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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第4章 南部奪還と奴隷少女

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第86話

ピレネの街を歩きながら、俺は小さく息を吐いた。

アズラたちと別れてから既に二時間近くが経っている。

『異世界人の痕跡を探す』――

そう意気込んで街へ出たものの、正直なところ完全に行き詰まっていた。


「……そもそも何を探せばいいんだ?」


当てもなく歩きながら、思わず呟く。

アズラも言っていた、判別の手段はない――。

転移者も転生者も、見た目だけで判断する方法はないらしい。


『私が知りたいくらいですよ』


苦笑しながらそう言われた時点で、この調査の難しさは理解していた。

容姿として日本人なら黒髪が多いだろうが、だから異世界人か?

――違う、この世界にも黒髪はいるらしいし、それだけで判別はできない……

この世界にない知識を持っていれば異世界人か?

――ある意味正しいのだろうが、どう確認する?それこそ、警戒して話さないことも考えられる……

日本人らしい名前か?

――違う、俺のように違う名前を名乗っている人がいる可能性もあれば、転生者なら名前は現地のものになるだろう。

では、日頃の行動か?価値観か?常識か?

そこまで考えて、一度頭をリセットするために首を振る。

それこそ、人によるし、日本人、異世界人だから全員が同じ考え方をするわけじゃない。


「……結局、俺は何をしたいんだ?」


まずは一つ一つ紐解きをしてみる。

今は闇雲に何かを探している状態だ。

それは、犯人像がないまま聞き込みをしているようなもの。


(……高橋の失踪から変死。行方不明者だった藤堂が関わっていた組織)


高橋の失踪から変死については、アズラの証言からどの街に行ったのか調べるところからでないと、変死の原因にたどり着けないだろう。

そういう意味では、ピレネに高橋が来ていたか確認するのは必要と言える。

藤堂が関わっていた組織はラグナードだ。それがこの街まで手を伸ばしていたら、色々見つかる可能性はある。

しかも、その組織は"勇者"を探している、ときた。

それこそ、異世界人の可能性は高い。


(……その他の異世界人もここに召喚されていないかの確認は取れるといいんだが――整理できてきたな)


きちんと頭の整理も済んだところで、まずは足を使って聞き込みだ。

最初に話を聞いたのは露店の店主だった。

果物を並べている中年の男である。


「……ちょっと変わった人、ね」


怪訝そうな顔をされた。

そんなことを聞いてくる客なんていないから、しょうがない。


「……旅人でも構わない。聞いた話でも。変わった奴、というか、変わった服とか言葉とか話しているやつでも構わないぞ?」

「変わった奴なら毎日見るぞ。頭のイカれた奴ばかりだからな。冒険者なんて大体変だろ?」


思わず苦笑する。


「……冗談はさておき、分からないな。この街は閉鎖的な所だから会ったことのない人ってのは目立つもんだが、そんなこともないな」


結局、そこでは何も得られなかった。

次は鍛冶屋、その次は宿屋。

酒場や商店の話を聞けば聞くほど、むしろ分からなくなる。


例えば「黒髪の男ならいたぞ」、「珍しい服の女なら見た」、「変な言葉を話す奴もいたな」などなど……

どれも話を詳しく聞けば、異世界人への手がかりとは言えず、身内の話であったり、酔った時の話だったりした。


「……駄目だな」


昼を過ぎる頃には、この街に異世界人は来ていないという結論に近い感情が芽生えていた。

この街はと街らかといえば閉鎖的というより、観光地ではないのであまり人が立ち寄らない。

たまに来る旅人であっても、岩龍様への礼拝が目的だったりして、街の人からすると「前にも見たことある人」となる。

……もし異世界人で可能性があるとしたら、「この街に溶け込んでいて判別できない」という可能性は高いだろう。

ただ、そんな人物を探して、話を聞くのは違う気がする。

隠れたいと願っているのであれば、それもまた尊重しなければならない。

ただ、どういう経緯でここに来たのかは、会えたら聞きたいところではあるが……


「……ひとまず、ここまで、だな」


愚痴が漏れる。

だが、無意味ではなかった。

この街には表立って異世界人が関わっていないというだけでも、貴重な情報だ。

そんなこんなで聞き込みを続けながら歩いているうちに、周囲の景色が変わっていた。

人通りも少なくなり、いつの間にか倉庫街へと足を踏み入れてしまったようだ。


「……こんな場所もあるだな」


ここはピレネの街の北東にあたる場所だろうか。

詳しくは分からないが遠くに見える大きな正門を基準に考えるとそんなところだろう。

倉庫街は静かで、時たま馬車が荷降ろしに使っているようだ。

それぞれの倉庫には商会のエンブレムらしきものが彫られている。


(……行ったことがない場所ってのはワクワクするよな)


周囲を見回す。

街外れの倉庫街。

荷物を運ぶ人夫たちの姿もあるが、昼を過ぎたこともあって人影は少ない。

その時だった。

ぽつりと、頬に冷たいものが落ちる。

空を見上げると、いつの間にか曇っていた。

山の天気は変わりやすいと聞いたことがあるが、これはいきなり来そうな予感がする。


「おいおい……」


近くの倉庫の庇の下に逃げ込むと同時ぐらいに、一気に降り始める。

バケツをひっくり返したスコールと言ってもいいぐらいの、結構な勢いだ。


「……ここで濡れたくないな。最悪」


庇の下でやり過ごすのも限界がある。

出来れば倉庫の中に入ってやり過ごせればと、近くを見回す。

すると運良く、向かいの斜め右の倉庫の扉が半開きになっていた。

走ればあまり濡れずに済むし、雨宿りくらいなら問題ないだろう。

そう判断して中へ入る。

倉庫の中は薄暗かった。

積み上げられた木箱、縄、使ってない荷車。

倉庫に保管されているものは、無臭のため、食料品の類ではない。

入口付近で壁にもたれながら雨音を聞く。

屋根を叩く音がやけに大きい。

しばらく待てば止むだろう。


――ガタン。


倉庫の奥の方で音がした。

ネズミや動物が侵入してきた音にしては大きく、反射的に顔を上げる。

視線を奥に移すと、何かが動いた。


「……誰だ?」


ちょっと大きめの声で呼び掛ける。

返事はない。

だが、確かにいた。


(……泥棒か?とはいえ、何となくだけど、この商会の商品、盗むようなものでもないよな)


近くに空いている箱の中身を確認してみると、生活用品の蝋燭や燭台、お皿などの食器類など、生活用品を扱っているように思う。

……わざわざ盗んでまで、と思えるラインナップだ。


「……おい!」


再度、大きめな声で呼びかけると、その侵入者はなんとか逃げようと移動を始めた。

思わず音のする方へ追いかける。

音だけを頼りに、木箱の陰へ飛び込んだ人影を追う。

だが回り込んだ時には既にいない。


「……あれ?」


今度は反対側から音。

振り向く、が、逃げ足は早いようだ。


「待て!」


完全に追いかけっこだった。

しかも速い。

障害物を上手く使って、こちらの妨害をしつつ走る。

よくもまあ、倉庫の構造を使って、配置を活かした逃走経路を考えていたものだ。


「……衛兵じゃないから。少し話を聞きたいだけなんだ」


追いかけっこをしたい訳じゃない。

むしろ逃げる速度が上がった。


「くそっ!」


思わず叫ぶ。

その瞬間、ガラガラと音を立てて木箱が崩れてきた。

慌てて避ける。

完全に事故だろうが危ない。


「待てって!」


この先は行き止まりだと、刑事の勘が囁く。


(……このまま追い詰めるか)


人影が驚いたように飛び出る。

相手もこのまま進むと袋小路になると分かったのか、逆に向かってくる。

意表を突かれたものの、冷静に対処すればいい。

相手の動きを読んで、窃盗犯を現行犯逮捕する時のような拘束術で捉える。

そこには、フードを被った小柄な人物。


「……ふう。捕まえた」


相手の腕を拘束しているものの、激しく抵抗された。

だが逃がさない。

もみ合った拍子にフードが外れる。

長い髪の若い女性だった。


「……お?女性……?」


思わず声が出る。

向こうも固まっていた。


「……は?なに?」


めっちゃ嫌な顔をされた。

数秒の沈黙。

互いに状況を理解できていない。

先に口を開いたのは俺だった。


「……誰?」

「……それ、こっちの台詞なんやけど」

「いや、先に逃げたのはお前だろ」

「知らん男に追いかけられたら逃げるやろ!しかもこんなにプリティな私を!いや~、お、か、さ、れ、る~!!」


いきなりなんてことを言っているのか……

思わず頭を叩いてしまった。


「誰がこんなお子ちゃまを犯すか!」

「あ~、お子ちゃまなんて差別だ~。いけないんだぞ~!」


――パシン


「また、叩いた!!」

「ちゃんと話をしてくれたら、叩かないぞ!」


全く会話が噛み合わない。

なんとも漫才をさせられている気分だ……


「……落ち着け」

「落ち着いてます!落ち着いてないのは、あんた!」


――パシン


「こんな幼気な少女を何回も叩いて……やっぱり、わ、か、ら、せ、ら、れ、ち、ゃ、う??」


――パシン


「……いいから、ちゃんと話そうか!」


落ち着いてない。

どう見ても落ち着いてない。

女性は警戒したまま少し距離を取る。

そして、意を決したように口を開いた。


「……ほんなら、ちゃんと話そか?私は、巫女やで」

「は?」


思考が止まる。

今なんと言った。

巫女?

女性は真剣な顔のまま続ける。


「……嘘やって思ったやろ?信じてもらえないと思いますけど……」


小さく息を吸う。


「うちが巫女のサクレやで!」


雨音だけが倉庫の中に響いていた。

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