったのだろう。

だが、止まった時点で終わりだ。


(……残りは突っ込んでこないのか。【ゼロ】――)


相手の力を【ゼロ】にして、武器を保持できないようにしていく。

全員が軽装でありながらも鎧を着ていることから、倉庫の床に男たちが次々と転がっていく。

殺してはいない。


「……終わったぞ」


振り返る。

サクレは口を開けたまま固まっていた。


「……え?なんなん?めっちゃカッコいいやん」

「……そうか?」

「惚れてまうやろ!こんなん!」

「……ちょっと落ち着こうか」


サクレは倒れた男たちを見回す。


「ピンチに現れる勇者やん!あかん!惚れてまう!好き!抱きついてもええ?」

「……うん。落ち着こう」

「落ち着かれへん。え?めっちゃ運命やん!」


すると、サクレは急に頬を赤くして視線を逸らす。


「……あかん。顔が赤いのが分かるわ。そや、名前なんて言うん?」

「……ゼロ、だが?」

「ゼロ様やね。うち、サクレ。今後とも清いお付き合いをお願いします!」

「……おい。少し落ち着こうな?」

「いやや!旦那様やもん!」


サクレの暴走は加速しそうな感じがする。

しかし、追っ手がかかっている今、それどころではないだろう。


「とにかく、仲間が来る可能性もある。移動するぞ」

「……どこへ?まさか、二人になれる場所?あかんて。まだ早い――」


――ポカン


「ギルドだ」


ついついツッコミを入れてしまった。

サクレの顔色が変わる。


「あかん。ギルドにも敵がおるかもしれへん」

「……ここよりは安全だろ?」

「……旦那様も一緒?」

「旦那様じゃないが、一緒だな」


そう言うと、サクレは言葉を詰まらせた。

サクレは黙ったままこちらを見る。

その目には迷いがあった。

だが、少し冷静になれたのか、ほんの少しだけ希望も混じっているように見えた。


「……変な人やな」

「……そうでもない」

「そんな旦那様も、ス、キ!」

「……置いてくぞ」


サクレは小さく笑った。

雨はまだ降り続いている。

俺は倒れている男たちを縛り上げ、使えそうなものを取り上げた。

サクレは頷いき素直に着いてくる。

色々と予想外ではあったが、ようやくピレネの異変の中心に、手が届き始めていた。

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